第2章 地方都市 エベラルドトゥリー

第10話 護衛依頼

「はい。こちらは、サルツ商会のメルカトア様からの護衛依頼。皆さん受けますよね」

 朝、ギルドに顔を出すと、いきなりティナさんに呼ばれた。


「宿泊や食事は、自腹ですけれど、五人なら一日金貨一枚出ますよ」

「と言う事は、一人銀貨二十枚ですか?」

「そうですね。お得でしょ」


 安楽亭が素泊まりだと、銀貨三枚。

 朝晩食事が付くと銀貨一枚プラス。

 他の宿だと、素泊まりで銀貨五枚だから、かなり安い。


「それは良いとして、盗賊退治の日当、やっぱり安くないですか?」

「あれは、伝えたように公的な依頼だから。町からお金が出るとすごく安いの。そのかわり盗賊の持っていた物は討伐者の権利だから、売ればかなりの金額になったでしょ」

「討伐だけしました。持っていた物や救出者は、どうなったのか知りません」

「あらま。今回のトップチームは、イェンスト教同会の方達だから、教会が取っちゃったかなあ」


 今回盗賊退治の最上位グループは、教会の人たちだった。

 救った人たちの面倒を見て、その生活を支援するらしい。

 そのため、現場で速やかに自分たちの取り分を確保しないと、すべてを教会が持って行ったようだ。


 ちなみに、日当の銀貨五枚は一人につきだったらしい。

 五人なら、二十五枚だね。安いけれど。


 そのため、護衛の準備をするためのお金を、少し稼ぎに行く。


 実際、安楽亭には一銭も払っていないから、助かっている。

 現金は、村から出るときに餞別などを持って来たので、少しはある。だけど、お金については、あればあるだけいい。


 冒険者は、不意に動けなくなる事も多い。

 怪我でもすれば…… 治すけど。

 病気でもなれば…… 軽いものなら治すし、毒も解毒できる。

 あれ? 山や川で食べられる物は教育されたし、あれ?


「どうしたの? アシュアス。行くよ」

「分かった」


「今、需要のある獲物って何だった?」

 さっきフィアが、ギルドで常設の依頼を聞いてきた。


「鹿とか猪が欲しいって。領主様とかからも、依頼が出ているみたいよ」

「そうか」

 一応、荷車を一日銀貨二枚で借りる。

 返せば、一枚返ってくる。

 

 銀貨十五枚も出せば、荷車は買えるのだが、置き場もないし盗まれる。

 借りるのが一番良い。


 門から外へ出て、いきなり探査を撃つ。


「あっちだね」

 皆で、ぞろぞろと反応があったところへ向かって行く。


 探査の魔力や気配を感じて、モンスターや動物たちが逃げていく。


 気配を隠し、逃走先へ回り込む。


「来たぞ、フィア」

「はいよ」

 気配を隠した状態で、矢が放たれる。


 スカーンと、フォレストボアの前足を射貫く。

 素早く近寄り、生きている状態で首筋の頸動脈を切り裂く。

 その状態で後ろ足をロープで結んで、近くの木に何とか半分持ち上げる。


 手を上げて合図をすると、クノープ達が荷車を運んでくる。


 獲物は、全長三メートルほどの大きさ。

 放血。つまり血抜きをして、内臓は必要ないと聞いたので抜いて、地中へ埋める。

 魔法で水をかけて洗浄し、その後、全体を冷やす。

 こうしないと、野生動物には、ノミやダニがいて体温が下がると一斉に逃げ出し、噛まれることになる。


「何とか、もう一匹くらい捕るか?」

「荷車が潰れそうだぞ」

「一旦帰ろう」

 思ったより借りた荷車がへろへろで、途中で車軸の交換修理をした。

 荷車と行っても、車軸の上にV字のへこみを付けた板をのせたもので、こすれると車軸がすり減る。


「草原だと、木馬きんまの方が楽だよな」

 クノープがぼやく。


 村だと、横木はんきと呼ばれる、丸木を敷いた上や半分に割った丸太をしいて、その上で木馬と呼ばれるそりを滑らしていた。


 文句を言いながら、ギルドに降ろす。

 裏側が、解体場になっていた。

「そうか、ギルドの解体所。すぐ横が、安楽亭なんだ」


「お疲れ様です」

 またどこからともなく、ティナさんが現れる。

 いい加減自信をなくす。


 この隠蔽技術の高さは、何処で習得をしたのだろう。

 まるで、話に聞いた暗殺者とかのようだ。


「良い型ですね。金貨一枚ですけれど」

「意外と安いですね? 食べるところが結構あると思うんですが」

 そう聞くと、ティナさんが、目の前に人差し指を立てる。


「専任のハンターなら金貨2枚くらいですね。冒険者と違って、血抜きとかの処理をきちんとするから、高くなるのですが…… きっちり、血抜きしてますね。内臓の処理に、毛皮も洗って…… でも、ここは冒険者ギルド。規定ですから、1枚です」

 そう言って嬉しそうに、ティナさんは建物に戻っていった。


「ハンターの保護とかも、あるのかなぁ?」

 フィアが聞いてくるが、当然知らない。


「さあ? もう一回行こうか」

 指をくわえている、リーポスを引きずって森へと戻る。


 その日は結局、三往復。

 鹿を五頭と、もう一匹ボアを仕留めた。


 鹿の方が高いのだが、どうしたって小さい。

「殺して持ってくるだけで良いよ」と、言われたが、子供の頃からの癖。


 きちんと処理くらいしなさい。勿体ないでしょ。

 そう教え込まれた、結果だ。

 金貨三枚と、銀貨二十五枚。

 そう鹿は、一頭、銀貨二十五枚だった。


 翌朝は出発だったが、安楽亭で本日のおすすめ品として、鹿肉とボアのメニューが出ていた。当然そんなものを食べれば飲むよね。

 

 翌朝、今日から出発だというのに、リーポスとクノープが二日酔いだった。

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