鴨川西高校文学研究会
麻田透
第1話 はじめに
「じゃ、簡単な説明をしますね」
部長と思われる一人が話し出した。特にこの部活に興味があったわけではないのだが、どうも学校の方針として「豊かな学校生活は部活動から」という考えがあるらしい。だから、入学して二日目には「部活動体験説明会」なるものが午後の授業を潰して用意されていた。当然、授業中に行われる授業扱いの「行事」なわけで、入学早々授業をサボるほど図太い神経は持っていなかった。
学校の方針は一定理解するがこっちは人間関係を築くのがすこぶる苦手な
そもそもどこの「部活動体験説明会」に参加するのがいいかと思いあぐねて教室の後ろの掲示板に貼ってある「説明会会場一覧」のプリントを睨みつけていた。五時間目開始のベルが鳴っても動けない。周囲には人の気配がしない。完全に取り残されたことがわかったのだが、はやり動けなかった。
「どこでもいいから適当に行けばいいんだよ」
頭の中の自分がそっとアドバイスしてくれる。だが「適当」ほど難しいものはない。
「適当にやっておいて」
という人にとっての「適当」は僕にとっての「完璧」であることが多い。「適当」という言葉に騙されてはいけないとある時から強く心に誓っている。結局、プリントの中で活動時間が最もゆるい部を選ぶことにした。
「文学研究会の活動は一週間に一度程度、ただし、文化祭の前は発表資料ができていなければ、毎日の活動になることもあり。文学に興味があってもなくても、ぜひ、説明会に来てください。部員少数のため絶賛募集中です」
文化系部活動の中でも特にゆるい紹介文。もし、その実態がゆるくなくてもそれを理由に簡単に退部できそうな気がする。
僕はちょっと顔を赤らめ吹き出る汗を拭いながら黒板の前に立っている先輩を、動物園の動物を観察するかのごとく見つめていた。
鴨川西高校文学研究会 麻田透 @chousan
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