第6話 魔法ソード少女の守るべきもの

切先から丁寧に放った桜色のまりょくビームは機械獣の群れに吸い込まれていく。


撃てば何かしらに当たる状況──シンプルなビームを連射し、それでも制するには足りない敵勢には──



「【サークレットブーメ】!」



栗毛の頭部から射出された鋭い銀閃は高速回転しながら──宙にただようお玉杓子を次々とぶった斬り。

しかし反応したカラフルカエルたちが地から一斉に飛び上がった。


「ぴょんと甘いね、ぴょんにはびゅんだ!」


右指をぱちんと鳴らし、人差しは左を指す。


指示した方向に自在に、左へびゅんと進路変更した銀閃は、


空中にせーので仲良く飛んだ間抜けなカエルを見事真っ二つにぶった斬った。


マリティーシルブの切り札はとても効果的に威力を発揮し迫り来る敵をのした。


戻ってきたブーメランは、アタマに装備していた元のサークレット形態へともどった。


「ふぅ。──ハズレゾーンだったかな…」


ビキリ、酷使したトレードマークの銀色サークレットにひびが入った。


「……!?」


少女の赤い目はこのテレビでも経験したことのない激しい状況をすこし理解した、

アレは敵で、この人は────


一体このだいけい公園に何があるというのか、大挙するストローをやっと平らげたと思えば、また性懲りも無く現れてきているストローのおかわり。


ハズレゾーンと言わざるをえない。

疲れた銀色の背をしたマリティーシルブはそのギラギラと光る背にかかえる、守るべきものへと振り向き言った。


「よーしいよいよこうなれば…ふれいさん、とにかくアッチ真っ直ぐ逃げるんだ!」


マリティーシルブは明後日の方向を指差した。

その方角に逃げるように、真剣な顔を向け、ふれいに指示した。


「銀色さんは大丈夫な…の?」


「大丈夫さ、はやくいくんだ! どこかの家に隠れていればいい!(たしかまりょくがないならストローから少しは隠れやすいときいたことがある……)」


困ったふれいの心配そうな表情に、魔法ソード少女は一瞬微笑んだ。

その声に感情に怒りはない、感じない。


「んー……わかった!」


「あぁ、いいこだ!」


ふれいはすんなりと飲み込み、指示された方角へ茂みの緑を飛び越え駆けていった。


チラチラと振り向く守るべきものを、口角を上げ見送り────



「待っていたシチュエーションがこれか、魔法ソード少女って……いいじゃないか!!」



その剣は守るべきもののために。

側からみれば限りなく善にちかい偽善。

いやそれは偽善ではなく、彼女は今、善を行っている。


何のために魔法ソード少女になったかは人それぞれ。

大した理由があってもなくても皆剣を握らないと魔法ソード少女ではない。


善の魔法ソード少女マリティーシルブは握る柄にあるままのチカラを込めて爽やかに笑った。







「参ったね…これは予想通り、良いエンディングを迎えそうだ……!」


ついに最大の武器である銀色のサークレットは酷使の末にパッキリと無情にも割れ砕けた。


シルブにあるのはメインの刃が折れ駄目になり代わりに構えるサブの一本のMT4規格の剣と、内在する少量のまりょくだけだ。



いくら奮闘しても、撃破しても依然このだいけい公園にはストローが寄って集ってきている。

ストローたちは近場のまりょくに反応しやすい習性があるからだ。


ついに覚悟の覚悟を決めなければいけない、その瞬間が近い。

そんなひじょうな危機迫る状況にマリティーシルブがふと思い浮かべたのはやはり────




『【たま】っ!』



跳ねあがったカエルの横腹に石ころがぶつかった。

グベッ──

奇怪なモンスターの声が鳴り、



「な!? 石? ──ナ、なぜ!? なぜ戻ってきたんだい!?」


魔法ソード少女のピンチに駆けつけたのは他の魔法ソード少女……ではなく、


黒髪と赤目の169cm。思い浮かべていたあのやわらかな顔でもなく、その少女の少し勇んだ表情であった。


「珍妙石ころ大図鑑、猫がいないときにはこれ、ん! 石は名付けて投げるものだって夢の石投げお兄さんにきいた!」


ぐっと取り出した珍妙石ころ大図鑑②、勇ましく彼女にみせつけて赤目はキラりと笑った。


「石投げお兄さん?…ははは…こまった……守っていたと思ったら守られていたなんて…サッッ はははははナイスアシスト!」

 

落下したカエルは既に刀の錆へと、砂地にザクっと突き刺した剣を引き抜いた。


「すまない、すこしこの痺れるシチュエーション、ダメなヒーロー……私の我儘に付き合ってくれるかい! ──ふれい!」


「……ん!! 石はまだまだあるよっ名前はもうつけた! 銀色さん!」


「それはたのもしい! サッッ!!! 私の名はマリティーシルブ、変な名だが帰るまでに覚えておいてくれッ!」


「もう覚えたマリティーシルブン! 【みけ】!」


「…いいこだ!!」




ウエストポーチではない、ただのウエストポーチではない、魔法のウエストポーチ。

詰め込んだのは野生の勘ではなく彼女の培った石ころレーダーで拾いあげてきた個性豊かな石ころたち。


たま、みけ、また、けみ、たけ、その他大勢。


しかと石ころに名前はつけられた。



マリティーシルブ&真田ふれい、


まだ若すぎる彼女たちがエンディングを迎えるのはまだ遠くきっと早い。


銀色のドレスはよりいっそう華麗なステップと剣舞で踊り、

名を込めた石ころはウエストポーチからジャラジャラと取り出され、恐れなく獣のカオに投げすてられた。


その心地よい当たり前に行きつきそうであったマリティーシルブの描いていたシナリオの流れは変わった、


銀色の魔法ソード少女の守るべきものは今はいない。


勇ましく同じ背丈で隣にいる。かのじょの魔法は傷付くシルブを笑顔にさせてくれる、そんなよく効く石ころであった。



ただの魔法ソード少女と、ただの少女はだいけい公園に遊びに来たストローたちを倒すために、剣と石ころ…ちぐはぐなチカラを、今、おたがい笑い合い──合わせた。

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