第三章 メンヘラ、投資を開始する
第11話 投資目標達成報酬、決定
あまりにも絶望的な金銭感覚を正常に戻すため、もう一ヶ月ほど様子見をすることに。
ストレスによるムダ使いを解消し、節約脳に切り替える。
家計簿アプリを導入しただけで、ムダな出費が可視化できたのが大きい。
お菓子、どんだけ買ってたんやと。
そのおかげで、月に三万円くらいは貯金できるようになってきた。
スパチャという突発的な不定期収益には、期待をしない。
動画の収益を見越して、計算をすることにした。
「おめでとうございます、リアンさん。これだけ維持できれば、投資フェーズに移行してもいいでしょう」
ウチの自宅にて、むつみちゃんからようやく投資の許可が降りる。
「やった!」
下手をすると、証券口座を開いただけで企画倒れになるところだった。
がんばったで、ウチ! せやから酒の量には、目をつむってな!
「でも、そんなんでええんやね?」
おかげで、月に三万円ほどは貯まっていったかなと。
さすがにガチャとか酒とかなどの支出は、まだ抑えられそうにない。
「まあ、リアンさんはこれからですからね。あまり家計を絞り込みすぎても、生きがいまで失ってしまいますから」
投資家の中には、「なんで投資していたのか」と、目的を見失ってしまう人も多い。
節約という手段が目的化して、せっかく収入があってもすべて投資に回してしまうという。
お金を使わないことがステータスになると、こうなるのだとか。
結局は、ムダ使いさえ見直せばよい。
過剰な「自分へのごほうび」だけを節制して、節約に励む。
「それでですね。感じの投資目標達成の報酬を、どうするか考えたんですよ」
「ほうほう?」
「発表の前に、動画を作りましょう」
「よしよし」
動画をセッティングする。
「これで、いつでも達成報酬を見直せますからね」
「OK」
ウチは、録画をスタートさせた。
「では、アンさん。生活防衛資金の額が目標値に達成しましたね。おめでとうございます」
「ありがとうございまーす」
自分で自分に拍手を送る。
「とはいえ、アンさん。まだまだ切り詰めが足りないかなーと」
生活防衛資金は本来、生活費の三分の一か、半分。最大でも半年は無職でも生活できる金額が必要だ。
しかし、ウチはエンゲル係数が高すぎる。
ムダ使いが多いのだ。
これでは、まともに生活すらままならないかも。
「ここから先は投資をしつつ、生活費の見直しをしていきましょう」
「はーい」
前置きは、ここまで。
いよいよ、報酬の発表となる。
「まず、投資金額が五〇〇万円に到達した場合、スタジオ部屋を一室、プレゼントします」
いえーい!
収録ができる部屋は、ほしかった。
勝手に部屋を防音仕様にして、大家さんに怒られたりしたもんね。
速攻出ていったけど。
もう、そんな日々とはオサラバだ。
「ただし、頭金だけです。それ以外は、実費で借りてください」
「うんうん! 借りる借りる!」
絶対に、手放すもんかっての。
「一千万到達した際は、新衣装のリクエストができます」
おおーっ。
「新衣装で、こうやりたいってのを、考えておいてください」
「おけー」
「二千万貯まったら、ミュージックビデオを撮影します」
えらいこっちゃ!
「オリジナルソングってこと? カバーじゃなくて?」
「はい。オリジナルソングの発注ができますよ」
これは、夢のような企画だぞ。
「でも、お高いんでしょ?」
たしか、有名な箱のライバーがいうには、「車一台買えるほどの費用がかかった」そうな。
車って言っても、高級車だろう。「ゼロの桁が違う」って言っていたし。
ウチが頼んでもかなりの金額になるのは、容易に予想できた。
有名な絵師さんにイラストを書いてもらって、なんならアニメーションまで書いてもらう。
作詞作曲も、有名どころの方のはず。
「最後、三千万だと、3Dライブをします」
「おおおおおお!」
夢のライブだ! ライブがしたくて、Vを始めたようなもんだから。
「でもさ、大丈夫なん?」
結構な費用が飛ぶのでは?
「3Dライブって、やろうと思えば意外と安いんです」
「最安値で、どんくらい?」
「アバターを作るだけだったら、五万ほどでできます」
「そんな安いん?」
「はい。専用サイトのアバターを改造すれば」
逆に「フルスクラッチ」と言って、ゼロからモデルを持ち込むと高くなるらしいが。
「さらにスタジオを借りるなら、四〇万くらいですかね」
「マジか。そんなに安く収まるもんやねんな」
Vならステージも必要なく、どこかのスタジオを借りればいい。
そのスタジオが持っている、3D空間がある。
「アバターづくりと、スタジオ代で、合計五〇万前後か」
「安く済ませようとしたら、それくらいかかります」
値段相場に、ウチは驚く。
アバターをゼロから作ろうしても、五〇万は考えないといけない。
ウチもそれくらい貯めてから、本格的にVの活動を始めた。
それまでは、顔を出さない生身配信で、人前でしゃべることに慣れていく。
で、しらすママにお願いしてVのアバターを作ってもらった。
Vの顔ができるまでは、仮のアバターを自作してやっていたっけ。それこそ、さっき言っていた専用サイトのアバターをいじくって。
同じようにやっていた個人勢は、最大手の箱で億のPVを叩き出している。
「ただ、かなり規模は小さくなりますね」
実際のライブ風景を見せてもらった。
「たしかに、キャラが動いてライブをしているだけ、って感じやね」
これでも、すごいことはすごい。技術の進化を感じる。
だた、見る人が見たら、「お金がかかっていないな」とわかってしまう。
アイドル好きなら、なおさらだ。
「ああ、このスタジオの風景は、誰々ちゃんがやってたライブステージの使い回しだな」と、感じる人は感じるだろう。
ライブと言っても、いろんな形があるものだ。
「これは、フリートークのコーナーとかで活用させてもらったほうがええかもね。コメディタッチの企画とか」
「そうですね……」
それでも、専用スタジオが手に入れば、自力で全部できる。
これは、夢の大企画だ。
「とはいえ、です。ここだけの話なんですが、アンさん。あなたは普通に活動しているだけなら、三千万はあっという間に貯まるんですよね」
思わせぶりな発言を、むつみちゃんが語った。
「そうなん?」
「はい。税金を考慮しなければ」
「ああ……」
大量に稼ぐということは、大量に税金を持っていかれるのだ。
「国家の公然たるカツアゲ」とは、よく形容したもので。
「そうはいうても、ウチってその発言者の何百分の一、いや何千分の一も稼げてへんよ?」
「ですが、注目度は高いんですよ。これまで、本格的に投資に目を向けたVって、なかなかいませんでしたから」
投資系のVは、いることはいる。
しかし、投資先の解説をしてくれる、うんちく系の人だ。
その点、自分が投資をして泣きを見たり笑ったりするVは、あまり見かけない。
「大手の箱で、投資に目を向けること自体が、珍しいんですよね」
たしかに話を聞いていると、大手Vでも投資になんて手が伸びないなと。
投資金額を増やすくらいなら、ライブする費用を貯めるよなー。
「ですから、投資は少額の余剰資金で、コツコツやっていきます」
予定ではこの企画は、年単位で行うそうだ。
「ほんなら、稼いだお金は使っていいってこと?」
「もちろんです。ある程度は、自腹で頼まなければいけませんからね」
Vで活動資金を貯めて、節約生活をする。
投資で金額を膨らませていって、また新しいライブを始めるわけか。
「FIREなどの早期リタイアはお考えではないと、聞きました。なので投資資金を切り崩すことも、考えておいてください」
「おっけー」
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