異界渡りの双姫~眠れる遺跡と緑炎の闘姫~

くろねこ

第1話

―Between Worlds―


 世界救済教団の尖兵であるオルゲート・ドラフィオンの手から逃れ、各々の目的の為に敵だった者達と一時的に共に行動する事となった8人。

 葉神アロエによって新たなる世界へと渡る合間の空間にて、初めての連続に見舞われ続けつつも自らの意思で行方不明の父親を探す事を決意した入色白黒は、自らが置かれている状況を確認する。

「あの、アロエさん……でしたよね、ここは一体何処なんですか?」

 アロエに連れてこられたはいいが、黒一色の殺風景な通路のようなところを歩かされてるだけでは未知に対する経験がない白黒では不安になるもの無理からぬことだろう。

「ここは世界と世界の間にある空間。まぁ単なる通路なんだけどね」

「……一つ聞きたいんじゃがおぬしら、監理局からの許可は貰っておるんじゃろうな」

「あたしは持ってるわよ。借り物の通行許可証だけど」

「…………他にはおらんのか」

 とんでもないものを見る目でティセアはアロエの顔を見る。そして次にミシェ・サクニャそして神崎たちの順に見ていくが、誰もが「なんだそれは」とでも言いたげな目でティセアに無言で問いかけてくる。

「つまりわし以外に誰もまともなのは持っておらんのか」

「その許可証というのを持っていないと何かあるんですか?」

「落ちる」

「――えっ?」

「次元の狭間へと真っ逆さまに落とされるんじゃよ!」

 ティセアが叫ぶ。そしてその直後、世界を繋ぐ道は音もなく崩れ去りティセアを除く7人が崩壊の中へと飲み込まれていった。

「ひゃわぁっ!」

 突然の出来事に白黒が素っ頓狂な声を上げて、頭から垂直落下していく。

「なんとかするからジッとしておれ!」

 すぐさまティセアが7人の落ちた方へ向かって飛び込み、白鴉の杖を取り出して皆が落ちている地点よりさらに向こうに真っ白で大きな穴を生み出した。

「その穴の中に飛び込むのじゃ!」

 ティセアが一番近くにいたサクニャを穴の中へと投げ込む。

「おっと、いい仕事すんじゃないの!」

 ティセアがサクニャを穴の中へと投げ込んだのを見て、アロエもまた近くにいた呉城と藍我を穴の中へと投げ込んだ。

「一体あの穴の先には何があるんですの」

「さて、どんなところだろうね。ともかく今よりは危険な事にはならない筈――よっ!」

 あの穴の向こうはどうなっているのか心配するミシェへとアロエは確証のない自信をもって励ましながら彼女を穴の中へと投げ入れた。

「も、もう少し丁寧に扱って――」

「さて、他にはぐれているのは……っと」

 ミシェを穴の中に放り込んでから周囲に誰が残っているのか辺りを見渡す。すぐ近くにはティセアがおり、神前は穴の中に一番近かったようで目の前で勝手に吸い込まれていった。

「ん? 白黒が見当たらないようね。どこまで飛んで行ったのよ」

「向こうじゃ! あっちの方まで飛ばされておるぞ!」

 ティセアが遠くの方を指さす。すると手を伸ばしただけでは到底届かない所に白黒が落ちていくのが見えた。

「随分と遠いわね。しかもここじゃ転移魔術が使えないし……」

「悩んどる場合か! わしに手がある、早う動け!」

 白黒を救助するための手を考えているアロエを尻目にティセアが杖を構え、白黒目掛けて雷の魔術を放った。

「雷……? なるほど、そういう事ね」

 ティセアが放った雷を見て次に何をするのかピンときたようで、すぐさまその雷の根元へと手を伸ばす。

元素転換シフトエレメントアローヴァイン

 ティセアの放った雷が白黒に当たる直前で蔓へと変貌し、それが白黒の腕に絡みついた。

「よーし白黒、ソイツから絶対手を離すんじゃないよ!」

 白黒の腕に蔓がしっかりと絡んだことを確認すると、アロエは蔓の根元と一緒にティセアの手を取り穴の中へと飛び込む。

「う……きゃあぁぁぁっ!」

 アロエに言われた通り蔓から手を離さないようにしっかりと掴んでいたのだが、予想以上に引っ張られる力が強く、必死な悲鳴を上げながらもなんとか食らい付いて共に穴の中へと入り込み、これによって8人全員が世界の狭間の漂流者になる事もなく、新たな世界へと足を踏み入れる事となった。




―The Next World―


「…………大変な目に遭いましたわ」

 穴の中を抜けた先はさっきまでいた殺風景な通路でもごつごつとした岩場の真ん中でもなく、眩しい新緑がすそ野に広がる小高い丘の頂上へと降り立っていた。――だが、そんな清々しい風景とは裏腹にミシェの顔はそこいらの木々がうらやむほど顔を青くしてへたりこんでいた。

「おーいミッこ……生きてる?」

「……なんとか。むしろ、なんで皆はそんなに平然としていられるんですの」

「ん~……? あれくらい回ったりするのは普段の師匠との修行でもあったからね」

「…………はぁ、そうですか」

 これ以上聞いても自分のメンタルが悪くなる一方だと感じ、サクニャとの会話を打ち切った。

「ねぇねぇ師匠。ここってどんな世界なのかにゃ?」

 サクニャの興味はグロッキー状態で倒れているミシェからここがどんなところかに移り、紆余曲折はあったがここまでの道を創ったアロエへと質問した。

「――さぁ? あたしが創った道はあのとおり崩れて出口も違うからね。だから分かるのは新しい出口を創ったアイツだけよ」

 そう言ってアロエはクイッっと後ろを指さす。そこには眼下に広がる街並みを眺めるティセアが草の上で座っていた。

「う~ん……どこなんじゃろうなここは。わしも咄嗟に出口を創ったもんじゃからここがどこだか曖昧なんじゃよ」

「えぇ~……」

「まぁまぁそんな嫌そうな顔をするでない。初めての世界というのはいつだってワクワクするじゃろ?」

「……それは貴女のように色々と切り抜ける能力があるからそういう事が言えるんですわ」

「気分が悪いのはもう治まったようじゃのう。良かった良かった」

 ミシェが這いずりながら会話に入り込むのを見て元気になったと評するのはどうかと思うが、それでも動くだけの気力が戻った事に対しては素直に喜んではいたが。

「まだ万全ではありませんけどね」

「ふむ、それなら少しこの辺りを歩いてはどうじゃ? その荒んだ精神に安らぎがあるかもしれんぞ」

「――もう少し休んでからにしません?」

「え~っ! 行かないの~⁉ 行こうよ~ミッこぉ~」

 ここに来るまでにの戦闘での疲弊に加え、まさに目の回る体験を今しがたしてきたミシェにとってこのような体験は肉体・精神とも限界を迎えており、サクニャの元気さとは真逆の様相を呈している。

「そうじゃぞ。少しくらい動かんといつまでたっても慣れんぞ」

「あまり慣れたくありませんわね、そのようなのは。ですが……そうね、じっとしているだけではなにも進展なんてしませんものね」

「おおっ! それじゃあまだ動くのがつらそうなミッコの為にウチが一肌脱いじゃうよん」

「えっ、なにを……きゃっ!」

 原っぱの上で横になっているミシェをサクニャは抱え込み、いわゆるお姫様抱っこの状態になってしまっていた。

「ふふーん。これならミッこが動けなくても大丈夫でしょ!」

「ちょ、ちょっとサクニャ⁉ さすがにここまでしてもらわなくても一人で歩く事くらいは出来ますわ」

 さすがにこんな状態で色々な所へと出歩くには恥ずかし過ぎて、もし誰かに見られでもしたら恥ずか死んでしまうだろう。

「……遠慮なんてしなくても良かったのに」

 渋々といった感じでミシェを下ろすとそのまま街の方へと足を向ける。

「なんだ? オマエ達そこの街の方へ行くのか?」

 サクニャが街の方へ行こうとするとアロエが声をかけてきた。

「少しそこまで探索するつもりじゃ。というかぬしは行かんのか?」

「あたしはもう少しここにいるつもり。コイツ等を休ませたり何だりしておきたいからね」

 アロエの視線の先にはぐっすりと眠っている白黒と鈩がおり、さらに見てみると鈩の腰の辺りには焼いて無理矢理に傷口を塞いだ痕があるのだが、あまりにも急ごしらえだったために傷口の周りが悪化しているのが見て取れた。

「まぁそういう訳だからさ、コレ渡しとくから包帯やらなんやらとついでに着替えとか買ってきてくんない?」

 そう言ってアロエはティセアへとカード状の何かを投げつけた。

「ん……? なんじゃ、これは」

「ブラックカードだ。そいつがあれば大抵の物は買えるだろ」

「……なんだかよう分からんのう。どうやったらこれで物が買えるんじゃ?」

 カードの表と裏をじっくり見たりびょんびょんと軽く曲げたりしていて、どうやら本当に使い方とかが分かっていないようだ。

「ウチもこんなの見たことが無いから全然分かんないにゃあ」

「……結局わたくしが一緒でないとダメだったようですわね」

 どうやら自分がいないと買い物すらままならないのだと知ると、ティセアの手からカードを抜き取り、二人を伴って街へと下りて行った。




「うわ~久しぶりの街だぁ~っ!」

「――そうですわね。ここ一年は色々あったけど基本的に島での生活が多かったものね」

(それ以前も街どころか屋敷の外に出るのも数えるほどしかありませんでしたが)

 おおよそ一年ぶりに街に出れて目を輝かすサクニャに比べミシェは彼女ほどの感動はなく、昔の記憶を想起していた事を表面に出さないように努めていた。

「なんじゃなんじゃ、随分と華のない生活をしていたのう。女子じゃったらもう少しファッションとかで繰り出したりせんかったのか」

「島の外には何回か行ったけど街じゃなくてあれは村だったね」

「ファッションなんか気を使ってられる状況ではありませんでしたわね。なにより服なんて先生が――と、アロエさんの事ですがあの人がそこの村で物々交換で得てましたから」

 当時の修行の時を思い出しながら語る両名だが、話を聞く限りではその修行の時というのは華やかさとは無縁で、常に泥臭く生きていたようだ。

「じゃったらここでパーッと使ったらええじゃろ。よう分からんがそれで買えるんじゃろ?」

 クレジットカードそのものが分からない二人に代わりミシェが持っているのだが、それを持っていてもパーッとはいけそうにはミシェは思えなかった。なぜかといえば――

「確かにこれがあれば色々と買えますわよ。ですがこの有様では……」

 三人が今いる所は街と言えば確かにそうなのだが、視界に入るのはシャッターの閉まった商店街に人の気配が全く感じられない住宅街、そして遠くの方には寂れた街並みには似合わない場違いなほど大きな屋敷が見えた。

「そういえばまだ誰ともすれ違っておらんのう」

「でも、ウチが前に住んでいた所よりは建物とか多いよ?」

「一体普段どれだけ寂れた所で生活していたんですの……。まぁそれはいいとして、この状態ですとまともに開いている店とかも期待できなさそうですわね」

 買う手段はあっても何かを買える場所が無いのでは結局の所、宝の持ち腐れといっても差支えないだろう。

「ふむ……だったらあそこの屋敷に行ってみるのどうじゃろか? あそこなら少なくともここら辺よりか活気もあると思うんじゃが」

「確かにこの辺りよりは希望はありそうですわね。では、そちらに伺ってみましょうか」

 ティセアの案により一行はさらに人がいそうな大きな屋敷を目的地にして、さらに街の中を突き進んで行く。




「はぇ~近くで見るとますますでっかい家だにゃあ~」

 目的の屋敷に近づいて行っても一向に誰かと出会う事なく、この世界の事が何も分からないまま結局はそのまま屋敷へと到着してしまっていた。

「そうじゃな。ここだと薬とかも訳を話せば融通してくれそうじゃな。という事で邪魔するぞい」

 インターホンの類などを使用せず、家主の断わりなしに鉄扉を開いて敷地内へとまるで自分の家かのように侵入していった。

「ちょ、ちょっと⁉ いったい何をなさっているんですの⁉」

「何って……家のモンに会いに行くんじゃからこうやって出向いているんじゃろ?」

「そんなことしたら捕まりますわ。取り敢えずインターホンは鳴らしましたから誰かが来るまで待っていましょう?」

「随分とまどろっこしいのう。わしの住んでおった所はそんなもんなかったぞ」

「言い訳無用ですわ! とにかく大人しく待っていなさい」

「むぅ……」

「サクニャもですわ!」

 ――ビクッ!

「少し探検したかっただけなのに――」

「……引率の先生というのはこんな感じなのでしょうね」

 あまりに自由な――というよりこの二人が元居た世界であればもしかするとあのような行動も咎められ無いのかもしれないとミシェは思った。サクニャの方は単なる本人の性格な気もするが。

 そして、そんな二人のハチャメチャな行動も治めミシェが代表としてインターホンに出た家人と話をした所、不法侵入の件は全く言及されないまますんなりと屋敷の中へと招かれ、三人は応接間へと通されることとなった。

「う~ん、ジッとしてられないにゃ~」

 応接間に通されたものの最初の方は物珍しそうに部屋の中をきょろきょろとしていたサクニャであったが、いつまで経っても家人がこずとうとう飽きて部屋の外へと出ようかとしていた。

「――まだ数分しか経っていませんわよサクニャ。いい機会だから少しジッとする練習でもしたらいかがかしら?」

 一方のミシェはというと、応接間に通された時に淹れてもらった紅茶を優雅に啜りながらゆっくりと待ち人が来るのを待っていた。

「え~だってこんな何もない所で何してろってのさ」

「なにもする必要なんてありませんわ。ただこうやってお茶を飲みながら静かに待つ、それだけですわ」

「そうは言ってもさ~」

 ――コンコンコン

「失礼いたします」

「おっ!」

 応接間にノックの音が響き渡る。そしてすぐにこの部屋へと通してくれた使用人の女性が現れ、その背後にもう一人女性が立っているのが見える。

「お待たせいたしました皆さん、当主代行の七宝しっぽう遊子羽ゆずはと申します。なにか困っていることがあるとお伺いしたのですがどういったご用件でしょうか」

 使用人の後ろから現れたのは真っ赤なキャミソールドレスに身を包んでおり、如何にもお嬢様という様な雰囲気を醸し出している。

「むっ?」

「どうなさいました……か……」

 遊子羽が前へと数歩前へと進み来訪者であるミシェ・サクニャと順に顔を合わせていき、最後にティセアの顔を見た時にそこで急に動きと言葉が止まってしまう。

「どうしたんですの二人とも。いきなり顔を見合わせたまま止まって」

「も、もしかして……ティセアさん……ですか」

「うむ、そうじゃ。二年振り――かのう、元気しておったか」

「えっ? 二人って知り合いだったの! でもどういう関係?」

「関係か、そうじゃな一つのお宝を奪い合った仲……じゃろうか」

「もう少し詳しく言うとそれが原因で殺し合いもしてたっけ」

「――なぜ貴女はそんなに火種となる出来事が多いんですの」

 このティセアという女性は最初にミシェ達と出会った時もサクニャがボコボコにされていたり、アロエとは戦闘こそ回避しているがそれでも実力行使をされそうになったり、遊子羽にいたっては殺し合いにまで発展していたりと何かと物騒な話題が多かった。

「待て待て、殺し合いのほうは完全に不可抗力じゃ! あの時は遊子羽……というよりこやつのパートナーとやりあっておったのはわしが魔術で創った分身体じゃ!」

「分身体ぃ~? だとしてもそれをけしかけたのは貴女ではなくって?」

「むむぅ……完全には否定しきれんのはツラいが訳を説明する前にまずここに来た目的を果たしてからにせんか?」

「あっ! そうでしたわね、では改めて……わたくし達はここで薬を分けてもらえないかと思って訪ねてきたんですの」

 ティセアと遊子羽の思わぬ再開で話がそれてきたが、まずはここに来た目的を果たすべく話を切り出す。

「薬……ですか。それはいったい何に使われるおつもりですか?」

「わたくし達の連れの一人が刺し傷を負ってしまっているんですが、それを塞ぐのにその……焼き鏝で無理やり塞いだものでして」

「それなら薬もそうですがまず必要なのは医者でしょう」

「――返す言葉もありませんわね。ですが、ここに来るまで一軒も開いている病院や薬局も見かけなかったんですのよ」

「それにはちょっと事情があるんですがそれより今は薬と医者を必要としている方を何とかするのが先です。すぐに我が家の医療部隊をそこへと送りますので」

「それじゃったらもう連れてくる準備は出来ておるぞ」

「えっ?」

 ソファーに腰かけたままのティセアが白鴉の杖を取り出し、その先端で軽くテーブル小突いた。するとその一瞬後には怪我人である呉城鈩がその上で横たわっていた。

「屋敷の中にちゃんとした施設があるんじゃろ? ならさっさと連れてってはくれんか」

「は、はいっ! 今すぐに!」

 ティセアの魔術によって丘の上から屋敷の中まで鈩を転移させ、そのまま七宝家の屋敷に常駐している医療部隊の手によって運ばれていった。

「そういえば鈩さんを勝手に連れて来てしまいましたがあちらは騒ぎとかにはなっていないんでしょうか?」

「なんじゃ……そんな事が気になるんか? どれ、向こうはどんな感じになっておるかの」

 再び白鴉の杖を取り出すとその先端を中空でくるっと回す、するとその空間に何やら映像の様なものが現れそこには後ろ姿のアロエが映し出されていた。

「おっ、なんだよ覗き見か? 趣味が悪いなぁ」

 ティセアが映し出した映像は相互に干渉が出来るようで、ティセアの魔術に気付いたアロエはすぐに振り返ってティセアの姿を確認した。

「別に覗き見しとる訳じゃないわい。わしの知り合いに鈩を見てもらったからひとまずあやつの心配は無いっていう報告と、わしのいる所へ来てくれんか。今後の事で相談したいことがあるでのう」

「おっけー。そんじゃもう少ししたらコイツ等連れてそっちに行くわね」

「あまり寄り道するでないぞ」

「アンタはあたしの母ちゃんかよ。そんなに念押しされんでも分かってるから。そんじゃな」

 もうこれ以上の通話は必要ないと判断したアロエは、映像に手を伸ばしそのまま握り潰す様に手を握って映像を掻き消した。

「――まったく、無茶苦茶するのう。そんな手荒なことせんでも通話が終われば勝手に消えたのに」

「まぁあの人はいつも割とあんな感じですので。ですがこれでひとまずは安心できますわね」

「そうじゃな。して遊子羽よ、この街に何が起こったんじゃ? 人の気配が無さすぎるぞ」

「それがですねここ最近住人が原因不明の失踪事件が立て続けに起こっていて、その捜索にトレハン達が出動したんですが……」

「ふむ、それすらも未帰還でゴーストタウンという訳じゃな。それでぬし等は……分からんことだらけじゃろうな」

 この世界についてそれなりの知識を有しているティセアは、現状を遊子羽から聞くことでそれなりに理解を示していたが、当然成り行きでこの世界に降り立っただけのミシェとサクニャには事情がさっぱりという顔で聞いていた。

「えぇ。まぁ他にも色々と聞きたい事とかありますが取り敢えず人がいない理由が知れただけマシと言った所でしょうか」

「えっと、そちらのお二人はトレハン――いえ、トレジャーハンターはご存じではないのですか?」

「ウチはサッパリ聞き覚えがないにゃあ」

「わたくしはテレビゲームでしか聞いたことがありませんね」

「な、なな……ゲームぅ~⁉ あのね、トレハンは命懸けの職業なの! それをゲームだなんてヒドイ侮辱よ!」

「いきなり別人みたいになった⁉」

「えっ、いやそういう意図で言ったのではなくわたくしは――」

「無知なあんた達は実際にその眼で見ないと分からないようね。ティセアさん、ちょっとこの二人を借りてきますがいいですね!」

 ただトレジャーハンターという用語をゲームで知ったというだけで口調が変わるほどに怒りだし、そのうえどこかに連れ出そうとまでして来る。

「あまり無茶をさせるでないぞ」

「分かってますよ。ほらチャチャっと行くよ」

「あの、だからですね――」

 ミシェの弁解などさせる余地もなく二人の手を引っ張って部屋を出ていく。そしてティセアはそんな三人を見送りながらゆったりと紅茶を飲んでくつろいでいた。

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