第45話 吹けよ風、呼べよ嵐。

私事ですが、この曲好きなんですよ……

ブッ〇ャー自体は怖くてそこまででは無かったのですが(笑)



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 マクエルの悲劇をとんと知らないクリンは、翌日から村での仕事を再開させた。本当は一気に作業を進めたいのだが土器の乾燥に時間がかかるし、他の作業をしたくても加工に使う道具で一番重要なナイフがもう限界に近い。


 刃こぼれが多いし研いでも直ぐに切れなくなってしまう。無理に使ってナイフをダメにしてしまう訳にも行かないので、大人しく土器が出来上がるまでは作業は中断する事にしていた。


 早朝に村に向かうと手製石鹸とリン酢により別人クラスに身綺麗になってしまった少年を、村の住人達はヒソヒソ、ポショポショと囁き合っていたが、当のクリンは自分の容姿には特に頓着していなかったので、不思議そうに首を傾げただけだった。


 その日はこの時期定番の雑草抜きと小石拾いの仕事をし、給金と言う名の駄賃を貰ってやはり昼過ぎには仕事を切り上げ小屋に戻った。


 ブロアーにする土器と先に作ったレンガの乾燥具合が丁度良かったので、この日から順次焼いて行く事にする。


 とは言っても現代陶器の様にちゃんと温度管理をする様な物では無く、もっと原始的で単純に、穴を掘って薪を敷き詰めて火を点け、その中に順次放り込んでいくだけだ。


 焼く時間も短く、三十分強位だ。焼いた土からチリチリと音がして来たらそれで完成。火箸代わりの枝二本で挟んで火の中から取り出す。


 当面だけ使えれば良いと割り切った仕様であるので、そこまで長時間加熱して強度を出す必要が無い。お陰で短時間の焼成で済んでいる。


 短時間で低温の焼成であるので焼き上がった土器やレンガは土質と相まって白っぽい色をしていた。所々煤で黒くなっているのがご愛敬。


 次々と焼いては取り出しを繰り返して行くが、流石に全て綺麗に焼き上がる訳では無い。ブロアーの本体やパーツ、その他の小物は無傷で仕上がったが、レンガと皿にしようと思って焼いた物は三割位が途中で割れてしまっていた。


「ああ~……流石に完全成功とはいかないかー。実際に使う予定の物は成功しているから、それで御の字とするかなぁ」


 間に合わせの焼成なのでどうしても焼きが甘く、焼いている途中で割れるだけでなく冷める過程でヒビが入って割れたりした。


 それを見越して追加のレンガや皿を作ったのだから少年的には問題は無かった。

「肝心のブロアーは、と……う~ん、乾燥と焼成で少し歪みが出たかなぁ。微妙にパーツとの隙間が出来ているし……でもまぁヒビも無いし割れも無いから大丈夫かな」


 生粘土の状態で完全な形に出来ても乾燥と焼成の過程でどうしても収縮率に差が出てしまう。その辺は土器も陶器も変わらずに難しい部分である。


 しかし十分使用には耐えられそうであるので、コレで完成と言う事にする。外側は。それからはブロアーの中身を作る作業に入る。


 後は残りのレンガや皿を焼くだけなので、他の作業と同時に出来るのが有難い。

 ブロアーの中身と言っても構造自体は単純だ。水車の様な羽を幾つか作って回転させれば良いだけである。


 先ず軸となる二センチ程度の太さの枝に、それよりも細い枝二本で挟んで蔓で作った紐で結びそれを四本、*の形に結わえるだけである。


 時々手を止めて火力の調整をし、焼き上がったレンガを取り出し、代わりのレンガを火の中に放り込みながら作業を続ける。


 そして前後で挟み込んだ枝の間に、以前採集して乾燥させておいた大きな葉っぱを挟み、もう一か所作った*型の枝の間に通す形で水車の羽代わりにする。


 本当は一枚板を挟みたい所なのだが、その板を加工する為のナイフが使い物にならない。強度的には不安がある物の今回だけの事と割り切り、丈夫そうな葉を乾燥させて更に重ねる事で強度をある程度確保していた。


 それでもその辺の枝と枯葉である。壊れやすい事に変わりは無いのだが、だからこそ問題はない。材料も構造も単純な物なのでスペアを作って交換すればいいだけだ。


 クリンお得意の、無いなら作ろう、作れないならある物で何とかしよう、何とかならなければでっち上げてしまえ、の精神である。


 ココまでの加工と焼成で辺りが暗くなりかけたので作業を切り上げる。レンガは雨も降りそうも無いのでそのまま放置する事にした。どうせ冷めるまで放っておくしかない。


 まだ明るい内に湯を沸かし、ここ数日の恒例となっているなんちゃって風呂を堪能し、コレも恒例となったストレッチを済ませて何時も通りのクリン的麦粥、実情ライ麦粥に残り少なくなった油かすを入れて夕食を済ませる。


 その後は眠くなるまで、竈の火を灯りにブロアーの内部構造の加工を続けた。


 そして数日後。クリンが待ちに待った時がやって来る。鍛冶作業の開始、その日の到来だ。


 流石にそう頻繁に仕事を休む訳には行かないので、今回は仕事を切り上げて余った時間を使っての作業だ。


 ブロアーは完成し、設置も済んでいる。送風用の管は腐っているので使い物にならない。今回は粘土を盛って穴を通して配管代わりにしてある。


 ブロアーの動力は当初ハンドル式にするつもりであったが、ナイフが使えなくなり加工が難しくなったので紐巻き式に変更した。


 都合のいい事にラードがたっぷりあるので、グリス(潤滑油)代わりに軸と軸受けになる部分に塗り、拾い集めた薪で良い感じの太さの物を組んで滑車代わりにし、軸に巻き付けた蔓紐を引っ張る事で回転を作り、ヨーヨーの原理で紐が巻き取られる仕組みにした。


 この方式は一瞬動きが止まるタイミングが出来てしまうが、ラードのお陰で滑りが良く回転効率が高くなったので、結果的には良かったと言える。


 そして、平炉には既に自作の薪が敷き詰められている。


「ああ……ここまで来るのに五年……ようやく……ようやく鍛冶作業が出来る……あ、まぁ流石に五歳で鍛冶作業は早いと思うけれども……でもこの世界で生きて行くならやはりコレが出来ると出来ないと出は大違いだよねぇ……」


 焚きつけ用の木端に火を点けて、それを炭の中に落とし入れる。暫くして焚き付けから炭に火が移り赤く燃えだし始める。


 その頃合を見計らい自作のブロアーを起動させる。と言っても蔓紐を引っ張るだけだが。


「ほっ、と!」

 掛け声と共に紐を引っ張れば「ブーーーン」と言う力強く羽の回る音が発せられる。途端に火床の中の炭がパチパチと音を上げて爆ぜだし、赤々と燃え始める。


「よっしゃ、ちゃんと機能してるっ! 出来ると分かって居ても初めてだとどうしても心配になるんだよなぁ」


 知識は実践しなければ意味が無い、とは良く言った物で頭でわかって居てもそれが出来るかどうかまでは実際にやってみるまでは不安が付きまとう物である。


 これで自分の知識とそれによる改良は立派に機能する事が実証された。そう思うとがぜんやる気が出て来るクリンである。


 木の枝で炭の位置を調整しつつ蔓紐を引っ張りブロアーで空気を送る。しかし知識はあっても体は五歳。何度も紐を引っ張れば腕が疲れて来る。


 そこで彼は草サンダルを脱ぎ裸足になると、蔓紐の後端に小枝を結び付け、その枝を足の親指と人刺し指で挟み込む。そのまま足を器用に後ろに振り抜けば——


 ブィィィィィィンと音を立ててブロアーが唸る。確かに子供の彼の腕力は大した事が無いが、元々脚力は腕力よりも強い上に普段から仕事や趣味(?)の夜間徘徊で歩き回っており自然に鍛えられている。


 体力勝負の鍛冶仕事でそれを使わない手はない。だからこそクリンは最近になって幼児期特有の柔軟性を失わないよう、ストレッチなぞを始めて柔軟性を高めようとしていた。


 片足立ちになり蔓紐を引きながら両手で掴んだ木の枝で器用に炭の位置を調整し始める。


 どこかの未来で少年な男の子の様なコミカルな態勢だが本人は至って大真面目だ。無理を通して道理を引っ込めるのならこの位の芸当は必要だとクリンは本気で思っていた。

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