有名人

雪葉

有名

「私、この国で一番有名になりたいの」


 先週、私の幼馴染とカフェで話していた。幼馴染は昔から目立ちたがり屋でかわいらしく、中学校でも生徒会をしており、今もしている。とにかく皆の視線を集めたがる人だった。

 正直私は彼女と正反対で、あまり目立ちたくないタイプだったので、彼女の事を変わり者だと思っていた。


「響香はどうして、有名になりたいの?」と私はコーヒーを飲みながら彼女に問う。すると彼女は目を輝かせて言った。


「いろいろな人が私の事を見てくれるでしょ?」

「それって、楽しい?」


 私は少しきつい言い方をしてしまった事に気が付き、焦って彼女の顔を見たが、彼女の表情は変わっていなかった。


「うーん……楽しいってより、なんか満足するっていうか……何より、あいつらを見返したいし」


 響香は小中学校でいじめられていた。私は家が近く遊んでいただけなので、彼女のいじめには、中学校卒業まで気が付かなかったけど、随分酷かったものだったと、後になって響香から聞いたのだ。

 彼女曰く、昔にそのいじめっ子から、「お前なんか、一生目立たず、すぐに死んでいくんだよ!!」と言われていたようで、その言葉を、未だに忘れていないらしい。

 彼女とは違い、地味に生きている私からすれば、全く気にならない言葉だが、目立ちたがり屋の彼女にとって、とても腹立たしいものだったらしい。


「へえ。で、どうするの?」

「自分で何とかするよ」


 彼女はテーブルの上にあるコーラの入ったコップに刺さっているストローを回しながら言った。まあ、実際彼女は可愛いし、どうせすぐに売れっ子アイドルとか、女優とかになりそうだけどね。

 でもその時唯一気味が悪かったのは、彼女の顔が少し、狂気を含んでいるようだったことだ。一瞬だけ鳥肌が立ってしまった。



 昔幼馴染が好きだと言っていたドラマの再放送が始まると、CMでやっているのを見た途端に、その時の事を思い出した。

 ソファに座ってくつろいでいた時、スマホの着信音が鳴る。

 中学時代からの友人から電話が来ていた。


「もしもし?鈴?どうしたの?」

「知らないの?酒井、殺されたんだってさ」

「え!?マジで!?」


 酒井とは、昔から響香(幼馴染)をいじめていた男だった。

 息をするように人の恨みを買うような男だったし、高校生になって、他の男の彼女でも奪ったりしたんだろう。正直私は興味なんて無いが。


「まさか今度みんなで集まろうって言ってた時に、こんなことになるとは……そういえば、犯人はもう捕まったの?」

「いや、まだみたい。私今バイトの休憩中でさー、テレビ見れないから、もうニュースでやってるかも」


 私は右手でスマホを持ったまま、目の前のテーブルに置いているテレビのリモコンを手に取り、テレビの電源を点けた。


「あーやってるよ。今ニュースで……」


 私が友人に行ったとき、友人は「犯人出てた?」と聞いてきた。

 私はどうでもいいなと思いながら、テレビを黙視する。

 その時、驚きの名前がテレビに表示された。

 そこには、幼馴染のフルネームが『容疑者』と書かれた隣に書かれていたのだ。


「ちょっと?ねえ、誰なの?犯人」


 私は電話の向こうで大声で聞いてくる友人の声を無視し呟いた。


「なんだ。そういうことか。有名人になれたじゃん」

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有名人 雪葉 @yukiha1225_2008

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