第16話 依頼

「こんにちは」

 中へ入ると、確かに立派な胸。


 だが……

「あれ、エレオノールおばさん」

 リーポスが驚く。

 当然俺達も驚く。


 そして怒られる。

「エレオノールお姉さんだろ、気をつけな。まあ良い。よく来たねリーポス。姉さんは一緒かい?」

「いえ、私たちだけで」

 そう話している時には、娘のテレーゼは逃げてしまっている。


 いくどか村へ来て、その時は楽しくあそんだが、その時から俺達を怖がっている。

 そう…… まるで、化け物でも見るような目で見るんだ。


 もっと小さな時には、普通に遊んだはずなんだけど。


 エレオノールさんは、赤い髪だが、瞳はブルー。

 身長は、シルティアさんより少し低いが、もうそういう種族なのか、一部分は似ている。

 そして、性格は同じく豪快。

 同じく剣士をしていたはずだが、いや、腰を落ち着けたとか言っていたか。

 

「しばらく宿泊をお願いします」

「ああ。いいぜ。そのかわり、仕入れを手伝いな」


 おばさん。いや、お姉さんは日中、乳搾りに行くそうだ。


「場所は、スピナエ山脈だが、公爵家の立ち入り禁止場所がある。そこには入らないようにね」

「「「はーい」」」

 エレオノールさんの、後ろを付いていくが…… 早い。


 バケツを二つ持ち、風のようにガレ場を走っていく。


「滑落すれば、死ぬな」

 ぼそっとつぶやいたら、聞こえたようだ。

「ああ、落ちたら死ぬから、落ちないでおくれよ」


 そう言いながら、岩から岩へと今度は飛び回っている。


「この辺りに…… ああ居たね。どれでも良いわけじゃ無い。子供がいる個体じゃないと乳が出ない。子供の分を残して、分けて貰うようにね」


 そういうと、素早く個体の横に潜り込み、おっぱいの先をぬれタオルで拭う。

 バケツを置いて、両手でしごき始める。


「上から下へ、親指と人差し指、そして中指。薬指とずらしながら握り込む。後はこれを、早くすれば良いだけだ」


 そう説明をしながら、ジャカジャカとバケツに入れていく。


「よし次だ」

 そう言って、次に行く。


 試しに俺達もやってみるが、出ない。

「むうう」

 リーポスが搾っていたが、マウンテンカウが声を上げて逃げてしまった。


「強すぎ。警戒をすると搾れなくなるから注意しな。デリケートだからね」


 そうして、数時間。エレオノールさんに呆れられる。


「あんたら…… まあまだ若いからあれだが、さっきのと同じ力で自分のおっぱいを揉んでみな。力加減が分かるだろ」

 そう言われて、爽やかな山の中。絶景の中で皆が自身の胸を揉む。


「気持ちが良いくらいの力。分かったね」


「やってみる」

 フィアが走っていく。


 布で拭いて、「搾るべし搾るべし」そんなかけ声をしながら、絞り始める。

 するとまあ、出たり出なかったりだが、搾れるようになった様だ。


 それを見ていて、リーポスがあせる。

「私も」

 そう言って走る。


 その時、誰からの意識からも外れていたが、バケツに汲んだ乳を運んできたのは、アミル。

 それを見て皆が驚く。


「天才がいた」

 アミルもまんざらでもない様だが、エレオノールさんが仰る。

「誰でも出来るんだよ。あんたらが不器用すぎだ」

 とまあ、そう言われて、皆が散っていく。


 搾るべし搾るべし搾るべし……


 そして何とか、搾乳が出来た。


「後は、こぼさずに帰るだけだよ。搾乳は帰るまでが搾乳だよ」

 そう言って、走り始めるが、下りの方が基本キツいんだよね。

 止まらないし。


 だがまあ、そこでへまをして、こぼすようなことはしない。


 宿へ帰ると、テレーゼが仕込みをしていた。

 そっとこっちを見て、ビクッとして目をそらす。

 うーむ解せん。


「俺達そんなに怖がらせたか?」

「さあっ?」

 皆良く分からない。


 だが、その晩。話を聞き、理由が分かる。


「あなたたち異常よ。本当に殺されると思ったんだからぁ」

 それが彼女の言い分。


 鬼ごっこで、彼女が鬼になった。

 そう、鬼は逃げて、追跡者の囲みを崩し、個別に倒す。

 そうしないと囲まれて、鬼だからよってたかって倒される。


 あまりに彼女が弱くて、すぐやめたが、彼女は怖くて、その…… 少しちびった様だ。

 エレオノールさんは、泣きわめく彼女から話を聞き、理由が分かったようで。すぐになだめたようだが、彼女の心に刻まれた恐怖が、かなり大きかったようだ。


「皆の顔が、普通じゃなかった……」

 そう言った彼女は、それ以降。少々のことには、動じなくなったとか?


「あれは、遊びという名の戦闘訓練だからね。本気でやらないと、あんた達も叱られるんだろ」

「そうですね。下手に手を抜くと怪我をするから」


 エールを飲みながら、男爵芋という根菜を蒸して、バターで炒めた物をつまみにする。


 バターは、搾った乳をひたすら容器に入れて振る。

 振っていると、固まりが出来上がる。


 今日は多めに搾乳したので、作ったらしい。

 普段は一人だから、シチュー分だけのようだが。


 話をしたことで、昔の表情にはなったが、動きを見せるとまだビクッとされる。


 翌朝、ギルドに行って良い依頼を探す。

 乳搾りには行くので、そのついでにこなせそうな物。


 薬草採取と、マウンテンカウを襲う、マウンテンウルフ退治というのがあった。

 どっちも常設。受付は必要ない。


 薬草は大丈夫だろうが、マウンテンウルフは居れば、退治してねと言うことらしい。

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