第30話 やばい何か

 シカーダラーバは、シカーダの幼生だった。

 地上に出ると、一気にさなぎになり、変態をしていく。

 そのさなぎの時は、比較的柔らかく、攻撃が通る。


 だが、その数が問題だ。


 その間に、世界樹の様子が変わってくる。

 光がまし、気のせいかエルフ達が少し元気になった。

 こいつらが、原因だったようだ。


 数に押されて、一つまた一つと、成虫になっていく。


 すると今度は、上空で世界樹に取り付き、樹液を吸い始める。

「ああ。霊木様が」

 エルフの一人がぼやいたとき、絞り込まれたブレスが次々にシカーダを焼いていく。

 いい加減ドラゴンも、鬱陶しくなってきたようだ。


 体長一メートルくらいの昆虫型。


 成虫だと、エルフ達の矢が刺さらない。

 弱いところ。

 羽の付け根などを狙っているようだが、なかなか刺さらない。

「くそう。風が巻くし、スピードが速い」

 そんな、弱気な声まで聞こえてくる。


「自分たちが守ると決めた木だろう、気合いを入れろ」

 叫んだのは、驚くことに巫女カロル=ヴィルジニー=エロディ=シュラール。

 自身も矢を放ちながら……

 なんか、雰囲気が違う。


 どうも、エルフ達。世界樹から力を貰っているような気がする。


 とりあえず、上の方にいる奴はドラゴンと俺達が潰していく。

 今だに出てくる、シカーダラーバとさなぎは、エルフ達でも倒せる。


「いやもう、俺だけで百は倒したぞ」


「世界樹は、根も広い。弱るまで奴らが増えていたのなら、数は分からん」

 ドラゴンから、そんなありがたい話が聞こえてくる。


 気になって、もう一度取り付いている奴らを探査する。

 おおっ。本当に多い。

 根自体がこの島を構築している。それに取り付き、びっしりといるようだ。


 うーん。

 エネルギーの流れ。

 コイツに乗せて、一気に魔法を展開をする。

 そうすれば、幹に取り付いる奴も一気に倒せるかも。


 気を錬り、準備をしていくと、世界樹から反応がくる。


 そうエルフのように、体へ力が流れ込んでくる。

 体へ、青白い光となって見える、この星のエネルギー。

 それが、一気に流れ込んでくる。


「おおお。いっけえぇぇ」

 すると、島が揺れた。

 そんなに小さい島ではない。多分直径では、五十キロを超えているだろう。


 すると、体から煙を吹き出しながら、木の幹に居た奴らが落ちて来始める。

「うまくいったようだな」

 あれだけの大魔法なのに、体が動く。

 魔力も、枯渇をしていない。

 それどころか、まだドンドン追加で入ってくる。


 その時、エルフ達は奇蹟を見ていた。

 世界樹との繋がりが多いものが、巫女となる。


 それがアシュアスには、体の大きさでダイレクトにエネルギーがチャージされている。エルフ達でも、親指の太さくらいの管が繋がっている感じ。

 そして巫女でも、拳ほどは無い。


 それが、あのヒト族は、体からあふれるほどのエネルギーを受けている。

 それで平気なのもおかしいが、今、空から降ってきている成虫は、彼が何かを行ったのだろう。

 さらに、世界樹の輝きが増している。


 這い出す幼虫も、今は居なくなって、地表に出ているシカーダラーバと、さなぎはあとわずか。


 あの震動。

 あそこで何かが変わった。


 煙を上げているモンスター。

「これは内側から燃やされている? もしや、魔法を放ったのか……」

 さすが長老。ナニをしたのか、理解が出来たようだ。


「だが考えるのは良いが、実際出来るのか? そんな事が……」


 だが考えても、答えは出ない。実際、平気で彼は走り回り、ガンガン魔法を使っている。


 やがて彼らも、終わりがやって来る。


 地上には、おびただしい数のシカーダと、シカーダラーバ。


 いま、最後の一匹が、エルフ達により、めった刺しになっている。

 かなりテンションが上がっていたようだ。

 最後の一匹が倒れると、糸が切れたように、エルフ達も座り込む。


 さなぎたちの白濁した体液をかぶり、絵面が非常にやばいものとなっている。


 だが、やり終えたという結果と、光を取り戻した世界樹。

 全員が、満足し笑顔を浮かべていた。



 だが、そこからが、本当の試練。

 疲れ切った体を引きずり、穴を掘り、死体を放り込んでは燃やしていく。

 結構、傷むのが早い。


 夜通しの作業。

 皆がおかしなテンションになっていく。

 そう思ったら、飲んでやがった。

 そう思ったが違う。


 そんな雰囲気だが、飲んでいる奴はいない。

 そうか、シカーダたちの体液が、発酵をして、何かが出来ている。


 皆がそれに酔ってきている。

 エルフ達は、本来長命であるため、種族保存の本能が薄い。

 なのに、この妙なものはやばい。


 森の暗闇で、変なことをしてやがる。


 世界樹の青く、美しい光。

 まるで、海の底にいるような気分になる。

 そう雰囲気は、最高だ。


「おい、早く片付けて燃やさないと、やばいことになりそうだ」

「えっ。あっ。うん」

 うちのメンバー達は、酔ってはいないが、見とれている。


 幾度か、道中の宿で感じた雰囲気。

 目をつぶり、蓋をしたモノが、そこら中で行われている。


 若いとはいえ、興味はある。

「なんだか、気持ちが良さそうね」

 真面目なはずの、フィアまでそんな事を言い出す始末。

 リーポスは、片付けをほっぽって見に行っているし。


「あれ? アミルとクノープは何処へ行った?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る