僕の話をしよう

鈴木茉莉

第1話 どろだんご


 僕の話をしよう。

 僕は小学生の頃、その六年間を費やして泥団子づくりに夢中になっていた。学校に友達はいたが、放課後は絶対に一人で近所の公園にある砂場へ行って泥団子を作り続けていた。ざらざらとした面からだんだんツヤが顔を出してくる様子がとても好きで、ほぼ毎日飽きることなく泥団子を磨く。

 しかし三年生までは、泥団子を完全につるつるの球体にしたことは無い。同じく公園で遊んでいる小学生やもっと幼い子供に、その泥団子を壊されていたからだ。ある時はぺしゃんこに踏まれ、ある時は鷲掴みにされて崩された。最初の頃はショックで取り乱し、周りから変な目で見られていたが、二年生くらいになるともう慣れてきた。壊されるショックはありつつも、次はどんな大きさの泥団子を作ろうかとすぐに頭を切り替えることが出来た。

 そして五年生になった時、初めて泥団子を完成させることが出来た。四年生になったあたりから、公園を掃除してるおばちゃんが僕の泥団子を守ってくれたおかげでもある。どこから見てもつるつるの完璧な球体。それを父や母に報告すると、笑顔で褒め称え諦めずに継続することの素晴らしさを説いていた。そして僕は、その完璧なつるつるの泥団子を、地面に叩きつけて壊した。

 両親はもちろん驚いたし少し叱った。というのも、叩きつけたのは僕の家の駐車場で、砂場じゃないところで砂を撒き散らしたら駄目だ、という至極当然の指摘だった。そして何度も何度も僕になぜ泥団子を壊したのか尋ねたが、僕は絶対に答えなかった。

 僕はいつも、泥団子を壊す子供が羨ましかった。僕がどれほど時間と労力をかけていてもお構い無しに、あの手この手で壊していく人達が。だから僕もいつか泥団子を壊してみたかった。でもどうせ壊すなら、誰も壊したくないような完璧な泥団子にしようと思った。両親にこのことを話せば、もしかしたら泥団子を壊されるかもしれないと思ったから、絶対に答えなかった。

 そして、次の日もまた泥団子を作り始めた。もっと完璧な泥団子を作って、それを壊す日を楽しみに、毎日毎日泥団子を磨いた。

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