第33話 雑談、初恋って

 「そういえば、柏木さんは高校でテニス部だったんだよね。じゃ、現役高校生だった下田君は何してたの?部活。」


「あ、すみません、盛り上がらない答えなんですけど、帰宅部です・・。」


「うっわー、確かに、この流れバッサリ断ち切って来たねー、下田くん。でもこれは、質問者の責任でもあるかな、ということで、飛鳥馬さんは何部だったんですか?」

柏木さんが飛鳥馬さんをキッと見つめた。


「え?私?・・部」

「え?聞こえなかった。何部?」

口ごもる飛鳥馬さんに柏木さんの追及は止まらなかった。


「eスポーツ部だった。」

「うっわ微妙ー、一番リアクションに困る答えじゃん。」

「しょうがないでしょ、昔からゲーマーだったんだから。」

「ハイハイ、飲み会では仕事につながる話禁止ー。微妙な答えのペナルティとして、初恋の話をして下さーい。」

「えー、微妙な答えって、事実だから変えられないよね。無茶苦茶だなもー。」

「いいの、ほら、修学旅行の夜は、初恋の話をするって修学旅行のしおりにも書いてあったでしょ。そうね、初恋はいつ、どこで、どんな人か、あ、あとその人の名前も言う、ハイ、スタート。」

柏木さんがパンッと手を叩いた。


もう、馬鹿馬鹿しすぎてニヤニヤが止まらなくなってきた。これを大の大人がやってるんだからね、まさに気の置けない仲間だよね。


「はいはい、じゃ、いきますよ。そうねぇ、初恋ねぇ、どれが初恋っていうのか定義が曖昧だけど、小学校2年生の時の担任の女の先生が好きだったけど、それはノーカウントとして、5年生の時のクラスメートかな。感じはね、小柄な子でね、美しいとかセクシー系じゃなくて、かわいいお人形さん的な感じ?なんていうかな、アイドル的なキラキラさじゃなくて、守ってあげたい系?って言っても、こっちも同じ小学生なのにね あはは。」


「うんうん、良いね、良いね。で、名前は?」


「え、名前はいらないでしょ。」


「あー、照れてる照れてるー。ハイ、なっまーえー。なっまーえー。」


「ええとね、秋本さつき、ちゃん。」


「さつきちゃん。ヒュー。」


なんだこれ。絶対大人の会話じゃないな。

姉さん、今、酔っ払いの幼児退行をリアルで見てます。オレは飲んでないけど、こんな面白い飲み会に参加できるようになりました、リア充って、楽しいんですね。


「さつきちゃんを巡る争いとか、ライバル同士の死闘とかなかったの?」


なんで小学生が同級生の女子のためにライバル同士で死闘になるんだよ。もう、話がぶっ飛び飛び過ぎてて面白過ぎるよ、柏木さん。


「小学生の時って、そこまでそんな話しなかったから、誰がライバルかも知らなかったんじゃないかな。小学生の時の修学旅行で覚えてるのは、男子の一人が、あ、ちょっと下ネタちっくなるけど、小学生レベルだから良いよね、あそこに毛が生え始めたヤツがいて、それをみんなではやし立ててたら、そいつが泣き出しちゃって、みんなで一生懸命、どうせみんなもうすぐ生えるだから、とかジャングルみたいで恰好良い、とか、今思い出すとわけわかんないフォローして、最後、泣いてたやつも一緒になって、みんなジャングルだーとか、叫んでこと位なんでよね。」


「男子ってやっぱり頭良くないでしょ。」


「そうね、ちんことうんこが出てくれば楽しいんだよね。」


もう3人でゲラゲラ笑った。


「次は柏木さんですよね?」

オレは柏木さんに振ってみた。


「え?わたし?うーん、どれが初恋なのかなー。ほらわたし恋多き夢見る乙女だったから。今もそうだけどね。」


「え?」

思わずつぶやいてしまった。


「下田くん、今のは覚えとくよー。」


「げ・・。 い、いやいや、柏木さんの恋多き乙女の話、話沢山聞きたいですよ。」


「そう?そうねぇ、最初は幼稚園の時かなー。ダンス教室通ってて、そこの先生。キレッキレのダンスと、優しい話し方でね、あーもーこの人のお嫁さんになるって思った。でもね、小学校入ったら、集団登校の班長の6年生が良くなっちゃって、いつも班長の後ろ、2番目を歩いてたんだけど、あの人、名前も思い出せないな。次はね、2年生になったら、6年の班長が卒業しちゃったんで、ロストラブしてたら、テレビでジョリーズの番組見てね、そこでKINKI6のコ―ちゃんに一目ぼれ。でもね、3年生になる頃には、アイドル追いかけてても自分の物にならないって気づいてね、隣のクラスでドッジボールがうまい、ケンジ君にぞっこんになって、放課後、校庭でドッジボールしてるケンジ君を見てたなー。でも4年生になったら、同い年の男ってガキだなぁって思い始めて、ちょうどそのころ、親戚のシュウくんが家に遊びに来てね、シュウくんって大学生だったんだけど、バイクで日本一周してて、その途中でウチに泊まりに来たの。道中の話聞いてたら、大学生って大人でカッコいいなって思って、一緒に連れてってって言っちゃった。しばらくは旅先から絵葉書送ってくれたりしてたんだけどね。次は小学校5年生の時の英会話のALTの先生。アメリカ人で、金髪で彫が深くて、めっちゃ綺麗な英語で、ハーイ、ユキノ、とかって言うのよー。もう、わたし将来は一緒にニューヨークとか住んじゃうんじゃないかって思ったもん。でね、6年の時には修学旅行の添乗員の山崎さん。準備万端で、何でも知ってるの。一緒にいっぱい写真撮ったなー。」


「毎年更新?サブスクの1年更新的な感じかな?」

飛鳥馬さんの呟きに柏木さんが反応した。


「はぁ?恋も成長するって話でしょ。なんでサブスクなのよ、もー。」


3人で爆笑する。

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