第12話 総務部
研究所に来てから1ヵ月が経過した。分かったことは、独立小隊がネット侵犯で対応に参戦するのが、だいたい週2回位だということ。変わったことは、オレの連打が12回/秒になったこと。変わらないのは、芦田さんと毎日メッセージを続けていることで、ここが重要。もうオレは非リアじゃない、なんたって、AIじゃない女性とメッセージが出来るんだからね。そして、良かったことは、何と言っても同僚が出来たことと、引篭もり範囲が部屋に職場が追加されただけような、このビル内だけで生活できちゃう絶妙な環境。ただし、警備の都合上、単独での敷地外への外出は許可制で、一度も芦田さんとは会えていない、これが最大の問題なのだ。
いつもと変わらず指が腫れる連打自主練で1日を終えて、研究室でハンドマッサージャーに手を突っ込んでコーヒーを飲んでいる所へ林さんが入って来た。
やっぱり林さんはキュートだ。でも、オレには芦田さんが居るんでゴメン。って、最近、妄想が暴走モード突入中だな、気を付けよう・・。
「下田さん、入省、入隊して1ヵ月が経過したので、外出許可が申請できるようになりました。外出許可手続きの説明と申請処理があるので、一緒に総務へ来て頂けますか?」
「え?外出出来るんですか?」
横からランニングマシーンで走りながら飛鳥馬さんが割り込んで来た。
「あれ?言ってなかったっけ?うちのチーム、入隊して1ヵ月経ったら外出許可の申請が出来るんだよ。」
「え、でも誰も外出してる人居なかったんで、独立小隊は外出禁止かと思ってました。」
「だってさ、面白くないっていうか、気を使っちゃうし、プライベート感ないから、嫌なんだよね。あ、下田さん、まだ未経験だから分からないかもだけど。」
畳でゴロゴロしている島崎さんが林さんに向かって口を尖らせて、ちょっとクレームっぽく言った。
「えぇと、それはすみません。でも、皆さんは特別なんだからしょうがないですよね? 下田さん、外出するかどうかは別にして、手続きだけはしておきましょ。」
林さんは全く意に介さずといった感じでオレを部屋から連れ出した。
林さんと一緒に総務部へ入ると、太田部長が声をかけてきた。
「お、下田くん、もう1ヵ月経ったんだね。どう?ここの生活?そんなに悪くもないでしょ?」
「はい、仲間も出来たし、気に入ってます。」
「そうか、それは良かった。引き続き、頑張ってよ!」
そう言うとオレの右肩をバシバシ叩いて部屋を出て行ってしまった。
林さんが書類の説明を始める。
「これが外出申請書。独立小隊の皆さんの外出には警備部との調整が必要なので、オンラインでの申請は出来なくて、必ず書面で総務に直接申請が必要なの。そこは手間だけど、よろしくね。」
外出に警備部の調整が必要?それは何だろう?さっきの島崎さんのコメントも気になるし。でも、まぁ、実際に申請してみればわかるよねっていうことで早速、次の土曜日の外出許可を申請してみることにする。
外出許可申請書には、外出目的の選択項目があった。
「冠婚葬祭」の場合は日時と期間が指定可能で、「私用」の場合は、日付指定までしか出来なくて、かつ、最大3時間なんだ。あんまり自由って感じじゃないんだな。
ということで、早速今週土曜日の外出を申請してみた。
林さんが書類を見ながら確認してくる。
「今週の土曜日ですね、わかりました。外出目的は私用となってますが、具体的な場所や予定はありますか?」
「いえ、クラスメートと会いたいと思ってるんですけど、まだ具体的な場所も予定も無いんです・・。」
「それではこちらで適当な場所を指定しても大丈夫ですか? 警備の都合があるので、こちらで指定させてもらう方が調整しやすいんです。」
「あ、お任せします。」
「わかりました。では、クラスメートは何人位で、どんな感じの場所が良いですか?」
「えぇと、クラスメートは女子一人で、ちょっと感じの良い店でコーヒーとケーキとか?かなぁ。。。なんて。」
「あ、それって彼女さん、ですか? あれ?でも下田さんって確か、この世界に来たばっかりでしたよね?」
「いやいやいやいや・・・彼女とかじゃなくて、クラスメートです。この世界に来て話をした唯一のクラスメートなんです。」
「へー、そーですかー。」
え、林さん何故か棒読み。
もしかして林さん、オレのこと・・・いや、それこそ、いやいやいやいやってやつだよな。
書類をケースに入れると、林さんは、再び笑顔を向けてきた。
「わかりました。警備部と調整して時間や場所をメールしますね。」
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