色付いた想いが輝き出す
私達は色んな偶然を経てここに居る。
どれ一つでも欠けては成立しない、大切な思い出ばかり。
私は胸の痛みに手を添えた。
閣下が、キアノス様が好きだ。
勿論、尊敬の念や恩義もある。
でもそれ以上に、私は閣下を一人の人間として見てる。
この人の隣に居たいと思ってしまう。
どうしよう。
セロの私がこんな事思っちゃ駄目なのに。
じわじわと目が潤み、零れないよう唇を噛んでグッと堪えた。
「ロゼ?」
「ランタン、とてもきれいですね」
「……」
「来年も、あの光が見れるよう、私もがんばって……」
最後まで言い切らないまま、閣下に引き寄せられた。
そのまま抱きしめられて、私は広い胸元に顔を埋めた。
「そんなに震えて、何も無い訳がないだろう」
頭上から聞こえる優しい声、身体を包む体温。
欲しかったものがすぐ側にあるのに手を伸ばしちゃいけないなんて。
そう思ったら涙が堪えきれなくなった。
すすり泣く私の頭を、大きな手が優しく撫でてくれた。
「明日の事が不安なのか?」
「……少しだけ」
「話なら聞くが」
「いえ、今は……もっとギュッとして欲しいです……」
抱きしめて欲しいと強請るなんて子どもみたいだ。
でも閣下は呆れる様子もなく、抱きしめ直してくれた。
トク、トクと閣下の心音が聞こえる。
少し速くて、それが心地よくて、もっと堪能したくて、私は閣下の背中に手を回してしがみついた。
すると心音が、また少し速くなった。
国一の剣豪が、セロの私がする事に動揺してるなんて。
もうこれで充分じゃない。
「本当にこれでいいのか?」
「え?」
まさか心の声が聞こえたの?
弾かれたみたいに顔を上げると、直ぐ側で宝石のような紺青の瞳と目が合った。
前にも見た、色濃く見える深い青。
色に反して熱っぽさを感じる。
「君を安心させてやりたい。 だがそんな顔を見ると、俺しか映らない位に乱してやりたくなる。 許してくれ」
どういう事かと聞き返すよりも先に、サラリと閣下の前髪が額に触れて、私の唇を閣下の唇とが重なった。
抱き締められてる安心感と上手く息が出来ない不安感とが綯い交ぜになって、頭がふわふわしてくる。
初めてのキスを、好きな人にしてもらえるなんて思いもしなかった。
それがこんなにも満たされた気持ちになるなんて。
ゆっくりと離れる唇をぼんやりと目で追うと、耳を赤くした閣下の顔があった。
少しバツの悪そうな顔、でも私の身体に回した腕は決して解こうとはしない。
それがまた嬉しくて、私は気が抜けた様に笑った。
「元気、でました」
それだけ伝えて、私はもう一度閣下に抱きつき直した。
一瞬閣下の身体が硬直したけど、でもすぐに私を抱きしめ返してくれた。
手が届かないんじゃない、こうしてちゃんと私の腕の中にある。
なのに言い訳して諦める方が余っ程傲慢だ。
もう、諦めるなんて出来ない。
好きでいる事は自由なんだから、この人の隣に立てるぐらい強くなろう。
さっきまでの不安が涙に溶けて流れていくみたいだった。
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