月夜に駆ける - run away under the full moon -
明日葉叶
第1話 cage
私は毎朝跳ねるように起きる。
彼が隣に寝ていようと、研修先の近くのホテルに泊っていようともそれは変わらない。
私の目の前には私が一番大切に思っていた人がいて、夢の中の彼の顔にはもやがかかっていてどうしてもそれは見えない。
夢の中でその人は私から背を向けて歩き出す。本当はその理由も私は知っているはずなのに、どうにかその人を呼び止めようと私は名前を口にする。届かないその声は、彼を止めることはない。届かない? 夢の終わりに気づく。届かないんじゃない。発せないんだ。私はそのことに絶望して、何度も何度も私の中で叫ぶ。
そして毎回そんな夢に振り回される私を現実に引き戻す声を聴くことになる。
「日和? またこんな時間に起きたのか? 明日式なんだからもう寝ようよ」
「うん、わかってる」
洗面台に立つ私の後ろで、寝室から抜け出した私に気が付いた彼がのんきな声を上げた。
彼は彼であり、夢の中の彼ではない。
私は明日、この空気のような彼と婚約をする。
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