第6話 ゼナ現る
帰宅すると同時にスマホにメッセージが届いた。芦田さんだ。リアル女子からメッセージなんて生まれて初めてじゃないだろうか。なんだかスマホから良い香りがしてきてないか? 歯を磨いてからメッセージ見るべきか? いやいや、まずは落ち着け、オレ。
芦田:こんには。昼にお願いしたグラ8だけど、今夜9時でも大丈夫?
オレ:9時、OK、大丈夫だよ。
芦田:わぁ、ありがとう。じゃ、9時にここのルームに集合ね。私のハンネはチリ。下田君は?
オレ:オレはモキだよ。
芦田:モキ、じゃ、後でね♪
うおぉぉ、オレ、リア充真っ最中。
8時55分、ヘッドセットをつけてグラ8のルームへ入った。
既にチリと他に5人のキャラが居る。
チリ:ハイ、モキ。待ってたわよ、今日はよろしくね! 皆さん、彼が今日の私達のドライバー、モキです。
男A:お待ちしてましたよ、ライジング不動産の皆さん。こっちは、ゼナがお相手しますよ。ご存じかとは思いますが、元F1パイロット、2011年のチャンピオンですね。
チリ:F1のゼナって、それは反則じゃないですか!プロ中のプロじゃないですか!
男B:いやですよ、ライジング不動産さん、公式戦じゃないんだから、プロ禁止なんてルールは無いですよ。まさか、引越費用と退去費目当てで退去しないとでも思ってました? 建替え計画を進めたくないって人達が居るんですよ。だからウチの事務所は退去しないんですよ。
チリ父(ライジング不動産):再開発反対派だったのか・・。このゲームは中止にしよう。勝ち目がない。
男B:まぁ、構いませんけど、不戦敗ってことで、退去は無しですね。
チリ父:そんな・・くそっ。
オレ:あの、チリとお父さん。よくわからないですけど、どうせ走らなくても不戦敗ってことなら、オレ、走ってみても良いですか?
チリ:モキ、それって・・
オレ:やってみないと分からないけどね。
チリ:お父さん、賭けてみましょう。いいでしょ?
チリ父:チリ、任せるよ。
チリ:じゃ、モキ、お願い!
オレ:はい、やってみます。ゼナさん、良いですか?
ゼナ:もちろんOKですよ。で、今日のコースはどうします? そっちで好きに決めてもらっていいですよ?
くそ、余裕しゃくしゃくだな。F1パイロット相手にサーキットじゃ流石に勝ち目が無さそうだ。
じゃシティコースで、あれをやるか。
オレ:じゃ、シティコース、トーキョーでどうですか?
ゼナ:いいですよ。 何回も走る必要ないと思うんで、一発勝負ってことでいいですか?
シティコースで一発勝負。うん、ツキが味方してくれたかも。
オレ:一発勝負ですね、OKです。
ゼナはランボルギーニ、ディアブロをチョイスしたようだ。
オレは予定通り三菱、ランエボを選ぶ。
チリからプライベートチャットが入った。
「ちょっと、ランエボじゃパワー差ありすぎじゃない? 大丈夫?」
「たぶん。オレ、ランエボ使い慣れてるから・・。」
「そう・・。期待してるわよ、下田君!」
姉さん、事件です。オレ、芦田さんに期待されちゃってるみたいです。もてもて街道まっしぐらで、赤いコンバーチブルからドアをあけずに飛びおりちゃうかもしれません。もー、最高。ちょっと、いやいや、すっごくがんばっちゃおう。
レース開始。当然のようにディアブロがロケットスタートして先行する。
ボイスチャット:おー、やっぱりディアブロだねー。
ボイスチャット:ゼナの走りが見られるなんて幸せだな。
ボイスチャット:でも相手がランエボじゃ格が違うじゃんか、ゼナは本気で走ってくれるか?
まぁ、このパワー差だから当たり前。特に気にもしないで、普通にこちらの全開で追いかける。
今は自宅だからステアリングコントローラー使ってるんで、微妙な操作が出来るんだよね。
オレの場合、最高速度とか、加速とかより、ステアリングコントロールがポイントの勝負なんで、これはめちゃめちゃ有利なのよ。見ててよ、芦田さん。
コーナーを抜けるたびに、少しづつ2台の距離が詰まっていく。
ボイスチャット:あれ?なんかランエボ、距離詰めてないか?
ボイスチャット:ちょっと待って、ランエボ、一度もブレーキ踏んでなくない?
気が付いたか。微妙なステアリングコントロールでランエボを荷重移動させてコントロールするノーブレーキ全開走行がオレの技なのさ。ま、技はこれだけじゃないけどね。見てろよ。
ボイスチャット:おぉぉぉ、ホントにノーブレーキでコーナーに突っ込んでくぞ!
ボイスチャット:うわ、これ終わったぁぁ
ランエボは左コーナーを曲がり切れず、右リアがガードレールに吸い込まれていく。
ボイスチャット:あーあーあーあー
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