第2話:現世に来ちゃった。

「・・・・今、連れて帰れって言った?」


「言った、言った・・・私、ここからまじ抜け出したいの」

「お願いユウキ・・・ね?」


「今までも、ユウキみたいにここに来た人は大勢いたけど、その時は、

他の世界に行くことなんか考えてなかったのね」

「私は当然のようにここで一生を終えるのが自分の宿命だと思ってたから・・・」


「でも今は、ここ以外の世界も見てみたいと思ってて・・・」

「だからユウキがここにやって来たの私にとってベストタイミングだったの」


「きっと巡り合わせだって思わない?」

「こうなるためにユウキは階段から落ちたんだよ」


「え〜そんな勝手な・・・」


「撫子ちゃんが俺が階段から落ちるよう呪いをかけたんじゃないの?」


「ん〜誰か生きたままで魂だけこっちに来ないかな〜ってのはずっと思ってた

けど・・・」


「それだ・・・」


「な、わけないでしょ?」

「私一人でも現世に行こうと思えば行けるんだよ、でもひとりで行くより知り合い

と行ったほうが、なにかと都合がいいでしょ?」

「行った先で路頭に迷わなくて済むからね」


「私、頭いいでしょ?」


「知り合いって・・・俺のこと?」

「他に誰がいるの?・・・私たちもう知らないどうしじゃないでしょ?」


「ね、私が向こうに帰してあげるから、一緒に連れてって?」


「まあ俺は一向にかまわないけど・・・どうせ向こうに帰ったってひとりだし」

「連れがいたほうが楽しいし、君みたいな子がそばにいてくれたらウハウハだしね」


「ユウキ・・・鼻の下、伸びてるよ」


ってことで撫子ちゃんの神通力で俺は現世に帰れることになった。


「ユウキいい?行くわね、しっかり私に捕まっててね」


「あのさ、髪の団子が邪魔なんだけど・・・」


「私の右に回ればいいでしょ」

「しっかり私をハグしててね、離れると地獄に落ちるよ」


「え〜そんなオチがあるのかよ」


で、私はユウキにしっかりハグだれたまま手に持っていた錫杖をシャクシャクって

二回鳴らしたの。


で、気がついたらどこかの場所?・・・部屋の中に出てた。


「ここどこ?」


「たぶん、病室だな」

「どうやら現世に帰ってこれたみたいだね」


「たぶん戻るならユウキの部屋か病院でしょ?」

「スーパーの野菜売り場かなんか戻ったら晩御飯の食材買って帰らなきゃ

いけなくなるからね」


「どうぜ食材ないから買い物して帰ってもいいけどな」


見るとユウキがベッドに寝かされて顔や体に器具がくっつけられていたの。


「あ〜俺が病院へ担ぎ込まれた時はまだ死んでなかったから、延命処置を受けて

たんだ・・・それで仮死状態だったんだな」

「いわゆる「今夜が山場です」って医者のセリフ・・・あれだ」


「ブツブツしゃべってないで早く体に戻ったら?」


「おう、そうだ・・・生き返らなきゃ」


私は念仏を唱えながらまた錫杖をシャクシャク二回鳴らした。


「おん あぼきゃ なんちゃら かんちゃら はらばりたや うん」


するとユウキの魂は自分の体に吸い込まれていった。


「どうかな・・・俺の目でちゃんと周りが見えるぞ・・・なんか生きてる

実感がある」


「ってことは大成功〜、ただいま〜だね・・・めでたく生き返ったよユウキ」


「めっちゃ嬉しそうじゃん」


「だって死なれたままじゃ困るもん・・・私、路頭に迷うもん」


「テンション高めな子だな撫子ちゃんは、物怖じしないしめちゃ明るいし」

「いいのかな?俺は生き返りたいがために、よその世界の子を連れて帰って

来ちゃったけど・・・」


「いいの、いいの・・・気にしない、気にしない」

「私、現世に来ちゃった」


ってことでユウキはつつがなく病院を退院した。


ユウキは病院のお世話になってたことは誰にも言ってないって・・・。

だから両親も友達も、今回の出来事は誰も知らない・・・知ってるのは

私だけ・・・。

で、私はユウキに連れられて彼の家に、ご招待された。

念願叶って現世に来た以上、ここで生きてく覚悟決めなきゃね。


初めて見るユウキの家「マンション」の部屋・・・狭って思った。

さもあらん・・・留魂舎利に比べちゃいけないよね・・・人間界ははじめて

なんだから・・・多少のことは我慢、我慢。

そのうち慣れるから・・・。

これからが大変かもしれないけど、私頑張る。


こうして私、姫巫女と階段から落ちて死に損ないのユウキとの同棲生活が

はじまった。


つづく。

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