友達 〜矢筈森・安達太良山・薬師岳〜
早里 懐
第1話
いちねんせいに なったら
いちねんせいに なったら
ともだちひゃくにん できるかな
ひゃくにんで たべたいな
ふじさんのうえで おにぎりを
ぱっくん ぱっくん ぱっくんと
私の記憶する限り友達は100人もできなかった。
せいぜい20人程度だろう。
更に言うとその中でもいまだに付き合いのある友達は絞られる。
その絞られた友達という存在は、まさしくなんでも言い合える仲。
つまり"親友"と言える。
この様に子供の頃に形成された人間関係というものはかなりの強固な絆を持って今に受け継がれている。
その一方、大人になってからできる友達というのはとても稀有な存在と言える。
大人=余計なことをいちいち考える人
という方程式で表される通り、なかなか自分の腹の内を明かそうとしないのが大人である。
よって、大人になってから人と打ち解けるというのは結構難しいことなのだ。
この活動日記を読んでいただいている人は、ほぼ全員が大人であると推測する。
それ故に、上述したことについては少なからず同意をいただけるのではないかと思う。
いつもの様に前置きが長くなってしまったが、何を隠そう実は私も大人なのである。
大人の中の大人なのだ。
そんな登山2年生の私が今日、大人になってから出会った稀有な存在の友達と
あだたらやまのうえで おにぎりを
ぱっくん ぱっくん ぱっくんと
食しにきたのだ。
そんな彼とはかれこれ6年ほどの付き合いになる。
家族ぐるみでお酒を酌み交わすこともある。
出会いのきっかけを語るといつにも増して長文になってしまうし、そもそもこれは登山の活動日記であるため割愛したい。
尚、お前が一番そのことを理解していないだろうという意見は受け付けないため心の奥底にしまっておいてほしい。
そんな彼をひょんなことがきっかけで私は山に誘うことにした。
山の素晴らしさを共有してみたいと思ったからだ。
そんな彼も自然活動にはとても興味があった様で、私の誘いを快諾してくれた。
さて、どんな旅になるのかとても楽しみだ。
朝早くに彼を迎えに行った。
道中はお互いの子供のこと、子供の習い事のこと、仕事のこと、山のことなど様々な話をした。
大人になってから意気投合した間柄であるため、価値観が似ているのだろう、話が尽きることはなかった。
気づくとあっという間に本日の目的地である安達太良山の登山口に到着していた。
GWと言いつつも本日は平日だ。
想像よりも車の台数は少なかった。
私たちは準備を整えて出発した。
コースはいつも妻と登る際に辿る、安達太良高原スキー場からの反時計回りコースだ。
馬車道でも変わらず会話が弾む。
緩やかな登りがとても心地よい。
遠目で白いものが点在していることを視認し、
「雪がまだ残ってるね」と私
しばらくの沈黙の後その物体を正確に把握し、
「あれ土嚢じゃない?」と彼
天然物のボケに対して突っ込まれるという本来は妻が担うべき役割を本日は私が担当した。
この様に、いつもの妻の気持ちを察する会話を交え、しばらく歩くとくろがね小屋が見えた。
近づくと立ち入り禁止のロープが張られていた。
改装による営業終了前に一度宿泊したいと思っていたが、その思いは叶うことはなかった。
中には管理人らしき人が慌ただしく動いているのが見えた。
改装の準備をしているのだろう。
取り壊しが決まっているからだろうか、人の気配がする山小屋ではあるが、その佇まいはどこか物悲しさを感じた。
私たちは小屋の前で少しばかり休憩した。
彼からもらったお菓子で栄養を補給し、出発した。
ここからは今までのなだらかな馬車道とは一変して、急な登りが続く。
急な登りを越えると、今度は雪渓が姿を現す。
体に疲れは溜まっているが、変化に富むコースはそのことを忘れさせる。
雪渓を渡り終えて峰の辻に辿り着いた。
ここからは牛の背を辿る。
牛の背にも一箇所雪渓があったが、気をつけて渡れば問題はない。
この雪渓を越えるといよいよ爆裂火口こと沼ノ平とのご対面だ。
今日は雲一つない快晴だ。
その快晴の真下に広がる沼ノ平はいつ見ても異世界そのものだ。
突如モンスターが地中から出てきたとしても私は驚かない自信がある。
彼もこの景色を気に入ったのだろう、爆風が吹き荒れる中、しばらく眺めていた。
その後は安達太良山の頂上を目指した。
沼ノ平が見えなくなると先ほどまでの爆風が幻であったかの様に穏やかな気候となった。
安達太良山の山頂からは磐梯山、飯豊山、吾妻連峰を見渡すことができる。
とても素晴らしい景色だ。
私たちは安達太良山の頂上から降りて、山頂の広場でお昼ご飯を食べた。
しかし、おにぎりは買い忘れた。
よって、
あだたらやまのうえで カップラーメンを
ずるずる ずるずる ずるずると
食した。
今日も相変わらずに山頂で食べるカップラーメンは3割増しの美味さを発揮した。
食後はコーヒーを飲みながら景色と会話を楽しみ下山した。
下山道は雪解け水の影響から川と化していた。
また、小スケールの滝も所々に点在していた。
私たちは足元に注意しながら下山した。
私が山の感動を共有したのは彼が3人目だ。
1人目は私を山に引き合わせてくれた親友。
2人目は熊よけ担当である令和のステカセキングこと妻
やはり感動を共有するということはとても素晴らしいことである。
次は誰とどの山でどんな感動を共有できるのか?
人生楽しみが尽きない。
友達 〜矢筈森・安達太良山・薬師岳〜 早里 懐 @hayasato
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