花に祈りを

高村 芳

花に祈りを

 ふーっ、ふーっと、自分の呼吸の音だけが聞こえる。たしかに手袋越しに砂の感触を感じているのに、砂が手からこぼれる音は聞こえない。こめかみを伝う汗もそのままに、花の根元に砂をかけおわった僕は、立ち上がっておおきく息を吐いた。ふと顔を上げると、目の前には幾千、幾万もの星が光り輝いている。青い星、黄色い星、赤い星、白い星。地球を離れて十年以上経っているというのに、あまりの広大さにいまだに眩暈がしそうになる。


 この暗く広く寒い宇宙で、僕は小惑星に花を植え続けている。レゴリスの隙間に、誰が見るかもわからない、たったの一度も人の手のぬくもりを知ることもないかもしれない花を。


「さあ、次の星へ行くか」


 僕は花を置き去りにして小型宇宙船に乗りこむ。宇宙服を着替え、狭い運転席にからだを押しこめた。窓からは、さきほどの花が見える。白い花弁のちいさな花は、風でゆれることも、鳥についばまれることも、雨に打たれることもない。それは、独りで宇宙を彷徨う僕も同じだった。


 僕は離陸のスイッチを押す。宇宙船から勢いよく噴出したガスでレゴリスが舞い上がり、花は見えなくなった。がくん、と離陸の衝撃を感じる。手元の計器を見つめながら、僕は祈る。君も僕も、どこかで誰かと会えますように、と。

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花に祈りを 高村 芳 @yo4_taka6ra

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