第9話 Sweet Sixteen②

1曲目のイントロが始まった。ポカリスエットのCMの曲だ。なんとなく聞き覚えのある旋律。

ポップで爽やかな音楽にのって、両サイドからメンバーがスキップで舞台中央へと躍り出る。


正確さ、キレ、圧倒的なパフォーマンス。

何をとっても他のグループとは格が違う。

まるで体から音が出ているようだ。

精緻に計算し尽くされたステージ。

振りの難しさを微塵も感じさせない、軽い動き。

動作にメリハリがあり、女性的な曲線やしなやかな振りだけでなく、パワフルで重さのある動きも難なくこなしている。

踊りながらも名前を呼ばれる度に笑顔を見せポーズをとる姿には余裕すら感じさせる。


徐々に観客の熱も高まっていく。

フォーメーションが変わる度にセンターに躍り出る子の名前やコールやかけ声があがる。


彼らは完全に舞台を、空間を支配していた。

いつの間にか私も、周囲の目もSへの曖昧な気持ちも忘れて夢中になっていった。


SSには色んなタイプの美人がいるけれど、やはり自然とSを目で追ってしまう。

彼女は本来あまり目立ちたがりではない。

ダンスでも裏センターやセンターの隣のポジションがほとんどだったが、見せ場は多かった。

派手ではないが長い手足を生かした靭やかな動きが美しい。

_____他の誰とも違う、私だけの花。


何の気兼ねもなく、純粋にSの名前を叫べる子が羨ましい。私もそうできたら良かったのに。

「好き」という感情がこんな浅ましい気持ちなんて知りたくなかった。

ただの友達に、それも知り合ってまだ半年も経たない相手に、勝手に独占欲が湧くなんてどうかしている。


彼女の何を知っているというのだろう。

あなたに何をあげられるだろう。

Sは私のことは知りたがるけど、自分のことはあまり教えてくれない。

相手には自分に全てを晒すよう求めるのに、彼女自身は秘密のベールを纏ったままだ。

私をまるで駄々をこねる子供みたいになだめすかし、ふわりと煙に巻く。

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