幼馴染と昔話
俺たちは自販機でジュースを買うと、近くにある中庭のベンチに移動した。中庭には他の生徒はおらず、ゆっくり会話するにはいい場所だった。
「はぁ~…腹減ったぜ」
和正が我先にとベンチに座り、購入した焼きそばパンを開封してかぶりつく。よほどお腹が空いていたらしい。
俺は彼の隣に座り、日向は俺の正面のベンチに座った。
俺は先ほど自販機で購入した野菜ジュースのパックにストローを差し込み、それを飲む。これでも一応健康には気を使っているのだ。
そしてその際に真正面に座る日向の様子をチラリと確認した。彼女はメロンパンの封を開けると袋からメロンパンを少しだけ取り出し、小さい口でそれにパクリとかぶりつく。
メロンパンを咀嚼している彼女の表情がそれはそれは幸せそうなものへと変わる。元アイドルだけあってその表情はとても可愛らしい。
彼女はニコニコのままあっという間にメロンパンを平らげてしまった。メロンパンを好きなのは本当なようだ。
「陽平、お前飯食わないのか?」
「えっ?」
気が付くと、俺以外の2人はもう昼食を食べ終えていた。日向の方に気を取られ過ぎていたようだ。俺は慌てて自分のソーセージドッグの封を開けてかじりついた。
「ゴホッゴホッ!」
だが慌てて飲み込んだせいで、パンが喉に引っかかってしまう。俺は急いで野菜ジュースを飲み、喉にひっかかったパンを流し込んだ。
「ふぅ…死ぬかと思った」
「…別にせかしてるわけじゃないんだからゆっくり食えよ」
和正が呆れた表情をしながらそう言ってくる。…2人がもう食べ終えていたから自分も早く食べないといけないと勝手に思ってしまった。俺は呼吸を整えるとゆっくりパンを口の中に入れた。
俺がパンを食べている間に和正は日向に話かける。
「陽菜ちゃんって陽平と幼馴染なんだっけ? いいなぁ。陽菜ちゃんみたいな美少女と幼馴染なんて俺憧れちゃうよ!」
「陽平とは小学校低学年の時によく遊んだ幼馴染なの。山田君はいつ頃から陽平と友達なの?」
「俺? 俺は高1からかな? それと…俺の事は『和正』でいいんだぜ陽菜ちゃん!」
「うん、分かったよ。『山田君』!」
「おお…流石陽菜ちゃん、ボケという物を分かってるねぇ…」
和正は憧れのアイドルから下の名前で呼んでもらえなかったのがショックだったのか、心臓付近を両手で押さえた。日向も彼のような人間の扱いは心得ているようだ。
…日向と和正は俺の話題に花を咲かせているようだった。お互いに過去と現在の友人がどんな風だったのか興味があるのだろう。
「陽平って小学生の時どんな感じだったんだ?」
「コミュ障で友達少なくて…小学校の時に仲の良かった友達なんて私ぐらいしかいなかったんだよ」
「なんだ、今とそんなに変わらないな」
「やっぱりー? 私も陽平全然変わらないなと思ってたの」
「クッ、お前らなぁ」
2人は俺に言いたい放題言っている。しかし俺が陰キャでコミュ障なのは事実なので反論のしようが無い。
「あっ、でもちょっとだけ変わっていた所もあるかな。昔より背が高くなって、かっこよくなった♡」
日向は頬を少し赤く染め、俺の方を見つめながらそう言った。本心からそう思っているのだろう。彼女の言葉からイヤミな感情などは全く感じない。
俺は彼女の言葉に思わず赤面してしまう。「カッコイイ」なんて言われた経験など俺の人生ではほとんどないからだ。
「あー陽平照れてるー。可愛いー♪」
「そ、そんなんじゃねぇよ。ソーセージドッグのマスタードが辛かっただけだ」
「こいつぅ~。陽菜ちゃんにここまで思われているなんて…羨ましいなぁおい! 全国の陽菜ちゃんファンを敵に回してるんだぞお前は! しかも結婚の約束までしやがってよぉ~。お前と俺はモテない者同士で仲間だと思ってたのに裏切り者がチクショー!!!」
和正が若干涙目になりながら嫉妬で俺の背中をバンバンと叩いてくる。本気で叩いているらしく、彼の打撃が背骨に響いた。…痛いんだが。
「陽菜ちゃんはこんな奴のどこに惚れたんだ? こう言っちゃなんだが、陽平はどこにでもいる冴えない陰キャだぜ?」
和正はほんの軽口のつもりでそう言ったのだろう。だが彼の言葉を聞いた日向の様子はそれまでのニコニコとした表情から一変し、汚物を見るような目つきへと変わった。
「山田君、その言い方は酷いなぁ…。訂正して?」
「ヒッ…はい。言い過ぎました。陽平は素晴らしい人です…」
「よろしい♡ 陽平はとっても素敵な人なんだよ。私にとってはオンリーワンの男の子♡」
和正は日向から並々ならぬプレッシャーを感じ取ったのか、その場ですぐに自分の発言を訂正した。和正の訂正を聞いた日向の顔は元のニコニコした顔へ戻る。
…日向ってもしかして怒ると結構怖い系か? …俺も怒らせないようにしよう。
「あ゛ぁ゛~なんかお前ら見てると気分悪くなってきたわ。惚気やがってよぉ。これが
「別に日向はお前の彼女じゃないだろ…」
「じゃあ
「残念ながら陽平は小学校の頃から私の事が好きだったからBSSでもないかなぁ~?」
今や一大ジャンルになったNTRはともかく、BSSって結構マイナーなジャンルだと思っていたのだが、日向は意外にも知っているようだ。
「俺は全てにおいて陽平に負けたと言うのか…。陽菜ちゃんの大ファンだったのに…」
和正はベンチの上で魂が抜けたようになっていた。自分が大ファンだった京町陽菜…もとい京極日向が俺の事が好きすぎて精神に多大な打撃を受けたらしい。
3人で話していると昼休み終了のチャイムがなった。俺たちは中庭を出ると5限目の授業を受けるべく教室へと向かった。
◇◇◇
少しだけ現れる幼馴染の本性。
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