3分以内に。~ 営業哀歌 ~

崔 梨遙(再)

1話完結:約1000字。

 僕には、3分以内にやらなければいけないことがあった。トイレだ。その電車は、1時間に1本しかない。乗り遅れたら、1時間も待たなくてはいけない。それだけならいい。そうなると、アポイントに遅れてしまうのだ。初めて会うお客さん、遅刻などして印象が悪くなるのは避けたい。


 僕は、とにかく駅のトイレに入った。空いている。良かった。僕は小便器で用を足した。だが、来た! 来たのだ! 猛烈な便意! 僕は個室へ入った。あと1分30秒。とにかく、出る物を出す。スピードだ。今の僕にはスピードが必要だったのだ。だが、なかなか出し切ることが出来ない。どこにこんなに沢山の便が詰まっていたのか? わからないくらいに出る。


「あ!」


 時計を見た僕は絶望した。電車の発車時刻を2分も過ぎている。もう諦めた。僕はゆっくり用を足して、念入りに尻を拭いてトイレを出た。そして、タクシー乗り場へ。タクシー代は会社に請求出来ない。自腹だ。


 電車なら千円もしないのに、タクシーだと7千円くらいかかった。痛い。これは、商談をまとめて歩合を貰うしかない。僕は、アポイント先の会社を訪問した。いつもより、気合いが入っていたかもしれない。



「よし!」


 商談は上手くいった。僕が提案した3つの企画の中から1つを選んでくれるとのことだった。これは、きっとまとまるだろう。まとまれば、タクシー代など安いものだ。僕は駅で電車を待った。電車が来るまで、あと5分。


“ん?”


 あと4分。


“あれ?”


 あと3分。


“またかよー!”


 僕は再び便意をもよおしてトイレに駆け込んだ。3分では大は終わらない。それは、さっきよくわかった。だが、我慢なんか出来ない。僕は電車に乗るのを諦めてトイレに駆け込んだ。過敏性腸炎、医者から処方された薬を毎日飲んでいるのだが、時々、こういうことがあるのだ。一度激しく下痢をすると、何度も下痢をしてしまうのだ。過敏性腸炎は、ストレスや緊張感も影響する。すっかり営業に慣れたつもりだが、まだ商談で緊張しているのだろうか?


 トイレから出ると、とっくに電車の姿は無かった。ここでも、電車は1時間に1本。このままでは、次のアポイントに遅れてしまう。



 僕は、またタクシーを呼んだ。こうなったら、また商談をまとめてやる!モチベーションが上がった。そこで、僕はまた便意に襲われた。







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