魔晶石の可能性
昼間の騒動が閣下の耳にも入ったのか、屋敷に戻るなり閣下に呼び出されてしまった。
初日早々に問題を起こしたから怒られるんだろうな。
私は重い足取りで執務室に向かい扉を叩く。
呼ばれて開けると、書類に目を通していた閣下が早々に渋い顔をした。
「どうやらアルフレッドが会いに行ったらしいな」
「はい……」
「それで、怪我はないのか?」
「え?」
「教官と手合わせしたんだろ。 怪我はないのかと聞いてる」
「はいっ、大丈夫です」
あれ、思ってたのと違う。
しかも心配してもらえるなんて驚いた。
「アルフレッドも自分の目で見て判断するやつだから他意はない。 許してやってくれ」
「そうですか……」
閣下と同じ『黒の騎士』のアルフレッド様。
イコール『とてつもなく強い』という事。
得意分野がすごく気になる所だ。
「何を考えてる?」
「あ、アルフレッド様がどんな方なのかと……」
「……」
あれ、なんか眉間の皺が増えた。
マズイことでも言ったかな。
「騎士団の副官、専門分野は魔法だ。 研究熱心な奴だから高等魔法も使える優秀な男だ」
「そんなすごい方なんですか!」
「……まぁ好意を持つのは自由だ。 せいぜい励め」
「はぁ……」
あんな殺気を放つ人とどう仲良くなれと?
そもそも身分が違うから話しかけるのも恐れ多いのに。
出来れば関わりたくないのが本音だ。
そう言えば。
「閣下、一つ伺っても良いですか?」
「何だ」
「魔晶石があれば
すると閣下は瞳を大きくしたのち、顎に手を当てて考え込んでしまった。
その表情にチクリと胸が痛む。
可能性を聞いたつもりだったけど、『セロが魔法を使うなんて』て思われたかな。
『烏滸がましい』って言われるかな。
すると閣下は執務室の片側に置かれたソファへと移り、自分が座った隣を無言で叩いた。
え、隣に座れと?
そんなの不敬罪になりますよ!と無言で主張したら、閣下自ら私の腕を引いて隣に座らせた。
「君は、魔法が使いたいのか?」
閣下がガチガチに固まった私を覗き込む様に問いかけた。
もしかして話してもいい……という事かな。
「……憧れはあります。 魔物と対峙した時に便利かなと思うので」
「なくても充分戦えるだろ。 君が魔力をもったらそれこそ脅威だ」
「人を爆弾みたいに言わないで下さい!」
「あぁ、済まない。 だが今のままでも充分だというのは本音だ」
あ、さっきまで不機嫌そうだった閣下がほんの少しだけど笑った。
つられて私の身体からも少し力が抜けた。
ホッとした、というべきか。
すると閣下は立ち上がり、執務机の引き出しから何やら小箱を取り出した。
「これは君の物か?」
差し出されたその箱を開けると、トップに銀細工が施してある首飾りが入っていた。
「私の御守り……!」
「やはり君のか。 ザクセンが鈍いヤツで良かったな」
そう言って閣下が銀細工の側部に触れると、パチンと音を立てて銀細工のフタが開いた。
すると中には曇りのない蒼緑の石が埋め込まれていた。
天井の照明に照らされてキラキラと輝いて見える。
「こんなのが入ってたなんて……」
「特殊魔法がかかっていたから、恐らく魔晶石が入ってる事に気付かれないようにしていたんだろう。 さすがルカス殿だ」
「何故隠す必要があったんですか?」
「魔晶石は国からの採掘許可が必要だから高価で取引されている。 中でもこれは魔力を吸収できる珍しい魔晶石だ」
「魔力を吸収できる石が存在するなんて……」
「これを持って魔法を使うと、逆に魔力を吸われて効力が弱まる。 だからあまり需要はないんだが、魔力で酔う君には確かに御守りになる」
『大切にしなさい』と言われたのはそういう意味だったんだ。
両親の気遣いに涙がでそうになった。
「貸してみろ」
何かと思いつつ首飾りを手渡すと、閣下は小さな留め具を外し、私の首元の髪を掬った。
え?
ふと触れた冷たい指にドキリと胸が鳴る。
閣下はそのまま首の後ろに両手を回し、カチン、と首飾りを付けてくれた。
「今度は奪われないに、な」
「は、はい……」
正面からだから、閣下との距離がすごく近い。
まるで腕の中にいる様な錯覚を起こす。
恐る恐る顔を上げると、やっぱり閣下の綺麗な顔があって益々心拍数が上昇していく。
それでも紺青の瞳がジッと私を捉え、私も目が逸らせなかった。
「あの、閣下……?」
居た堪れなくなって蚊の鳴くような声で呼びかけると、閣下は何かを思い出したかの様に瞳を大きくした。
そしてスッと目を反らして執務机の方へと戻っていく。
「今日はそれを渡そうと思って呼んだだけだ。 魔晶石の事ならアルの方に聞いたほうが良い。 話す口実になるだろう」
「は、はぁ……」
いや、出来れば近づきたくないんですって。
それに私なんかが聞いていいものなのか。
閣下なら、と思ったけど、これ以上は教えてくれない気がした。
これ以上は仕事の邪魔になるし、私は『ありがとうございました』とだけ告げて部屋を後にした。
そう、首飾りを返そうと思っただけ。
怒られる訳でも心配してくれた訳でもない。
ただの話のきっかけだ。
何だか淋しい気もしたけど、思い上がってた自分を嗜めるよう頭を振って自分の部屋に戻ることにした。
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