第18話 vsヨガストロー❷
魔法ソード少女としてのさいごの覚悟。
3人は持ち合わせていたのか、
(覚悟? 覚悟なんて大それたものはないけどまぁ死なないように最善を尽くすべきなんじゃねぇかな、別に恥ずかしいもんでもないだろう? それでも及ばず死んじまった場合はまぁ…どんな顔してるんだろうなぁ)
(死んだら死んだで幽霊になるじゃん! 幽霊になったら自分の墓におっ墓参り〜〜〜〜!!! ま、ダイジョブだろ! 言っとくけど
(覚悟は…かっくゴーー! ──もうないよっぺ?)
覚悟を決めても決めなくても決まっていなくても、そのながい瞬間に走馬灯は流れる。
失せては、これだけ名残惜しいのだと主張するように────
さんにんおのおのにうかぶうかぶ…幸不幸ビジョンのツギハギれんぞくに、
一斉に黒い閃光が流れた。
『──下がってなさい魔法ソード少女』
その澄んだ勇ましい声に、未確認の敵ストローに見上げさせたのは確実に当てるためのフェイク。
まりょくコントロールで遠隔操作し狙撃、
魔法ソード少女から独立し飛行した追加カッチューのガトリングサークルスイッチから放たれた横殴りの一筋の黒い閃光は、3人の目の前に迫った黄金の悪夢を黒く塗り替え、まっさらに吹き飛ばしていった。
そして今その天の声は黒く舞い降りた。
「な、なんだ…!?」
「──なんだじゃねぇ……兵庫美人だ! 兵庫美人の女神様の降臨だぜこりゃァァ!!!」
「た、たすかっぺ……」
「どんな女神だ……マリティーの…魔法ソード少女……か。このタイミングで……救援…!!!」
天から遣わされた黒セーラーは振り向いた。
そのお姿は女神に違わない、うつくしさを持ち合わせる。
控えめに黒髪に飾られた一枚の白羽まで──おどろき見開きっぱなしの3人の目に今映る。
「あなたたちは何と戦ってるの、アレはストローには見えないけど一体何?」
クールな冷静な声は3人の開きっぱなしの耳にとどいた。
さっきまでの絶体絶命に顰めていた顔から一転、
痺れるタイミングで舞い降りた黒い女神に驚きの笑みを浮かべながら、カタナはすぐさま答えた。
「おーっいナイス兵庫美人の女神気をつけろぉそいつ強す──あ!?」
「そうみたいね」
まりょくを纏わせた剣は、
一瞬にて立ち直り向かってきた石拳のストレートを受け止めた。
会話中の不意をつく横槍に、剣は備えていた。
「はぁ!」
纏ったまりょくの質は何倍にも魔法ソード少女のりょりょくを高める。
電光石火のアタックを受け止めたならば、受け止められた側の判断は受け止めた側より寸秒遅くなる。
一瞬のうちに組み立てられた虹色の剣筋の連続に、締めの鮮やかな袈裟斬り。
スレンダーな女子に似合わぬチカラで吹き飛ばされた人型ストローを痛々しく刻み彩った虹色は、やがてまりょく爆発を引き起こした────
黒く咲き誇るまりょくの華はやがて明け────その身に解けた黄金のターバンを巻き直し、未確認ストローは黒セーラーの少女をにらみワラった。
▼
▽
この限りある果てのデータゾーンを舞台にお互い塗り替え合うように混じり合う黒と金の光景は、オーデオに属する魔法ソード少女3人の見も知らぬ異様。
もはや意味のない戦闘で壊れたメガネを外し、裸眼になったアメジストパープルの瞳はチラリと仲間の状態を確認した。
「おいカタナ、お前の言う兵庫の女神様ってのはご忠告のとおりもう割って入れるレベルじゃないぞ、鞘に手を置いてないで少し休め。さいわいあの仮称ヨガストローもこっちには興味が失せたみたいだぞ」
「あぁ…なんだありゃ…アレが本物の魔法ソード少女ってことか……よ。初めて見たぜ、あんなにヒトが動けるのか魔法ソード少女って…!!」
カタナは緑ブレザー服の腰に差した緑の鞘から強張り引っ付いていた手を離した。
カタナの青い瞳に映るアスファルト上で繰り広げられる演舞は、素人はそこで大人しくしていろと言いたげだ。
「今のうちに田舎に逃げるっぺ」
「堂々と宣言するな田舎娘、もっとも逃げたいのはやまやまだがな通信が復活しないと意味がないだろ、おそらく元凶はアイツ、得体の知れなさすぎるヨガストローだ……にしてもこりゃ……参戦しようにも私の把握されてない宝石魔法じゃあの速さは邪魔になるだけだな。(うちの馬鹿のカタナが万全なら手伝えるとは思うが……頑張りすぎたか……あとはペネロペの激励を使うタイミングが重要か)なんつぅ味方と──底知れねぇ敵だ…バイト代に見合ってねぇ…」
出番ではない……そう感じた傷付いたオーデオの3人はただただ祈り見守る、どちらに転ぶか未だ読めない勝負に。
「アッチャーーーー!!!」
「くっ…またきた炎!」
黄金に爆発する拳はまりょく剣で受けずに、後ろに跳躍しながら避けた。
アスファルトを砕き亀裂を走らせる並々ならぬ拳は、黄金の炎熱を天へと迸らせた。
あのままガードすれば相殺は並の魔法では不可、なんとか敵が拳へと移したまりょくの流れを察知し回避に成功。
(ガトリングサークルスイッチはまだ隠してある、気付かれていないなら使い所ね…せっかくならまだ見せたくはないわね……この敵はいったい…あの狙撃は完璧に直撃したはず…)
アスファルトに振り下ろされた拳はしゅーしゅーと白煙を上げる。
堂々と佇む黄金ターバンにシャルワニ姿の石肌は、見据える黒セーラーの少女にさっきまでのニヤついた嫌な笑みをやめ、老いた声でのたまった。
「強さを着飾るな弱き肉よ」
奇声以外をやっと発したと思えば、得体の知れない敵はとても不気味な挑発をしている。まるでそちらは彼女らを何者かを知っているかのように、堂々と余裕だ。
訝しみを深めたマリティーブランは、しかし怖けず言い放った。
「魔法ソード少女は弱くないッ──【ローファーコンベア】!」
魔法ソード少女の強さを知らしめるべく──挑んでいった剣はまた石拳と何合もぶつかり合い、
単調な剣劇に不意に変化をつけた、サマーソルトからのローファーコンベアキック。
接する面を魔法で急加速し飛び上がった軸足の左、そしてそのままの勢いで狙い打った顔面を削り上げるように蹴った出力を上げたローファーコンベアⅡキック。
お見舞いされた完璧なマリティーブランのプランは、
蹴り上げられようが抉られようがものともしなかった──石肌のタフさと異様さに攻略された。
少女の手痛い蹴りをもらい、またご自慢のターバンの解けた老人は鼻を長くしワラう。
「なん!?」
「【アヴァターラ】……アッチャーーー!!!」
解けたはずのターバンは不思議と鼻となり少女の蹴り上げた脚に巻きついた。
何が起きたのか充分に理解する間もないまま、ぶんぶんと回る長鼻に掴まれマリティーブランは彼の頭上を振り回される。
そしてそのまま巻き起こった黄金の風はフィニッシュへと向かう、異様に伸びた鼻はアスファルトのリングへと今叩きつけようと────
降り注いだ大量の泡粒は黄金の風の中心へと向かい────水色大炸裂。
「ナニぐるぐる戯れてんのよ魔法ソード少女さんが! ながっぱなーーーー!!!」
天より滴り降りてきた水剣は、やらしく伸びた長鼻を迷いなく斬り裂いた。
切り裂かれた鼻先は布の切れ端となり霧散。
窮地を天水に救われた黒セーラーは手をつきながらバク転し、体勢をととのえた。
「はぁは……ワンパターンね」
「つかれた第一声がそれじゃないでしょ。で、この……はなに? で? 出鼻からながっぱなとか意味不明なんだけど」
「水色あなたのレベルじゃ無理、下がってなさい──きたわ!!」
「そう言うとッ! あんたもどいつもォワンパターンね。【バブルポップ】」
とてつもない速さで近付いてきた象顔の人型は、自ら決めて出した速さにトマレズ水色に爆発した。
何が起こったのか、
それは単純かつ効果的。
ぷかぷかと浮かびその位置で賢くとどまる泡粒群は、生みの親マリティーポップを取り囲むように──
更に泡粒に号令をかけ、切先の先の、仕掛けられた罠に面を食らった象人間を襲った。
意表をついた水色魔法の攻勢にすかさず、マリティーブランは死角へと周り黒い刃で虹色の剣筋を描き斬りつけた。
斬りつけた箇所に連続爆発する黒いまりょくは、ヤラれた分をやり返すかのように威勢よく咲き誇り敵を燃やした。
「どうよ、新生マリティーポップは、おスカしさん!」
「私の邪魔はしないで(泡の魔法をとどめて進行妨害…新魔法じゃなく既存の魔法をまりょくコントロールし防御につかったのね…敵の速さに対する……お手本のアンサー)」
突然の連続が事前に示し合わせていたかのようにつながり──見合わせたのは水色の髪澄んでいて勝ち気な湖の瞳、
答えたのは黒髪黒目裏の読みづらいポーカーフェイス。
「あんたねぇ…フン、あんたの邪魔しなきゃいんでしょ! さっさと片付けるわよこのえーっと…象人間!!!」
「…爆発するから気をつけなさい、拳にまりょくを溜め込んでいるときは注意、このたたかいで凝らすのは目だけじゃないわ、流れを見て魔法ソード少女なら」
「なるほどね…あったぼー、アタボーのターボシルエットよ!!!」
肩を並べるのは、マリティーブランとマリティーポップ。
今度はいつぞやの夜の逆、陽の射す日に水は差された。
またも斬られてしまった短くなった鼻はニヤつく嫌な顔に伸びていく。耳は異様にでかく、石肌は人の顔からすっかりと変幻していた。
「アッ、アッ…………アッチャーーーー!!!」
いつもの調子と冷静さを取り戻したマリティーブランは飛び入り参戦したマリティーポップとともに、奇怪な象人間を討つ。
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