第23話 おばさん。もとい、お姉さまの敵

「さー食べな」

 さっき焼かれていたのは、イカという生き物らしい。

 魚を発酵させた、魚醤を用いて香ばしく焼いたもの。


「美味ーい」

 だが……


 イカ焼き、イカ刺し、小麦を錬ったものにイカが入ったもの。

 イカの中にマメを入れて煮込んだもの。

 イカと男爵芋の煮込み。

 イカ団子。

 

「美味しい。そう、非常に。でも…… 他の物は?」

 聞いてはいけない雰囲気だが、あえて聞く。


「無い。イカは目の前で、幾らでも獲れるのさ。他の物は買わなきゃイカない…… それには、金が要るんだぁ」

 そう言って天を仰ぐ。

 おばさん……


 子供を育てた、立派な胸がぶるんと揺れる。


「周りは空き家みたいですが、どうして此処に?」

「ふっ。ここは主人が建てた家なんだ。お金がなくてね。適当にだが……」

 そう言って、また胸を張り、ぶるんとさせる。


「無駄に丈夫なのさ」


 そう強度計算や、材料費などを考えない素人建築。

 すると、無駄に丈夫なものが造られる。


 まあそれとは別に、年に数回、シーサーペントという魔物が浅瀬にやって来るらしい。

 餌にしている魚が産卵とかで、浅瀬に来るため追いかけてくるようだ。


「じゃあ、旦那さんはモンスターと戦って?」

「あの人は、シーサーペントに追われて、陸によってくる魚をかすめ取ろうとして…… 間違って食われちまったのさ」

 そう言って、遠くを見つめるおばさん。


 うーんと言う雰囲気だが。

「そりゃ。悲しい事故ですね」

 一応そう答える。


「いい人だったが、少しだけ考えがなくてね」


「どうして帰らないんですか?」

「ああ、エベラルドトゥリーには海が無いんだ」

「あっええ。そうですが。トヨース漁港やツイージ漁港もあるでしょう?」

「バカだね。住むところはどうすんだい? この子だっているのに」

「ああ。そりゃそうか」

 それに向こうには獣人がいない。


 ――なぜだろう?


「向こうでは、獣人がいませんでしたよね?」

「住み辛いからね。しっぽも耳も隠しているのさ。完全体の獣人は、向こうの大陸など興味が無いしね」

「へーそうなんですね」


 で翌日、イカ以外を捕まえる。

 雷魔法で簡単に獲れたな。

 目の前には、大量の魚やイカが浮いている。

 よく分からない生き物も、浮いているがまあ良いだろう。


 そう思ったら、潜って貝を獲っている獣人だったようだ。

 毛が張り付いて、一瞬モンスターかと思ったんだよ。そっと波止場に寝かしておく。


 さっさと、魚を持って帰ると、いきなり海に向けて魚が投げ込まれる。

「このあたりは、毒があるから食ったら死ぬよ」

 ちょっと丸かったり、尖っていたり色々な魚がいる。


 そして、料理をしてもらったら、ゲロマズだった。

 イカは美味しかったのに、魚は泥臭かったり、何だろ生臭い?


 じっと見ていると、腹を処理していない。

 鱗は剥がしているが、内臓は駄目な気がする。


 こそっと、川魚と同じように料理をしてみる。

 単なる塩焼き。


 だが独特の臭みがある。


 うーん。


 試しに、皆で手分けをして、色んな店で魚料理を食べてみる。

 臭みは強かったり弱かったり。

 その中で、一軒すごく美味しいところがあった。

 なんと生の切り身まで、メニューにあった。


「これ、すごいですねえ」

「ああっ? あんた人種なのに分かるのかい?」

「ええ、独特の臭みがしませんね」

「そうだろ。おれは独自のルートで仕入れていてな。おっとここまでだ」


 そう言って厨房に戻った店主だが、俺の鼻は捉えていた、手から匂った酒や柑橘系の匂い。そして、魚からもその匂いと塩み。


 後は店を見張り、仕入れの特殊なことを探れば良い。


 そう思っていたら、夕方の仕込み分なのか木の箱が運ばれてくる。

 蓋を開けたときに見えた氷。


 そうか。氷で冷やすのか。

 俺達は魔法が使えるが、女将さん達は出来るのか?

 まあ、あの猟師を頼れば良いのか。


 新しい波止場の脇にある漁師用の船着き場。

 そこで、小さな船を洗っていた。

 その船縁には、大量の疑似餌が並んでいた。


 そして洗い終わると、町とは逆の陸に上がり、一軒の掘っ立て小屋のような家に入って行く。奥さんらしき人と、小さな子供も迎えに出てくる。

「あそこが家だな」


 仕入れ先は見つけた、後は冷やした魚と、塩や酒、柑橘類。

 その組み合わせで、大丈夫か試してみよう。


 捕ってすぐに冷やすと全然違った。

 その後酒をまぶしたり、水で洗ったり、塩を振ったり、塩水で洗ったり、さっと茹でてみたり、色々試す。


 だが、面倒だが、魚によって身が違いそれぞれ持ち味が違う。

 良いと思えるものを、メモをして女将さんに教える。


 そうして、魔法が使えないというので、あの漁師のところへ連れて行く。


 するとまあ、いきなり殴り始める。

「なんだいあんた達」

 獣人側の奥さんが止めに入る。

 女将さんに殴られて、親にもぶたれたことが無いという感じで、驚いている猟師さん。


 むろん。

「あんた、何をやってんだい?」

 まあそこからは、良くある話。

 

 旦那さんは、シーサーペントに食われた。


 だがまずかったのか、吐き出され、海を漂い、打ち上げられた。

 そして、今の奥さんが見つけて、介抱したら復活したが、記憶が無い。


 世話になった御礼に、奥さんのお父さんが使っていた、船や道具を使い。魚を獲って売り始める。

 だが沖で獲って戻ってくると、傷むことが多く、凍らせることを思いついた。

 でまあ、なる様になっちゃったと。

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