序章 過ぎ去りし意思への案内文

 イブとノア。隣り合う世界は、長く互いの存在を知らないままだった。

 

 滅びの危機に瀕したノア人は、〝魂の還る聖地〟レ・ユエ・ユアンを抜け、イブ世界に到達。聖者を名乗るノア人・ユリアスによって、イブ世界に〝雨〟が持ち込まれた。 以来一〇〇〇年間、イブ世界は彼らによって歴史や宗教、〈魂〉すら操られていた。


 故郷アルマスを奪われ大陸中を放浪していた、剣士カインと少女クリスティ。ふたりは、帝国皇女のマキナと出会ったことで、ノア世界との戦いに巻き込まれていく。やがて彼らは大きな犠牲を払いながらも、〝雨〟と、悠久に続く〈魂〉の支配を打ち破った。



 命の激情は、只一人が引き起こすものではない。

 〈魂〉は繋がっている。滅びて、レ・ユエ・ユアンへと還って、ふたたび生まれつく。これは、〈魂〉が想起する、過去の物語である。


 ……カイン達の時代から、遡ること三〇〇年。

 イブ大陸北東地域、〝水の都〟トリアがある一帯には、かつて四〇〇年間もの栄華を誇った大国があった。マリウス大河を中心に戴き、法王領と同等の広大な領土を誇った、ティ・ルフ王国。かの国には、〝永妃〟と呼ばれて民に慕われた、ある女王が存在した。

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