第12話 裏の裏のほう

▼マリティー本部イージスオペレーションシステム個室710▼にて


「うぃー……これで完了と。全てのデータゾーンの掃除回収作業は順調。マリティーブランさん…やはりこの子はすごいな、すごいだけじゃなくあんなびっくり箱の実験にもちょっと協力的なのがかわいいよな、戦闘能力的にも適応能力も本当に隙のない子だ並のストローじゃすぅぐスクラップ! いやたまに隙はあるんだよなぁはは、そこがまた。いやーそれにこうも活躍してくれると秀才オペレーターの長山透も鼻が高いというもの…かな?」


『おい、今何をしたお前』


ガチャリ、開いた音を置き去りにし、圧のある黒スーツは椅子掛けのベージュ制服が振り向いたときには既に突っ立っていた。


黒い制帽をナナメにかぶった妖しい色合いの緑髪の女は、黄色い爬虫類のような鋭い眼で長山透を見下した。


「おぉ? あー……あなたでしたか。びっくりさせないでくださいよ! ってなんで開けれるんですか! しっかりとロックしてましたよね!」


「何したって聞いてんだ。答えろ。ノックをさせるなお前より偉いぞぺーぺー」


「ノックもなかったんですけど…… ってなんでそんなモノを偉い方がぼくに向けて? (パルスガン?)」


「見せろ」


手に取っていたのは小さなパルスガン、銃口がラッパ状に広がり今まさにおどろくオペレーターの顔面に向けられている。


(はぁー、ほんとに撃ちそうだな…痺れるのもイヤだ撃たれない方がお得か。まったくヒトが楽しんでいたのに邪魔だなぁ…こんな暴力装置が同じ職場にいるなんて、もう10度目だぞ人間に銃口向けてる場合じゃないよ、この野蛮な人間には可憐な彼女らの背を一刻もはやく見習ってほしいね。まぁ見習ったところで──これが上司はバグだよ、この世の、ふふふ)


「なんですか? まったく…ハイハイみせますよ…ハイ」


心で悪態をついた長山透は撃たれる前にアイギスのオペレーションシステムをパネル操作し、上への報告用にまとめあげていた資料の一部を提示した。


「勝手に片栗粉をつかったのか、ちゃんと先に報告しろカス。魔法ソード少女が3人お人好しにバグった民間人がひとり…スコアは────おい、これはなんだ」


「あー…ははははこれはマリティーブランがDr.カタナカジの実験をしていたんですよ、ちょっと焼け壊れこんなになるまで。そこだいけい公園だったらしいですよ、はははは」


「他は?」


「他は今派遣した懸隊がデータゾーンを調査中です。なんせまりょく残滓とたいりょうのストローが邪魔をするものですから通信が荒れていてこちらからは観れませんでした。あ、マリティーブランに何度も危険を確認し向かわせたしだいです!」


「当然だ、これは?」


「データゾーンに紛れ込んでいた民間人ですよ」


「見せろ」


「写真と民間人真田ふれいの個人情報はこれしかありませんよ? どこもルール違反ではないですよね? ちゃんと見ました?」


「他のおかしなぺーぺーどものまりょく消費ログだ。はやくしろ細目、耳ぐらいはあけてろ。頭が悪くても分かるだろ」


「細目!? 頭が…やれやれ……(あんたよりいいよ)それしまってくださいよ」


「あぁ? 命令すんな──…」


「ってタバコはやめてよ」


「──あぁなんでだ?」


ぷかぷかと白い煙を燻らせながら、片手は煙草、片手は依然パルスガンを生意気なオペレーターの背に向けている。


生意気なオペレーターは上司の好き勝手な態度におかまいなく顔をしかめた。


「魔法ソード少女なんですよ、そのイヤなニオイで夢から覚めさせないでくださいよ……あーあーぁ部屋にニオイがつくんですよぉ…」


「お前も吸え」


「はぁ!? んぷ──」


「所詮お前はここで一服するだけの、カス」


緑髪の女は口に含んでいた煙草を顰めた顔の穴に挿れた。

綺麗ぶっている自分がいかにカスであるのかを再確認させるように、煙草をおすすめしたのであった。


「はぁやめたのにぃ……。カスなんてひどいなぁ僕ほどの模範的な働きものはいませんよ、んーとどれどれ────んん?」


暗がりの個室は電光色にひかっている、たちのぼる煙草の煙が2本。

緑髪はモニターをみながら目の前に座るポンコツの頭頂にゲンコツをひとつ喰らわせた。







▼マリティー本部デモネの私室20▼にて



この日も魔法ソード少女たちは出動しデータゾーンを無事守り抜いた。

いつものようにマリティーのソードマスターに秘書から報告書がすごく抑揚のない声で読み上げられていく。


デスネの報告は終わり、白いチェアーにどっしりと座ったSMのデモネは閉じていた目をゆっくり見開きながらやわらかな声を発した。


「そう、ルーキーでは頭ひとつ抜けている…期待に違わぬ順調な働きね」


「はいですがしかしマリティーブランは毎度特殊な刀とカッチューを使っていますが。問題ですね? このままではおかしな開発者にその期待の星が潰されてしまうのですね? 釘を刺しておきますか? なんならヤっちゃいますか? せんぱいとしてですね」


「あらそう、ふふ──まぁ好きにさせればいいじゃない。あの伝説だってそうなんだから」


「伝説のマリティーも? はいそれは嘘です、不確定要素を背負いながら毎度この高スコアは天才でもあり得ません。実験はまず下のものにやらせるべきですね、彼女をスコアをすっ飛ばし早急にソードマスター候補にすべきです。おかしな開発男の実験台にするにはもったいないのですね」


「そうねデスネあなたは間違えないわ」


「そうですね。ではソードま──」


「でもねそれ、──つまんない」


「──は?」


デモネは机に頬杖をつきながら、微笑みフリーズした。

デスネも報告書を持ち突っ立ったまま同じくフリーズ。


無言の静寂が妖しい雰囲気につつまれていく、


おもむろに席を立ち上がった──襟のでかい丈の短い黒のブラウス、丈の長すぎる白の波打ちボトムス。


相変わらず丈の配分の極端な服装をした魔法ソード少女は、手にとった刀その刃に──宙に浮かべたカップを傾け、飴色を伝わせ床にぽつりぽつりと……滴らせていく。


「ただつよいだけのつまらない魔法ソード少女なんていらない。埃被りの伝説もふくめてね。……しってる? ある程度のレベルになると刃は多少汚れているほうが思ったよりよくキレたりするのよ」


ぞわりと伝わる得体の知れない剣士の微笑みに、何かがぎしりと軋んだデスネはそれでもポーカーフェイスを崩さず。


「聞いたことないですね」


「そう、なら覚えて。魔法ソード少女は軍隊じゃない」


ソードマスターは刃をよごした赤色をポッケからとりだしたハンカチでゆっくりと……拭き取っていき、目線を外した。


「はい覚えました、では魔法ソード少女とはなんですか?」


「ふふあなた生まれてきてから質問ばかりで恐れをしらないのね……魔法ソード少女とは……剣と魔法と──お紅茶休憩よ」


「──なるほど。剣と魔法と……私さきほどからトイレがちかいのでこれで失礼します──ですね」


一礼し青いインナーカラーの黒髪ショートを垂れさせたデスネは、そのまま落ち着かないクリーム色の部屋からそそくさと失礼した。



「夢見たソードマスターになったナンバーツーとは孤独なものねぇ……ふふふふ──」



本日も連れにお紅茶休憩をかわされた、


あたたかみのあるクリーム色基調の部屋にひとり、


のこされたデモネはまたも微笑みながら、微笑んだ目でまだ握っていた刀に気付き──ひろすぎる机をはんぶんに裁断した。

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