#007 小説家

嵐はますます荒れ狂い、雨風が怒涛のように窓を打ち付けていた。

私はひとり孤独にパソコンに向かっていた。

停電による暗闇に包まれたこの密室は、まるで棺のように窮屈で冷たく、私の孤独と焦燥感に拍車をかけていた。


私は、スリルと恐怖を描くことで人気を博す小説家だった。

しかし、この忌々しい嵐と停電のせいで気ばかりが焦り、アイデアの源泉は枯渇してしまっていた。

出版社から課された期限は明日と迫っている。

さらに私のパソコンのバッテリーも残りわずかで、いつ消えてしまうかもわからない。

私は絶望の淵に立たされていた。


「誰でもいい。助けてくれ」


突如、ドアが勢いよく蹴破られる音が鳴り響いた。

身構えながら振り返ると、そこには私の小説の登場人物の一人、ジョン・ハリスの姿があった。


彼は私の物語の中で凶悪な連続殺人鬼として描かれていた男だ。

虚ろな眼光が私を貫き、ほとんど人心のかけらも残されていない冷酷な表情からは、嘲笑が滲み出ていた。


「助けが必要なようだね、作家さん」


重たい足音を残しながら、ジョンが私に近づいてきた。

大げさに腕を広げると、鋭い爪がきらりと光った。


「それで、困っているという訳だ。だが心配するな、俺がお前を救ってやる」


私は混乱し、声を上げることもできず、ただ彼を凝視した。

ジョンは徐に手を伸ばし、私のパソコンに触れた。

すると、彼の指先から青く淀んだ光が滲み出し、みるみるうちに、バッテリーのインジケーターが増えていった。


「さあ、物語を続けよう」


ジョンは冷たく呟いた。


「暗く冷たく、残酷な世界を創造するのだ。人間には理解できない、そういう恐怖の世界を」


私は戸惑いと恐怖で硬直していたが、彼の言葉に促されるように、ついにキーを叩き始めた。

そしてジョンと私は、共に物語の終焉へと突き進んでいった。

狂気の世界へ、そして恐ろしい結末へと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る