結衣とのクリスマスデートと年末年始
それからも俺は結衣と順調に交際を重ねていった。
クリスマスの日には、結衣と二人でデートをした。
「結衣……これ、プレゼント」
「え……なになに? 開けていい?」
昼過ぎから二人で出かけて、街を散策する。
近くのショッピングモールに出かけて、いろいろなお店を見て回った。
クリスマスだからといって特別なことは何もしなかった。結衣がそれでいいと言ったのだ。「イツキと一緒にいられることがもう特別なことだから、それ以上はいらない」なんて言って、いつも通りのデートをすることを望んできた。
俺もその結衣の意見を聞いて、なるべく普段通りのデートを心掛けた。でもやっぱりクリスマスに何もしないのもどうかなと思って、俺は結衣に内緒でこっそりとプレゼントを用意していた。
「あ……指輪……」
「ど、どうかな……? 婚約指輪とか、そんなたいそうなものじゃないけど、結衣に送りたくって……」
デートで立ち寄った、俺と結衣がよく行く喫茶店の一角で。
二人してまったりと過ごしていた時に、俺は結衣にプレゼントを渡した。
プレゼントを渡した瞬間はめちゃくちゃ緊張した。
いつも通りを望む結衣にプレゼントを渡して、結衣の機嫌を損ねたりしないだろうか。指輪なんて送って、重い男だとか、気持ち悪いだとか思われないだろうか。
そういう嫌な気持ちも湧き上がってきたけど、それでもやっぱり俺は結衣に何か形になるものを、記念になるものを送りたくって。
シンプルなシルバーの指輪を結衣にプレゼントした。
結衣が俺から離れたがらなかったから、俺はアルバイトをたくさんしているわけじゃない。月々のお小遣いくらいの金額を稼いでるだけだったから、そんなにお金なんて持ち合わせていない。
だから、結衣に送った指輪は決して高いものじゃない。寝ている結衣の指のサイズをこっそりと測って、結衣の指に合うように、結衣に似合うようにはしたつもりだけど。気に入ってもらえなかったらどうしよう。
そんな俺の不安な気持ちは、結衣の表情で消し飛んでしまった。
「うぅ……ひっく……ありがと、イツキ……!」
「ど、どうした!? 大丈夫か結衣!?」
「う、うれしくってぇ……! ホントは、泣きたい……うぅ……わけじゃないのに、泣く、のが……ひっく……止められなくってぇ……! こんな女で、ごめんねぇ……!」
泣きじゃくってしまった結衣を落ち着かせるために、対面に座っていた俺は結衣の隣に座って結衣を抱きしめた。
「大丈夫、大丈夫だよ、結衣……そんなに喜んでくれて、俺は嬉しいよ」
「ありがと……ありがと、イツキ……愛してるよぉ……離れたくないよぉ……」
「うん、俺もだよ、結衣」
喫茶店で泣き出した女性と、それを慰める男。
周りの人からしたらすわクリスマスに痴話喧嘩かとか思われたかもしれない。
でも、その時の俺と結衣にはそんなことは関係なくて。
俺と結衣は、結衣が泣き止むまでそうやって寄り添い合っていた。
年末年始は実家に帰らず、結衣と一緒にアパートで過ごした。
クリスマスにプレゼントした指輪を、結衣は肌身離さずずっと左手の薬指に着けていた。
「結衣は実家に帰らなくていいのか?」
「大丈夫、私実家ってあんまり好きじゃないし」
「そうか……」
俺と結衣は幼馴染ではあるけれど、結衣の実家のことについてはあまり知らなかった。別にお隣さんという訳でもないし、近所といえども交流があるわけでもない。
結衣もあまり家族の話とかはしなかった。
俺が結衣の家族のことで知っていることといえば、一度親が離婚したことと、再婚してできた新しい父親と結衣の母親の間にできた、半分しか血の繋がらない年の離れた弟がいることくらいだった。
小学生の頃や中学生の頃は結衣と一緒に登下校をしていたから結衣の実家については何度も見たことあるし、家にも上がらせてもらったこともある。まあ、結衣の両親はいつも仕事でいなかったから、ほとんど会話したことはないけど。
俺は俺で結衣が実家に帰らずにここに残るからっていうのもあったし、三年生になると教育実習があってどのみち実家に帰ることになるから、別に今帰らなくてもいいよなって気持ちもあって、年末年始を初めて家族以外と過ごすことを選択した。
結衣は俺が実家に帰らずに残るって話を聞くと、殊更に喜んでくれて、俺は「残ってよかったぁ……!」なんて浮かれたものだ。
年末年始はどこにも出かけず、アパートの中で二人まったりと過ごした。
食料を買い込んで、消耗品や日用雑貨などを買い込んで、それからゴムもたくさん買って……。
二人のんびりとした時間を過ごしながらも、何度も何度も肌を重ねた。
「んぅ……! はぁっ、あぁ! イツキ! 気持ちいい! もっと、もっとぉ!」
「結衣が望むなら……!」
「愛してる! イツキ、愛してるぅ!」
「ああ、俺もだ、結衣! 俺も愛してる! ……って、あ……」
「はぁっ……はぁっ……どうしたの、イツキ」
「あー……年、明けちゃった。……明けましておめでとう?」
「え、もうそんな時間? えーと……明けましておめでとう?」
「なんかしまんないな……」
「あはは……そうだね」
そうやって肌を重ねたまま年を越してしまって、二人してちょっと笑ってしまうくらいだった。
三が日は流石にちょっと自重しようって話して、結衣が作ってくれたお雑煮を食べながら正月番組を見て、どこに初詣に行くか今更のように話し合って……結局、夜になると結衣が我慢できなくなって肌を重ねてしまい。
そうこうしているうちに三が日が過ぎて、結局初詣と称してアパートを出たのは新年も明けて四日も経った後だった。
「流石にもう人もそんなにいないねー」
「まあもう正月じゃないしな……」
俺と結衣は二人して手を繋ぎながらお参りをする。お賽銭を投げ入れ、二礼二拍手一礼だ。これが合ってるのかは知らないけど。
俺は神様に、結衣とのこれまでのことを感謝した。結衣と出会わせてくれてありがとうございます、って。
それから厚かましくも神様に「これからもどうか結衣と穏やかに、仲良く楽しく過ごせるようにしてください。お願いします」なんてお願いもして。
「結衣はどんなお願い事をしたんだ?」
「えへへー、内緒!」
「えー? 教えてくれたっていいじゃん!」
「じゃあ逆にイツキはどんなお願い事したの?」
「結衣が教えてくれたら教えてあげる」
「あー! ずるいんだー!」
お参りが終わった後は二人でおみくじも引いた。
「お、大吉だ! やったぜ!」
「えーいいなーイツキ。なんて書いてあるの? 特に恋愛運のところ!」
「気になるのそこ? えーと……信じて支えてあげなさい、だって。なんだこりゃ」
「……っ。なんなんだろうね、それ」
「さぁなー。ところで結衣のおみくじは?」
「え、私? 私はねー……中吉だった!」
「へぇー……結衣、知ってるか?」
「え、何を?」
「実は中吉より吉の方が上らしいぞ」
「あー! なんでそんなこと言うかなー!」
なんて二人で過ごして。
俺と結衣の時間は流れていったのだ。
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