第13話 ぺーぺー

魔法ソード少女にはデータゾーンをできるだけ綺麗にクリアする仕事がある。

伝説のマリティーの活躍でデータラインが殲滅クリアされてもなお…日夜データゾーンを荒らしに現れるストローは大変しつこい。


しかし闇が濃くあれば光は小さくともポツポツと輝くもの。


ふとしたキッカケを経て魔法ソード少女になるものも少なくはない。


魔法ソード少女の存在は秘匿されるべき秘密、しかし、手がかりがゼロなわけではない。

この世は思ったよりも不思議な〝まりょく〟に満ち溢れているのだ。


天性の才能、鍛え上げた身体、あるいは豊かな想像力のある者たちはいずれ気付くだろう、巨大魔法ソード少女組織マリティーはそうやって回っている。


大きな光をうしなえど、あらたな光はまたさがし求める。光と闇が飽きもせずに競い合いかくしあうように魔法ソード少女もまた────────




▼しゅくがわデータゾーン6▼にて




魔法ソード少女に朝も昼も夜も関係ない、だが深夜にストローがデータゾーンを襲いに来ることはあまりない。


月夜でも別にまりょくが増幅することはない、だが妖しく儚い少女たちが舞うバトルは月夜にこそ似合う。そう思うものも多いだろう。


今宵もまた取るに足らない三日月がおなじかがやきで浮かんでいる、──見上げている。

こんな変哲のない日々のひとつにも、新たな魔法ソード少女は誕生するのであった。



何故見上げたのだろう、見上げたくなったのだろうこのひとりだけの夜風に。

ほどほどの長さの黒髪とパッチリとしたダークガーネットの赤目は、魔法ソード少女としての初仕事を任された。



『ぺーぺー私がお前の担当だ。よろしく、私の時は私より先に挨拶しろ初回はサービスだ』


「う? よろし──く? んー、みみからへんなこえ?」


少女の右耳からドスの効いた女性の低音が聴こえてきた。

不思議に思い耳穴をかっぽじってもナニもでてこない。


『ハァ?』


「はぁ? んー?」


圧のある吐息に押されて少女は左へとコテっと首を傾げた。


『ストローを殲滅しろぺーぺー』


「わかった! ──ストロー? ぺーぺー?」


『おい、ストローって言ったら敵だ。ぺーぺーはお前だ。MS0は魔法ソード少女じゃないぺーぺーで十分だ、さっさとデータゾーンを制圧しろぺーぺー』


「あぁーー、ストローは敵でぺーぺーはわたし。魔法ちょーちょちょー…でーたぞん?」


『おい、どうでもいい忘れろ。ストローを見つけてそのお前の剣と魔法で殲滅しろ。──敵を見つけて左腰にある剣と魔法でゼンブタオセ、オマエが、やるんだ』


「んー……わかった──!」


少女は右隣の虚空に向けてサムズアップした、やっと理解したようのでオペレーターはそれ以上喋らず通信を一旦切った。


『(脳足りんだったか。まぁいい脳みそなどどうでもいい)』


さっそく左に携えた鞘からMT4規格のフツウの剣を抜き出した。

そのままぶらりぷらり少女は電柱から電柱に駆けたり、自分なりに真剣にストローの索敵行為を開始した。



「あー、アレだ! やっぱり公園にいるすとろー!」



ストローは公園にいる、真田ふれい彼女にはたしかな経験からそうインプットされていた。

そして本当にいた、みごと読みが当たったのであった。



「斬るよ!」


さっそく公園でストローと接敵。


ストローを見つけたならば斬る、時代劇みたいに、真田ふれいは知っている。


夜の公園の砂場で佇んでいたカエルは大声に振り返る、


振り返っては否や離れた目と目の間に風は流れていく──


飛び込んだ白刃は、眉間から真っ直ぐにぶった斬り、カエル型のストローはダメージ限界を迎えた。


ビリビリと青白く漏電し──砂場に蓄えられていたたりょうの砂粒は爆散していった。


どこか抜けていると心配された少女は爆発に巻き込まれるその前に猫の身のこなしで退避、


夜空をかくす砂色のシャワーカーテンから泳ぎ現れた銀色お玉杓子を真横に一閃、二閃。


ねこよりは分かりやすい気配に真田ふれいのカラダは反応し、結果迫り来る敵を正しく滅した。



『……(剣を持てば常人か、コイツはそういうタイプの脳足りんか…フッ)』


『おいインファイトだけでは効率がわるいビームをつかえ、安心しろお前は既に敵の巣の中だ必死にやれ』


ふたたびオペレーターからの通信がふれいの右耳に入った。

ふれいは素直に深く一度頷き、指示通りにしたがった。


「んー、わかった──! 【また】!」


携えていたのは剣と鞘だけではない、茶色いウエストポーチに詰め込んできた石をひとつ手に取り、遅れて公園に遊びに来ていた青カエルの腹へと投げつけた。


投石フォームは猫パンチのように素早い手投げ。


中距離から腹装甲にめり込む石ころにカエルはげろっとファンシーな声を鳴らした。


『おい……貴様フザケるな、石なんて投げてどうするぺーぺー剣にまりょくを込めてビームを出せ、脳っ…』


「あーー、ぶくぶくのこと?」


『……そうだ、分かってるならヤレ。まりょくを込めればその剣が勝手に馬鹿をアシストする、切先を敵に向けるか斬撃を飛ばせ』


オペレーターは怒りと冷静の狭間の声色で丁寧にぺーぺーに命令した。


「あーー。わかった──!」


少女は見えないオペレーターの代わりに三粒ほど石をぶつけた青カエルにシャキーンとサムズアップする。


完全に要領を得た、まりょくを注ぎ込んで出すモノを彼女は知っている、鮮やかに熱くおぼえている。


ぐっと柄を握りしめ勇ましい自信満々の顔をした、


脳足りんがそんな表情もする……確認したオペレーターは勇ましさに低音の茶々を入れた。


『つまらない石ころは投げるなよ全てているぞぺ──』

「【ふれいぼむ】」



『おいビ──』

「【・えんど】!!!」



青いカエルの腹は赤い。


赤熱する斬り傷は、尋常ではないどこまでも高まるまりょくを孕み──


それはビームではない。

ただのビームより遅く、ただのビームより強い。


石みっつ、さらに元気いっぱいの袈裟斬りをもらった青カエルはかのじょ色に塗り潰されていく。


今宵の三日月は高々と見下げていたはずの地に咲いた赤い満月にジェラシーを抱くことだろう。


やがてまりょくは爆発する──斬り傷ひとつから咲き誇った巨大な紅いドームは、しゅくがわデータゾーン6はなまる公園の全てを呑み込んでいった。

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