第25話 解決そして霊峰へ

「きっちり記憶を失った、アーベルさんに説明をいたしますと、このお二人。今のあなたの奥さんクリステさんとその娘エリカちゃんです。私はたまたま宿泊をしている冒険者アシュアスと、うちのチーム」

「リーポスだ」

「フィアです」

「アミルです」

「クノープだ」

 一応手を上げながら名前を言う。


「以上がメンバーです。あなたは、三年前」

「四年だ」

 女将さんから突っ込まれる。


「―― 四年前、シーサーペントに食われた。ところがどっこい死ぬことなく、クリステさんに助けられた。そして、お子さんであるエリカちゃんが生まれた。そして、たまたま生きているところを見つけて、話し合いに行った後、またシーサーペントに食われ、クリステさんとの生活を忘れ元の生活を思いだした。今ここです。理解しましたね」

 本人はそう言われても、首をひねっているが話を進める。


「そして、何事も無かったかの様に、元のポジションに収まりましたが、そうはいけません。この四年の生活があります。まだエリカちゃんは小さいですし、漁をして魚をおろしているお店もいます。冷却系の魔法は使えますか?」

「俺が魔法? そんなもの…… 出来るじゃねえか。何でだ」


「特訓をしたそうです。滝に打たれ、座縁を組み…… まあ魔法の修行としては、大きな間違いですが、なぜか使えるようになったそうです。ラッキーですね。さてと、今現状、あなたは死んだものと思い。辛いお気持ちを克服し、新しい生活を始めた、女将さん。マリベルさんと娘さんであるルネさんにとって、その決意と苦労をすべて無駄にする存在があなたであり、あなたを必要としている、クリステさんとエリカちゃんを忘れている極悪人があなたです」

 そう言って、びしぃと指をさす。

 本人は、目を白黒。


「だが、そうだとしても、俺は思い出せねえ」

 そう言うと、クリステさんの頬に涙が伝う。


 きっと心情では仕方ないと思いつつも、ひどい人だと思っているだろう。


 そう思っていたら、リーポスも思ったようだ。

「ひどい人よね。良いわ。クノープ殺っておしまい」

 そう言って、クノープをけしかける。


「ええ、何で俺? でも殺っちゃうと、それはそれでクリステさんが困るだろう。子育てと、合間の干物作り以外、何も出来ないんだろ」

 矛先が変わり、図星なのか、はうっと言う感じで、クリステさんが胸を押さえる。


「すみません。マリベルさんは苦労して、ルネちゃんを育てたのに。その間私は、この人におんぶ抱っこで……」


「そうですね」

 本人が言っているから、肯定をしておこう。


「はうっ」

 何かクリティカルな、ものが入ったようだ。

 伝っていた涙が、土砂降りになった。


「そこで、周りから見ている者としては、アーベルさんは漁師をして、女将さんはイカ料理とクリステさんはイカも干物を作る。そうやってここで暮らせば、一件落着ですね。後は本人達の心情次第」


「私はかまわないよ」

「いよ、おかみさん太っ腹」

 何処で覚えたのか、クノープが変なかけ声をする。


「太っ腹?」

「ああ、習ったところによると、剛気だとかそういう意味だそうですよ。見た目じゃなく」

「そうかい。それなら良いが、この人が死んだと思って、少し緩んじまったかもねえ」

 少ししんみりしていると、そっと手が上がる。


「私も出来ればここに置いていただけると、そのお家も立派ですし。本当に生活能力が無くて。イカの干物も美味しいですよ。私得意です」


 何とか話が収まったようだ。

 大人達がそんなことを話していると、すでにルネちゃんとエリカちゃんは仲良くなったようだ。


「そうだ。精霊の住む森のことを、知りませんか?」

「精霊? 霊峰があってそこには精霊が住んでいるって聞いたけどね」

「遠いんですか?」

「まあ、街道沿いに行って、途中から山に向けていく道が出る。霊峰の下には立派な教会が建っているからすぐ分かるよ。霊峰の名前はクーマノコードというんだ」


「へー。行って見よう」


 それから数日して、干物を旅の保存食として貰った。


 各自が小分けして持っているが、油紙を通しても結構匂う気がする。


 街道の途中から、匂いにひかれて、狼系のモンスターや獣人がやって来る。

「よー。兄ちゃんいい匂いさせているな。売ってくれよ」

 そう言われるのだ。

 店の場所を教えて別れる。


 そんな事を幾度かして、参拝街道と言う道を、山に向けて進んでいく。

 なぜか、周りには、フードをかぶった人たちが増えて来始める。


 どうやらその装束が、参拝の決まりらしく、それを着ていないと止められることがある様だ。

 ペラペラなのに金貨一枚。

 だが、霊峰に近くなると、もっと値上がりをするようだ。


 原材料の都合で、縫製をしているところが近く、まだ安いのだそうだ。

 軽くて強く、蒸れないらしい。

 エルーカフィラムという、虫の出す糸を紡いだ物だそうだ。


 そして、それのおかげか、問題なく教会に入り、奥の院へと向かう。


 そこには、蛾の群れが飛んでいた。

 エルーカフィラムの成虫。


 鱗粉を吸い込むと毒なので、この装束が必要だったようだ。


 そうして、一応拝んで。

 さらに奥へと進む。


 ある程度行くと、森の植生が変わって、エルーカフィラムもいなくなった。


 そして声が聞こえる。

「なんだ、同種のものから、加護を貰っておるのか」

 うん山だから。フェンリルが出たよ。

 よだれを垂らして。


 

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