第11話 初めての景色

「では、参りましょう」


 地方都市エベラルドトゥリーの商人メルカトアさんは、護衛用の馬車も用意してくれていた。荷物用馬車も率いて五台。


 店名はサルツ商会。仕入れの旅に、成人したばかりの娘さん。リディアーヌさんが、今回参加していきなり盗賊に会ったようだ。


「あれも経験ですよ。リディアーヌが、店を手伝うと行ってくれたので」

「そうなんですね。成人したと言う事は同じ年ですね。よろしくお願いいたします」

 そう言ったが、ツンとした感じ。


「これ、リディアーヌ。ご挨拶をしないか」

 だが、目線で上から下までみた後。フンという感じだ。


「やれやれ。商人にとっては、人との付き合いが重要なのですがね」

「そうですか」

 なんとなく。それは冒険者も一緒ですね。という言葉を飲み込んでしまった。


 人の小走り程度のスピードで馬車は走る。

 いわゆる常歩なみあしと呼ばれる速度で、時速五キロメートルから六キロメートル。それで、一日五十キロメートルから六十キロメートル移動可能だが、荷車もあるので、そこまで距離は伸びない。


 それでも、十二キロおきくらいに村や町があり、休憩も出来る。


 一人はかならず、メルカトアさんの馬車に護衛として乗るが、どうもお嬢さんは冒険者が下賎のものと考えているようだ。休憩中など、メルカトアさんとしゃべっているときは普通の会話をしている。

 買った荷の内容と、移動距離による仕入れ価格の上乗せ。

 そんな事を聞いているようだ。


 まあそれは良いとして、仕事をして、移動が出来る。

 俺達にとっては万々歳だ。

 ただ問題は、三日掛かるという事。

 途中やばいと言われる、山道があること。

 ここも盗賊が多く出るところらしい。


 ただ盗賊には二種類いて、勤勉な奴と、食い物がなくなったら散発的に仕事をする奴ら。山の奴らは、適当らしく、一度現れればしばらく出ないらしい。


 今通っているところは、開拓され周囲に田園が広がっている。

 木々は、途中にポツポツあるだけで、非常に見通しがいい。


「のどかね」

「でも、この規模で畑があると、世話が大変そうだ」

 今最後尾の、荷馬車の上にフィアと二人で乗っている。


 長閑と言ったフィアは、けだるそうに俺の肩に体重を預けている。

 だけど、先頭の荷車に乗り、仁王立ちをしているリーポスと時折合図を送り合っている。お互いに、定期的に探査を撃っている。


 クノープは、次の休憩まで走るらしく。周りをうろうろして、アミルはお嬢さん達と一緒の馬車だ。


「あそこに、大きな家があるね」

 フィアが指をさしたのは、この一体を持っている領主の館だろう。


 石造りの、三階建て。

 同じ階に、窓が十個くらい有る。

「この辺りの領主、何伯爵だったかな?」

 アシュアスは勘違いしていたが、ヘルキニア町を管理していたのは代官で、フォルトゥナート=モデスト伯爵。


 峠までは、領主ナーディア=アダルジーザ侯爵の治める領地。

 峠から向こうは、エウジェニア=エリーザ伯爵領となる。


 フィアは想像する。

 お屋敷の大きな部屋で、仕事をしているアシュアスにそっとお茶を出す。

「お疲れ様」

「ああ。フィアか、ありがとう。子供達はどうだい?」

「子供達なら、リーポスが、あそん…… えっ」

「そうか。それなら、リーポスをかわいがってやらんとなあ」

「えっ。えっ?」


「あなた。お疲れ様」

「アミル。夕食はなんだい」

「うふっ。あなたの大好物。根野菜の甘辛煮よ」

「それはいい。愛しているよ」

「あんっ」


「…………」

「あんっ。じゃない」

「うぉ。どうしたいきなり」

 フィアは起き上がり、荷の上から落ちそうになる。


「えっ。お屋敷は?」

「寝てたのか。何か夢でも見たのか」

「えっ。夢?」


 フィアの夢。

 現状持っている自分の常識をベースにするから、大きな屋敷に従者や侍女がおらず、お茶を自ら入れたり、夕食を自ら作ったり、仲間が全員妻になったり。


 ちぐはぐだったが、叶える事は出来るのか?


 そんな事をしていると、峠前の町に到着をする。


「時間が中途半端ですが、明日は峠越えとなりますので、今晩はここスキームに宿泊いたします。私は馬車をギルドの倉庫へ預けて参ります。それと、私たちの宿泊は、あそこのトロイの木馬亭にします。他にも、スキミング亭とか安くて設備が良いですよ」

「ありがとうございます」

 そう言って、去って行く馬車を見送る。


 町中は一応安全で、翌朝護衛を再開となっている。

 村や野営の場合は、寝ずの番となる。


 出発は、峠越えの有志は、なるべくそろって越えるようだ。

 朝九つの鐘で主発予定。


「大勢の方が安全かぁ?」

 クノープも気が付いた。


「先頭と、最後尾を塞がれると、逃げられないよね」

 フィアの言うとおり。


「今晩その辺りの、話し合いをしておくか」

「じゃあ、全員で一部屋にする?」

「女の子が良いなら、それで良いけど」

「あたしは寝るだけだし。いいぜ」

 リーポスの意見に、フィア達もこっくりと頷く。


「じゃあ、経費節約だな。そうするか」

 宿を探しに行く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る