魔法†少女ド屑オンライン

山下敬雄

第1話 はじまりのマリティー

闇夜に紛れる黒セーラー。

妖怪、怪物、幽霊ではない。たしかに存在する。


月夜に照らされる横顔は冷たく靡き、うつくしい。


その黒い瞳は何を見ているのか。

さっとひだりに留めた、

ちいさな白い羽の髪留めに彼女はなつかしみ誓う。


そして握る柄に今を感じ、白刃は抜き身、躍動する。



魔法ソード少女として。




▼かわにしデータゾーン8▼にて




瓦屋根の上を、派手に蹴散らしすべっていく。

黒髪はデコを全開に疾走している。

その人影を追う──首を伸ばし噛み付く赤目の白大蛇の餌にならないように、左右へと揺さぶっていく。


そんなただならぬやり取りのさなか、夜風を走る耳に裏方のイヤな声が聞こえる。


『どうだね、月夜のローファーコンベアIIは』


「ふざけている」


ローファーコンベアII:

履いているのはただのローファーではない。なんの変哲もないように見えるちいさな靴底はそれがコンベア。まりょくを伝導させることで無限のコンベアとなり、接する地をどこまでも彼女を乗せてまりょく滑走する。誰も使わずにいた試作品だ。


『君は影になりなんでもやるんだろ?』


「そう私は正す、不甲斐ない魔法ソード少女マリティーを!」


『よろしいならば実験だ!』


「実戦ではやめてほしいっ、ガラクタ遊びなら後にして」


『くくく、君も魔法ソード少女なんだろう? ヒラのルーキーがヒラヒラとなびく最新のオシャレなそのカッチューが欲しいとは思わないか?』


ねちっこい声とお喋りをしながらも、疾走する視界前方からもストローが来たのが見えた。

ストローとは倒すべき機械獣の敵であり、彼女のような魔法ソード少女ならば────


刀の切先から黒いビームを放つ、すばやく4つ、


握る柄から伝った彼女のまりょくは変換され敵を撃つビームとなり、やがて到達し前方を黒く汚した。


足止めに立ちはだかった銀色お玉杓子のストローたちはあっさりと滅された。


黒いセーラー服は黒いまりょく残滓と壊した敵の残骸を突き抜けていく。


「おもわない、最新でもオシャレでも戦えなければ意味がないでしょ、武器を手にしても所詮試されるのはマリティー自身なのだから。裏方が前に出るような余計なことはしないで!」


『影は邪道なカスタムはお嫌いかはははは!』


「ちがう、どれもこれも足りない! ガラクタで着飾っても! あの光にはッ、結局は刀と魔法でスベテ!」


魔法ソード少女は振り返り、後ろ向きに器用にも屋根屋根を滑走しながら切先は前方へ。

またまりょくを込めたブラックビームを連射し垂れ流す、


しかしヒットしていく彼女のビームでは大蛇は止まらない。


意に介さず、大口を開けた白蛇はスピードを上げ──黒セーラーを勢いよく飲み込んだ。


に思われたが、虚空を飲み込んでもターゲットは死にはしない。誘われた間抜けな大蛇は見上げる、


満月に映える黒と、勇ましく冷たい煌めきと、


一瞬──煌めきは上顎と下顎を串刺し、ご丁寧に用意された白いレールの上をローファーコンベアはまりょく加速しハイスピードで始動する。




「ヤッちゃうのが魔法ソード少女、マリティーなのだから」




白い大蛇はうなぎを捌くように真っ直ぐ半分に捌かれた。


描いた虹色に光る剣筋はもう抑えきれない、


見知らぬ町の瓦屋根のうえ、虹色秘める黒が鮮やかに大爆発した。




白いレールの上から狭い路地へと降り立ち、黒い靴跡を2本引いてのこし────煙を上げやがて止まった。

役目を終えたしっくりとこない剣は鞘へと手早く仕舞われた。



『お見事。エクセレントなまりょく爆発だーー! どうだあああ最新のブラックカッチューとその刀は折紙じゃない性能は折り紙つきだろ!』


「次はもっとマシにして。重いわ、あと明日からおかしな武器屋の通信はいらない」


『ははははその若さと速さに負けない折れない特殊な包丁が必要だとおもったが検討しよう。帰ったらさっそく脱──』


魔法ソード少女はこのデータゾーンのストローを全て片付けた。普通ならばここで終わりだが、仕事の早い彼女の耳元に新たな通信が割り込んできた。


オペレーターはかわにしデータゾーン8を制圧した彼女に落ち着いた声で淡々と伝える。


『マリティーブラン、残存DSシールド値93%継戦にいたる補給は不要と判断しご要望どおりに次のデータゾーンに急ぎ転送します。ストローを応戦中の魔法ソード少女の援護に向かってください。追加ほうしゅ──』


「了解しました、正規の予備の刀を一本貸してください軽量系のMT2を。それと喉が渇いたのでホットミルク。目に見えない数値も、部品の管理はちゃんとしてください。私は多少壊れても構わないですが」


『わ、わかりましたマリティーブラン。こ、こちらマリティー本部イージスに属するオペレーター長山透ながやまとおる! あ、甘いお菓子などは?』


「あとでいただきます、喉を潤している間にヤラレたらそれまで正す価値もない──はぁ」


「わかりました1分ほどで転送されます。あ、帰ってきたらくるみクリームのロールケ────」


掻き上げた黒髪の右耳を元に戻す、額に流れていた冷えた汗を服の袖で拭った。


やがてあたたかな一服とともにかがやける月を見上げていく。


このゾーンを制圧し本部から送られてきた瓶詰めのホットミルクを飲み終えた。しっくりとこないうなぎ包丁をその場に捨て置き、新たなマシな刀を腰のホルダーに装備し、マリティーブランは乗り気でない次のデータゾーンへと援護に向かった。


変哲のない一本の電柱の辺りに、ことりと置かれた空き瓶をのこして。




▲▲▲

▲▲▲




時はすこし遡る、


セミロングの黒髪とちいさな羽飾りは、ある日急におもいだした記憶をたどり、たどり──特別な者しか入ることのできない特別なゾーンに訪れていた。



全ての測定試験をこなし、おだやかな雰囲気の待合ロビーから部屋へとよばれて結果は告げられた。



告げられた結果に彼女が満足したようにはみえない。


座らされた席をおもむろに立ち上がり、黒セーラーの少女は、


きちんと着こなした就活生のような黒スーツの女と、襟が異常に大きくかつ丈の短い…どこで売っているのかも分からないヘンテコヒラヒラブラウスを着た妖しい女を睨んだ。


そしてようやくかんたんな返事以外では閉ざしていた重い口をひらいた。



「私はなりません。今の魔法ソード少女、マリティーは弱い。がっかりしたのです。私でもなれるぐらいに人材がいないということに」

「門前払い、突っぱねてほしかったのですよ。では帰ります──」


それだけ言うと黒セーラーの少女は反転しドアの方をゆく、ドアを開き、静かな怒りをこめてしずかに閉めた。


本当に帰ってしまった────。


呆気に取られた黒スーツの就活生は部屋のドア方へと手を伸ばし、ぽかんと開けたままの口で言葉を発した。


「な、なんですあの子は……」


「測定した能力全ての数値がバランスよくひじょうに高い逸材ですよ。あまり怒らせないようにしてくださいね。もっとも測定されていたのはこちら側だったようだわね、ふふふ」


「まさかの逆面接…? なんていうんだろ…この場合の言葉がわかりません! で、で、面接官であるデモネさんが言うのなら、それはすごいことなのですね? ってもうそのすごいひとが怒って帰ったようにみえますが、追わなくても??」


「ええ、ふふ。彼女は伝説にかわるかもしれませんよ」


「伝説?」


「そんなことも知らないのですね、かわいいひと」


席を立ったデモネはやけに丈の短い黒ブラウスとやけに丈の長いクリーム色のボトムス、歪な服装でゆっくりと移動しながら、やがて僅かにしめったドアノブに手をかけた。


「か、かわいい? 待ってまって教えてください。あの子は魔法ちょうちょ……ソード少女!! にはならないと言っていましたが! ってあ、やっぱり追うんですか!」


「ふふ、一度魅せられたなら、なるしかないのですよ。魔法ソード少女。ここは鳥籠ではないわ、追う必要はありませんお紅茶休憩よ──ところであなたはどうします? 面接官としては置物にしかならないようだけど、紅茶でも飲む?」


黄色いインナーカラーをしたおしゃれな黒髪は、カールしたまつ毛と妖気をかんじる金色の瞳で就活生を見ている。

やわらかな微笑みでフリーズしながら──


「わたしはオペレーターではなく懸隊かかりたいを志望し受かりました! ですからさっきからここにいるのも場違いというものですよ、デモネさんにいきなり手を取り連れられたはずですよ。ってさっき言いましたよね…? それにもうわたしっぼーっとしていた少女といえる歳じゃありません! 一応調べられた測定結果から一切の魔法とやらも使えません木偶の坊とソク言われましたが! 勤勉なところと神牙流じんがりゅう道場で鍛えた剣の腕を買われたのです! それで合格のはずでしたが…魔法でも少女でもないソードッはやはり不合格でしょうか!」


【懸隊】

いわば露払い役のサブ戦力。

魔法ソード少女になれない武芸達者なものの納まるところである。彼女、御子柴神子みこしばみこはその役職に無事能力を認められて合格していたのだ。


「あらご立派そうでしたかしら? ふふふ、でもね、ワタシ魔法ソード少女なのだけど」


デモネはゆっくりと首を傾げまたニコリと微笑んだ。


彼女がかたむくほうにおなじように傾げる──御子柴神子はデモネと目を合わせたまま、ショートカットの黒髪を重力に垂らしていく。


「???あの会話のキャッチボ…… んぎばっ!? す、す、すみませんでした!!!」


デモネの言っていたことの意味がやっとわかり、ゆがんでいた姿勢を地に垂直に戻した御子柴はそのまま深く勢いをつけて頭を下げた。


失言失態、なんということ。慌てて年頃の偉い人に謝ったのであった。


「ふふ、かわいいへんなひと。でもね木偶の坊なりにがんばってみたら。下のことなんてどうでもいいけどね、じゃあね。不思議とたのしかったからまた会えるといいわね、覚えていたらだけど。あなたは覚えているといいわ、そのときは悪くはしないからふふふ」


「そ、そのときはぜひ!!!」


御子柴は頭を下げながらチラリ、えらい人の表情を苦笑いしながらうかがった。


デモネはそんな空回る若者の元気さを見てまたくすりと微笑った。ドアノブに手をかけ──ドアは開いたまま閉ざされない。


やがて遠くなっていき、上下丈のバランスがおかしな背姿が消えた。


1人残されたぼさぼさのショートカットはやっと深くため息をついた。


「あのー、そこのデカい人。わたしまだ呼ばれてないんですけど、めんせつぅー」


切り取られた四角から少女の顔がぴょこっと、のぞいた。そしてその少女は中にいた面接官らしきノッポにそわそわとうかがうように問いかけた。


「な!? は!? え!? あああ、ああっとぉ! デモネ魔法ちょっ…面接官はお紅茶休憩らしいですよ! で、ででではがんばって! ヤレバ受かりますともぅおおお!」


ひどくうるさい顔は、見知らぬ少女の肩をポンポンと応援し。ぴゅーーーーっと夏風のように、元気あわただしく場違いな部屋から去っていった。







面接会場であった施設内からいつの間にかだだっぴろい庭へとやってきた若干迷子中の御子柴神子は、ひとり緑の野で爽やかに吹く風を浴びおにぎりを食べ腹を満たしていた。


(デモネさんは魔法ソード少女それで面接官を。なるほどぉ、歳は関係ないんですね? ところでさっきの彼女は魔法ちょうちょちょーち……そう、マリティーになるのだろうか)


(不思議と嫉妬はしないですね。道場でも散々負けて慣れているからでしょうか? 持つ者と持たざる者でも、こうやって同じ剣を振るい職にありつけるのですから!)


(努力の結果、努力の結果、努力の結果!)



「そうだきいた契約では初任給がもう振り込まれていると、」


ポッケから取り出した携帯電話をパカっと開き、事前に作るように言われていたネットバンクの残高を確認する。

御子柴神子はその手にした画面にうつる数値にひどく驚愕した。


「に、にじゅうななまん!?」

「す、すごい……牛乳プリンがいくつですか!? ひぃふぅみぃぷぅ────」


「いいっ…いいですねぇ、魔法ちょーちょちょーちょ! ちょーーーいいーーーーーー!!! じゃなくてわたしはカッカリいいいいガッカリじゃありませんよおおお、何かわかりませんがッあはははは」


「げっ!?」


コンビニの牛乳プリン換算では数え切れない、浮かれて大声で童話のヒロインのように緑のステージの上で回転し踊っていた。


回転をやめ、広げた両手のまま気持ちのいい回転景色の視界にぽっと現れたその人を見た。


「サイン──いる? 魔法ソード少女の」


平坦なトーンでひとこと。耳に入ったそのおどけたひとことだけでバッチリさっきの奇行を見られていたのが分かった。


「い、いりませんとも! ば!? …さっきのは見なかったことに!」


「そう。『努力の結果、努力の結果、努力の結果! ────すごい牛乳プリンが…ひぃふぅみぃぷぅ────あはははは』。見てはないけどお尻の穴は丸出しだぁ」


鉛筆ほどの大きさの録音機器にバッチリ……きいたことのあるような声が再生されている。


「や、やややっぱりサインもお願いします! いくらですか!?」


「ん、これもってここにサイン。サインを他に売らない契約のサインね。よーっ、背中かして、超有名魔法ソード少女のサインあげちゃう」


緑の野で喜びの舞を披露していたところ出会った。


緑色の長髪にハンチング帽を被った怪しげな魔法ソード少女。怪しげな丸サングラスをかけ、胡散臭さと怪しさがまんてんである。

焦る御子柴神子は中国語でかかれたちょっと頑張れば読めそうで絶対読めない契約書のぺらぺらに、持たされたボールペンでサインをしてしまった。



マリティーの本部に来れるたどりつけるだけでも、特別なものといえる。魔法ソード少女組織マリティーたちの目的は現世とは異なる位相にあるデータゾーンを荒らす機械獣ストローを倒し、現世の治安を侵されずに守ること。


そのための剣になる戦力は多い方がいい。


魔法ソード少女たちの物語はその刀、その信念、そのまりょくで、敵対するストローを完全に滅ぼすまでつづくことだろう。




††††††

ド屑†用語集




データゾーン:

守れなければ現世にも被害が及ぶ魔法亜重空間。現世を模したモノが多い。魔法ソード少女たちの主な戦いの舞台である。


ストロー:

どこからか出現する敵である。刀のサビにも素材にもなるバイオメタルで構成された機械獣。


魔法ソード少女:

特別なまりょくを多くもつ少女たちのこと。(少女である必要もなく年齢の制限はない)


マリティー:

日本に三つあるうちのひとつ。魔法ソード少女たちの属する組織の名前であり、ここに属する魔法ソード少女のことをマリティーとも言う。魔法ソード少女かマリティーか……オペレーターたちの中でも呼称の統一がとれていないらしい。


カッチュー:

マリティーたちの代表的な防具である。まりょくを流し込めば硬質化する特性がある。形は様々でありブランは着慣れた黒セーラー服に甲冑の肩アーマー、大袖と呼ばれる追加アーマーを両肩にヒラヒラと付け加え、られている。


刀:

魔法ソード少女というからには……槍でも斧でも銃でも構わないらしいが……。マリティーでは刀剣をつかう者が多い。


MT2:

他より軽量化されたマリティーの正規量産タイプの刀剣である。幾分軽くて扱いやすいがまりょくが低い魔法ソード少女には頼りない刃だろう。他と同様にまりょくを流せば質のあるビームを撃つことが可能だ。ちなみにMT0.5のレイピアタイプが最軽量、数値が増えるほどに原則としては重くなり…現在MT15まである。重いほど物理的な強度はあるとされるが魔法ソード少女であれば伝導させるまりょくにより各々のつよさは全く異なるものである。結局はマリティー自身なのだ。


Dr.カタナカジ:

通信が生きていたブランが喧嘩していた愉快な開発おじさん。うさんくさくあやしいがそこまで悪い人ではないらしい。ブランはちょーひさびさにあらわれたいい実験台なのだとか。


DSシールド値:

シールド値。魔法ソード少女たちのデータゾーンでのストロー殲滅活動を可能にする目に見えにくい防御膜。まりょくを持たないモノでも備わっていることがある。攻撃を受けまりょくにさらされる度に数値は減っていく。DSの略称の元がなんであったのかは謎である。大丈夫やデスやソウルではないかと推測されている。


マリティーブラン:

「魔法ソード少女、マリティーは私が正す!」 ルーキーながらめきめきと頭角を現してきたひじょうに優れた魔法ソード少女。現役高校生でもある。クールできつい感じだが、白羽のヘアピンがかわいいと一部のオペレーターの間でひそかに評判だ。ただし、その良い性格と見合う実力からか敵も多い。


デモネ:

魔法ソード少女……。マリティーのSM(ソードマスター)の1人であり偉い。ルーキーのブランやその他の魔法ソード少女たちには期待している。ブランの目を通して測った実力は未知数。


SM:

ソードマスター。SMと略されることが多い。一定の高成績をおさめたものがなれる魔法ソード少女としての事実上の最高位。公言する必要はなく顔の割れていない隠れSMのモノもいる。


御子柴神子:

20歳は過ぎている。その身に宿すまりょくは数値通りのゼロであり特に優れた能力はないが、マイナスをゼロにするような努力はできるお姉さん。懸隊に所属することになった。道場での愛称はバ神子。


懸隊:

いわゆる露払いや雑用、メインのサポート役の兵隊。何かのために戦うのは魔法ソード少女たちだけではない。スーツ姿で戦うことが多いだろう。当然、魔法ソード少女にはなれない男もちらほらいる。


魔法ソード少女としての能力測定:

測定される数値は、りょりょく、まりょく、スピード、反応、まりょくコントロール、などである。その他現役の魔法ソード少女との模擬戦や簡易なペーパーテスト(性格判断テスト)がある。

††††††




第2話 マリティーポップ




▼かわにしデータゾーン11▼にて



この日のマリティーポップはいつも以上に苦戦していた。


「こう数が多いと! くせんは必至でしょ!」


そう、数が多い。

水色髪を河原の夜風になびかせ絶賛逃走中、

銀色お玉杓子のストローたちが群れ、逃げ惑う彼女を追ってしつこくついてきた。


追ってきているのはぷかぷかと浮遊するお玉杓子だけではない。並走する銀色を抜け出した足の速い赤い犬型を、


「ヤーー!!! 後ろに目つけてんの! おまぬけワンちゃんいただき!」


マリティーポップはそこまでボーンヘッドではない。追ってきたワンちゃんに噛み付かれる寸前逃げ足から反転し、MT3規格の剣で串刺しにした。


貫いた並々ならぬ青いまりょくを込めた刃はそれだけではない。彼女は逃げながらあたためていたのだ。


「だからねーーッあんたらいかげん多いのよッ【バブルポップ】!!!」


勇ましい啖呵を切り、まりょくは極限膨大にその刀身に込められて膨れ上がる。


そして彼女は青く妖しい切先を真っ直ぐ、群れのど真ん中へと向けた。


マリティーポップの最大魔法は発現する。



発射された中型の泡、数多の泡粒群はストローの群れと接触。


そして泡は弾けた、カラフル鮮やかにポップに爆発連鎖していく。

最大魔法かつ範囲魔法で効率よくおびき寄せたストローの撃破スコアを重ねていく。


一瞬で、10、20────


トレードマークである彼女のカッチュー、みずいろとピンクのジャケットパーカーは強風を孕み揺れる。


「ふんっ、こっちの方がゼンゼン多いでしょっ。仲良く泡に消えなさぁーい!!! あはははは…はっはっはーーーー」


ひとことでいえば爽快。

ひとことでいえば豪快。

ひとことでいえばポップ。


マリティーポップは大勝利を確信させる爆発花火を見つめ笑っている。




やがて前方を爽快にいろどっていた爆炎が明ける────


すると、甲高いオンナの高笑いがどっとトーンダウンした。


「はっはーーぁは? ……くっ!? お片付けに増援そりゃないでしょ!! どこにそんなにいたっていうのよ!! はぁあ!? ストローがかくれんぼするっていうのぉ!?」


「まりょくがもう……くっ通信が……あぁーなんで通信がまりょくでイカれるのよーーーーっ! 街はビカビカ光ってんのにどうなってんの電力会社ああ」


「よーーしやってやる! 死んだら恨む電力会社!」


大勝利のカラフルが明けて近づいて来るけしきは、片付けきれていないカラフルな絶望。


第二陣、ストローの大群だ。


目に見えた光景にマリティーポップは、額の汗をジャケット袖で拭った。


そしてMT3の刃を目を凝らし構える、


大魔法をつかいまりょくもない本部への通信もイカれて使えない、だがその身を保護するシールド値だけはまだある。

彼女の中の覚悟はあっさりと決まった。



魔法ソード少女として





金色の中型カエルに蹴られてポップな衣装のオンナは電柱に身を強く打ち付けられた。


狭い路地に逃げ込んで戦ったが、剣一本、精一杯の足掻きもむなしく押し込まれた先は行き止まり、

ストローの種類はカエルとお玉杓子の隙のないコンビ、敵はそこらにいる。


マリティーポップはこのシチュエーションがなんなのかを知らないが、ひしひしと…身震い…知っている。


「死ぬっていうの……ここが墓場なんて認めちゃうっていうの! 私のやってる魔法ソード少女って、そんな弱い! ──ッまりょくがないから負けた、そうそうそう! 納得、わたしはつよい! うん、魔法ソード少女マリティーポップはつよかった!!!」


地に転がった剣をまた取る、魔法ソード少女はその最後も勇ましい魔法ソード少女でいたかった。強がりでもその手はその剣を取っていることには違いない。


マリティーポップは止まらない時が動き出し、つよい己に寄ってたかって牙を剥く、そのこうけいに震えながらもニッと笑った。




『そうね、まりょくがない魔法ソード少女は──』




水色髪はニッと笑って────黒く染まった。


満身創痍の水色髪に体当たりを仕掛けたお玉杓子を撃ち抜いたのは、黒い弾丸。

いや、魔法。


天からぜいたくに降り注いだ黒い雨は、デタラメではない。いっぱついっぱつ、精密に水色にたかる脅威を取り除いていく。


「戦闘力が格段に落ちる。だからまりょく量は節約すべき、だからまりょく量は込めるべき」


黒い魔法ビームを避けて、なおもマリティーポップを飛び跳ね襲った金色カエルを──闇夜に紛れた刃は虹色に切り裂き、アスファルトへとダイナミックに降り立った。


袈裟斬られた金色は腕脚をX字に目一杯のばしながら、やがて黒く爆散。


黒い雨は降り止む────


それがこのデータゾーンの最後のターゲットであった。


辺りはものものしく荒れ、狭路屋根上に大挙していたストローはのこさず平らげられていた。



「だ、だれ!?? 新入り!? ありがとうたすか」


尻餅をつき謎の黒を見上げる湖の瞳に、


打ち込んだローファーの蹴りは上へとはずれ、へし折れかけていた電柱をへし折った。


「私は正す! …ひつようもないかも……弱者は」


「じゃ、弱者ぁ!?? ちょっとおおおお誰が弱者なの」


救援にきたと思われる黒セーラーのオンナの随分なご挨拶に、尻餅からたちあがり反応した湖の瞳その水面はおどろき荒れ、声を荒げた。


「弱者じゃないならせめて足は引っ張らないで、──威勢だけの紛い物?」


「はあああ!?? ま! まがっ…今なんてえてええ!!」


次に出てきた言葉もクールな声にのせたドぎついもの。容赦がない──

そして耳障りな水色の声をBGMにし、魔法ソード少女の救援に成功した少女は黒髪を右耳のうえへと掻き上げ通信をつないだ。


「転送可能ですか? 終わったのでお願いします」


『はい。こちらマリティー本部イージスのオペレーター長山透! おつかれさまですマリティーブラン、指示通り本部へ転送後、待機中の懸隊かかりたいをあつめ派遣します後処理はこちらに任せてください! 甘いケーキもごよ──』


「ちょっと待ちなさい!」


「遅い人を待っている暇はないから。懸に拾われてなさい、まりょくぜろの時代劇?」


「な、な!?」


「ナガヤマはやく、」


『なっ、なま!? はい、ナガヤマただいま!!』


澄んだ声で名前をよばれた長山透はマリティーブランの本部への転送作業を急いだ。


気まずい空気が狭路に吹き抜けていくが意に介さず、ブランは月夜を目指した切先から黒い祝砲を一発打ち上げた。





▼▼

▽▽





まりょくをつなぎ転送はほどなく完了し、本部へとマリティーブランは帰還した。



▼ろうか8▼にて



任務おわりにまた鉢合わせたのは心がキュンとするような運命ではなく、勃発してしまいそうな黒と水色の喧嘩ムード。



「ちょっと!」


「なに?」



凄ませた用あり顔をすれ違い華麗にスルーした、マリティーブランのスカした背をマリティーポップは声を張り上げ呼び止めた。


立ち止まったブランは振り返りきょとんとした顔をしている。


とうぜんその舐めた態度とツラにポップはより一層表情を凄ませ、



「あ・り・が・とうッッ!!!」



放った一言は、とうぜん何はともあれ救援にきてくれたお礼であった。


「そう? まりょくは?」


ブランは平然と水色をみつめこたえる。

特大のありがとうにあまり驚く様子もみせず、平坦な声がポップの耳まで届いた。


「はぁ…そうじゃないし。まりょくは踏ん張ったらでたわよ!! そんで! あんた知らなかったけど売り出し中なんだって!」


「売り出されたら困る。だって売り出すべきなのは私じゃない。(そう、たしかにぜろでも踏ん張れば眠ってたまりょくが出ることはトレーニングでもある。それが魔法ソード少女のまりょく量成長…になったりする)」


「はぁ? なにいってんの?」


「魔法ソード少女、マリティーだから」


真面目な顔で黒髪の少女はそう言った。


できあがったふたりの静寂に、


黒髪美少女の端正な顔に似合う、良いそよ風が吹き抜けるような────


「なるほ…ってあんたもでしょーーーー!」


気のせい。

よぉく頭で考えた水色の魔法ソード少女は、トンチンカンなことを言う真正面の黒い魔法ソード少女にとうぜんのように突っ込んだ。


魔法ソード少女マリティーはあんたも、売り出すべきはあんただからだ。


「……」


急に無言になった黒は水色の魔法ソード少女へと一歩一歩…接近し、


「な、なに…?」


しかと相手の目を見て、桜色のくちびるをよくうごかした。


「あなたはちがう。あの金色カエルのストローはそんなに強くなかった、だからきっとよわい?」


ほんのすこしだけ、約3度ほど黒髪の少女は首をかしげた。


「はぁ!? さっきからァデータゾーンからァッそれがあなたのコミュニケーションスタイルなわけ! ってこの魔法ソード少女マリティーポップが苦戦したのがあんなキンピカカエル一匹なわけないでしょ──ってちょっと自分だけ毒毒しゃべって背を見せるなあああ」


特大のうるさいBGMにもその背は戻らない、振り返らない。元のレールへともどりコツコツと用のない廊下を足音立てて歩んでいく。



個性を重んじているのか、魔法ソード少女には性格に難のあるもの、協調性に欠けるものもいる。


そんな特別な少女たちの心中深くを推し量るのはむずかしい、マリティーブランは特に。

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