第8話 あんたも!!!

「ハァハァ…こコイツらどこまでやってくんのよ! 公園はめだかの学校じゃないのよ! カエルは帰れ!!!」


「め、めだか…? どこ!」


「馬鹿! んなのどうでもいいのよ集中なさい! なんであんたのお守りまでってあ!?」


「ん? ──」


めだかでもカエルでもお玉杓子でもない、赤犬。


公園のグラウンドを駆ける侵入禁止の散歩コースに侵入した足の速い犬は、ポップとはなすどこか集中を欠いた少女の横顔に──牙を剥いた。


地を不乱にかける赤い四足、


水色の切先が指すほうに振り向き、今まさに喉元までせまるするどい犬歯を視界に入れた赤目の少女剣士、



一瞬の渦中に──黒い星が墜落した。


赤をぺしゃんこにした星の衝撃は公園に並々ならぬ風をつくり、


砂を浴び砂煙を吸い、ふれいは激しく尻餅をついた。



あつい黒い四角星の上には、凛と立つ──黒髪黒セーラー。


「まったくそろってわちゃわちゃ何をやっているのか、──3人もいてまだデータゾーンのストローを殲滅できてないなんて」


「うぱっ──な、な!? ってまたあんた! あんたの方がナニやってるのよそれ! 黒くて四角い…ストロー?」


見たこともない四角に乗る、見たことしかない聞いたことしかない忘れもしない黒髪の魔法ソード少女。


口に入った砂をぺっぺと吐き出して、マリティーポップは彼女の横顔を見た。


ゆっくりと振り向いた黒髪の魔法ソード少女は、見たことのあるような気がする水色にかるく短いため息を最初につき、口を開いた。



「またあなたなのね。まったく──」


「ちょっと、これは違うから! あんたかんちが──」


「邪魔よ下がっていなさい、まりょくゼロ」


「な!? まりょくはまだあるってのおお!」


「そう? なら──【ミサイルロックパック】ッマリティーぃぃぃ!!!」


突き刺した特殊な形状の剣はキューブの真ん中の溝に突き刺さり、左回しにまりょくを注ぎ込んだ。


ひらかれたのは六面の敵向かいの前面、



「──さっさとやって、魔法ソード少女なら」


うねる軌道を描いたまりょくミサイルは、捉えたストローにつぎつぎと直撃していく、


一面の水色を黒いまりょく色の景色に塗り替え染め直した。



「む、無茶苦茶……!?(いきなり叫んだ…)」



黒いまりょく爆発に飲まれて襲来してきていたストローたちはあっという間に平らげられた。


ひじょうなつよさを誇る魔法ソード少女マリティーブランは、魔法ソード少女、マリティーたちを正すために……今日も目標に向かうさなかにも探し求めつづけている。







ブランは虹色に斬り裂き、カエルの腹をするどく蹴った。

やがて黒く爆発し、ストローは数匹まとめ貰い事故で効率よく滅されていく。


ポップは迫る敵をすべて水色に斬り裂き水色に弾けさせる。何匹ともまりょくをノセて斬り伏せるだけであった。


「ちょっとおおあんたもさっきからバテてんじゃないの! まりょくゼロ! さっきのもう一回やってみなさいよ! ほら!」


「ッ……こんなの使えばこうもなる! まりょくはまだまだあるわ。(まりょくコントロールの副作用で頭の熱量の方がやばい…だけ……もうすこし熱が引けば…)使いどころを考えなさい、魔法ソード少女なら!」


「はぁ!? こっちのセ──」


「あなた、さっきからまりょくはどうしたの?(私服? これがカッチュー…?)


「そうよあんた、そういえば援護ビームのひとつも飛んでないじゃないの! サボってんじゃないわよね? 〝わたしのまりょく〟?」


水色ではないもうひとり…背の高い私服姿のウエストポーチ。

チラチラと確認したところ、さっきからあまり動きのよくないが元気に戦っていた少女に、状況を一旦クリアしたブランは目を向けた。


ポップもブランに同調した。まりょくビームのひとつぐらいの援護はあってもいい、戦闘に夢中で気にしていなかったがまったくビームを使った形跡も思い返す記憶もない。ずっと隣で剣を振り下手なステゴロをしている姿しか見ていない。


マリティーポップはずいずいと鼻先が当たるほどにふれいに詰め寄った。



「……! がんばって……ます!」


鼻先がキスしそうなほどの距離、脅されて出てきたとても真っ直ぐな一言に──



「はぁ???」


「待ちなさい……もともと当てにする必要はないわ、魔法ソード少女なら。うごきが気になって邪魔だっただけ」


「はぁ……そうねそうね! はいはーい同意同意!」


マリティーポップはふれいの顔にそこそこのため息を浴びせ、それ以上詰め寄るのをやめた。


そんなことをやっている場合でもなく、

そんなものをわざとかと疑っている場合でもなく、

そんな頼れないものを頼っている場合でもない。


ブランにまた同意同調し、己の剣を前方に構え直した。

頼る頼れるのは自分の腕とこの剣と残りのまりょく。

魔法ソード少女として当たり前のことなのだ。





魔法ソード少女がクリアすべき状況は、

相変わらず公園に次々と遊びに来るストローの殲滅、

このハズレデータゾーンの制圧、


ただし、木の幹のベッドにもたれかけ安らかに眠る…絵になる銀色ドレスを────



「ねぇ、あの眠り姫は起こせないの! お守りなんて冗談! 公園のベンチにねっころがるおっさんぐらいの冗談!」


「おそらくまりょく切れで馬鹿をしたのね、実力のない魔法ソード少女が」


「はぁ!はた迷惑なヤツねー! こんなに同業者呼んじゃって!」


「……水色あなた、下がりなさい」


「はぁ!? なにいっ──」


「本物の魔法ソード少女なら、これぐらいなんてことない。でもあなたはちがうみたい」


「だからナニ──…いいわよ! 啖呵切ったからにはちゃんとやれるんでしょうね!」


「変なものを使わなければこれぐらいやれるわ、ひとりで」


「自分で使ってて何いってんのよ…まぁいいわ、ちょっとあんた来なさい! ──コラッ! いまさら前に出てんじゃないわよ!」


「……?? わかった?」



マリティーポップは前に出ようとした真田ふれいを呼び止め襟をつまみあげた。


ブランの言葉通りにふれいを連れてさがっていく。


大人しく2人がさがったのを確認したマリティーブランは、剣を投げ捨てた。


回転する鍵の形状を模したした剣に狙いをつけ、抜刀したサブのMT2からビームを連射しうちこんだ。


回転しながらビームに弾かれアッチコッチにおかしな剣は跳ね回る。

乱軌道をえがき軌道上の予測不能なこうげきに逃げ惑うストローを荒々しく刻みながら、やがて事前に含ませていたまりょくで起爆させ爆発した。


「やっぱり──これ以上のおかしな要素はない方がいいわ、うろちょろ使えないものも!」



おかしな剣も、使えないものも、マリティーブランはいったん捨て去った。


やはり出番がきたMT2規格の軽量剣を煌めかせ、白羽のヘアピンをかるく押し撫で上げた。


押し込まれる前にヒトリ、ストローの向かってくる前線へと風を切り駆け出した──


マリティーブランは期待はしていない、アテにもしていない。……ほんのすこしだけしか。

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