サツジン自販機
サナギ雄也
序章 本当だって! 100円で人を……!
『人を100円で始末できる自販機を見つけた!』
ネット上にそんな物騒な書き込みが投稿されたのは、とある晩春の夜だった。
その投稿主曰く、『夜、バイト帰りにムカつく先輩の顔を思い浮かべていたら、変な自販機を見つけた。で、その自販機は商品名の代わりに人の名前が書いてあって、100円玉を入れてボタンを押した。そうしたら、相手を殺せたんだ』――とのことだった。
当然、それはデマだと断言する反応が大多数だった。『嘘つきだな』、『妄想乙!』、『つーかくだらねえ!』、等々、散々な非難と言っていい。
そのうち、『じゃあ試しにその殺した先輩の名前を挙げてくれ』との反応に対し、投稿主は『◯◯県の△△高校でさ。三年生。今年の始めに下級生を襲って不登校にさせたとかいうヤバい奴。俺はその先輩と同じ部活で、少しつるんだけど、もう酷いの何の。俺をパシらせるし金は取るし、最悪だと思いながら下校していたら、自販機を見つけて――』
その県にある、高校と生徒の名前は瞬く間に特定された。そして多くのネットユーザーが名を知ることとなった。
確かにその先輩は、その年のつい先日に事故に遭っていて、少なくとも嘘100パーセントではないらしい――しかし地元の新聞では、『転落死』としか書かれていなかった。
ネット上では、投稿主のことを詐欺師だのインプレッション稼ぎだの批判が大半を占めた。それでも投稿主は『本当だって! 嘘じゃないって! 信じてくれよっ』と何度も返答を記した。けれど、結局多くのユーザーは信じず、たちの悪いデマだと判断し、それを受けた投稿主は、ある日こう書き込んだ。
『じゃあ今から俺を非難した奴――五人分の名前を書くから、覚悟しておけよ?』
そんな危険な予告が書かれ――そして以来、ぱったりと書き込みは途絶えてしまった。
以降、その話題がネット上で挙がることはなく、少し後になって、とある五人がほぼ同時に、何らかの理由で行方不明あるいは事故に遭った――という情報が流れた。
けれども真偽は曖昧で、誰もが悪戯だろうと判断した。そして楠木海斗(くすのき かいと)という高校生の彼にとっても、それは戯言に思えた。だってあり得ない、現実的にそんな自販機はない。少なくとも最初は、そう思っていた。
――バイト先の上司から、ひどい仕打ちを受ける前までは。
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