不肖の天使は玲瓏たる魔王の妃となる~戸惑う姫は彼に溺愛される~

帆立ししゃも

プロローグ

「リリアナ。不肖の娘よ」


朗々たる声が、こうべを垂れるリリーの胸にずきりとした痛みを伴って響いた。


「はい。お父様」

「私の素晴らしい娘たちの中で、お前だけが何をやらせても期待外れの小娘だった」


確かにその通りだ、と父神たる光の大御神の言葉にリリーは項垂れる。波打つ美しい金色の糸のような髪が、床に触れるほど。


「だからこそお前に名誉を与えるため、魔界の王のもとへ嫁がせるのだ。天界と魔界、ふたつの世界を和睦へ導く象徴の片割れがお前なのだ、リリアナ。幸福なことだろう」


リリーは震える手をぎゅっと握り締め、必死にこくこくと頷いた。


「はい、お父様。リリアナは立派なおつとめを賜り、光栄にございます」


魔界、恐ろしい悪魔の跋扈する世界へ嫁に出される……大御神の末娘、仮にも天使たるリリーが。あまりにも異例な婚姻であったが、永らくいがみ合ってきたふたつの世界を結ぶ為だと言われればリリーは断れなかった。嫌がることも許されなかった。


なぜなら彼女は、6人の姉たちの誰一人にもかなわないほど未熟な天使だったからだ。長年侮蔑の視線を血族たちから向けられてきた。


けれども今、輿入れの話を受けて、リリーは魔王の嫁になるなど恐ろしいことだと思ったが、同時に光栄さも感じたのだ。


ようやく父の役に立てるのだという事実が、彼女を奮い立たせた。


「ご安心くださいませ、お父様。リリアナはきちんと役目を果たします。その、粗相はいたしません」


そうだとよいがな、と大御神が肩を竦める。


この不甲斐ない娘を年頃になっても置き場がないままにしておくのは、彼としても不本意であったのだ。


聖なる力にも大して恵まれず、美しい妻や他の娘たちにも似ず、みにくいあひるの子のようなリリアナ。


魔界の王への輿入れ、結構な話ではないか。


大御神はほくそ笑む。


その瞳には、娘に対する一欠片の愛情も含まれては居なかった。


リリアナ。リリーと呼ばれる天使の姫は明日、魔王の妃となる。

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