旅打ち

「名古屋ですか!」

 唐突に誘われて聡は仰天した。今日は1月10日、普段なら正月営業も終えてもう開け返している頃なのだが、いつもの店はもとより、カズが持ち駒にしている3店舗ともガチガチに閉めたままなのだ。こんなことは珍しいらしい。

 そこで新台が出回るのが早い名古屋に行こうというのである。

 聡はカズにすがりつく。カズが旅打ちに誘うなんて、よほどの新台情報を握っているに違いない。さっそく聡はアパートに帰り、準備にとりかかる。

 カズは自分の車を持っている。軽自動車の茶色のワゴン車である。なんとその後ろの座席を外してマットレスをしき、寝ることができるようになっているのだ。そこへ聡も布団をしき、一週間分の着替えをバッグに詰め込み出発した。

「旅打ちって、いい旅館に泊まってとか思っていたかい。基本はサウナ暮らしだ。でも勝負がオーラスまでもつれ込んだら後ろでゴロンだ。仕事だから経費は極力抑えないとな」

名古屋へは金井もついて来るという。心斎橋の店が開かないので、金井も仕事が出来ないのだ。天満駅の下で金井が待っていた。金井を拾っていざ旅打ちに出発である。

「明けましておめでとさん」

 

 聡は免許は持っているものの完全にペーパードライバーだ。それで大阪を抜けるまでカズがハンドルを握る。阪神高速14号線から高速に入り、西名阪自動車道に切り替える。その最初のサービスエリアで聡と交代である。

「いきなり高速ですか、参ったな……ペーパードライバーなんすけど」

「慣れればすぐに思い出すさ」

10分ほど休憩を取った後、聡はびびりながら出発した。

「同じ店を行ったり来たりしているとうんざりするだろう。特に開けない状態が続いていると」

 どんどん後続車に追い越されながら聡が応える。

「5日間ほどそういう状態でしたからね。明日から少し休もうかと思っていたんですよ」

「おれもだよ。心斎橋があんなに開け返さないのは初めてだ。カズさまさまや」

金井が首を突っ込む。

 だんだんと運転に慣れてきた聡。アクセルを踏み込むとごちゃごちゃした大阪の景色は後ろへ遠のき爽快な気分になってくる。

 

 車はカズの指示で、名古屋ではなく、それより手前の大垣市方面へと向かった。

 その途中に、なんの変哲もない店が見えた。駐車場は車であふれ、繁盛している様子がうかがえる。聡はカズの指示で駐車場へ車を停めた。

 4時間ほどかかったか、午後4時だ。カズが車を降りながら言う。

「特Aランクの店だ。いつ行っても必ずどこかしらに開けているシマがある。手ぶらでお前さん達をこんなところまで連れてきやしないよ」

 店は大勢の客でごった返している。聡はまずマックス機を見て回る。しかしさほど開いてはいない。

 しかし次にミドル機を見て驚いた。客でいっぱいのシマの何台かは、まさしくヘソ釘が親指大ほど開いていた。千円28回くらいは回りそうな釘だ。

 すかさず煙草を投げ入れ確保する。千円にくずす間がもどかしい。3千円回して驚いた。86回転である。千円に直すと28.6回転だ。上々である。

 聡はカズに報告する。

「とりあえず28回転ありましたよ。びっくりです。そっちはどうですか」

「こっちは25~26回転だな。まあ今日はこれで良しとするよ」

 金井が血相を変えてやってきた。

「これまじグランドオープンじゃねーの?出しすぎやろ!おれの台いまんところ30回転まわってるで。お前、名古屋時代こんないい店で食ってたのかよ。凄すぎやで」

 聡は順当に一万円と少し使ったところで確変大当たりである。5回で終わったが、それでいい。ここまで回る台は初めてなので、持ち玉勝負が楽しみだ。

 回りは落ちない。時折ぼこぼこっと玉が絡みながら全て入り、いっしゅんで保留が満タンになったりする。

 結局聡は20回オーバーで7万円の勝ち。カズは4万円の勝ちで順調な滑り出しとなった。

「どうだった、今日の店は」

 真夜中、サウナに行く途中カズが聞いてきた。

「いやもう、新台じゃないんですよね、あれ。圧倒されました」

「新装開店の時は半端なく開けるぞ」

「もう、この近所に住みたいですよ」

 聡がそう言うとカズと金井が笑う。音楽を響かせサウナの駐車場に車を停めた。


 夏海からメールだ。また残業らしい。もう11時を過ぎている。

「もう死にたいくらいよ」

 いきなりとんでもないことを書いている。

「死ぬなんて言うなよ。心配するだろう。こっちもいろいろ考えてやるからさ」

「彼女か」

「はい、仕事がきついってぼやいているんです。残業がひどい時には10時までかかるそうなんですよ。完全なブラック企業らしいんです」

「おれだったら辞めさせるけどなそんな会社。後の生活は面倒をみてやる。SOSを出してるんだろう?救ってやんなきゃ。養ってあげろよ。それが男ってもんだ」

「どうした。痴話げんかか」

 金井が首を突っ込む。

「こいつの彼女がブラック企業に勤めていて、連日ハードな残業続きだそうなんだよ。金井さんならどうする?」

「そりゃー助け出してやんなきゃな。カズが言う通り男がすたるぞ」

 聡は難しい顔をして聞いている。

「そんなもんですかね……」

 金井が腕組みをしながら言う。

「それが男の器量ってもんだ」

 三人はサウナへと向かった。






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