第11話 C級怪異討滅依頼
前書き
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雛菊の受けた依頼は、C級怪異の討滅依頼だった。
一人前の異能士と認められる階級である中級異能士の雛菊が受ける事ができる依頼は、基本的にはD級~C級の怪異の討滅依頼だ。
今回の依頼は、神奈川県の清川村という山中の村に生息する蜘蛛系統の怪異の討滅であった。
「どうも元々D級だった山の怪異が、力を付けてC級になってしまったみたいね」
地上から1mほどの空を飛ぶタクシーの車中にて、『マナデバイス』のウインドウで依頼内容について確認しながら雛菊が言った。
この時代、マナと異能の力を得た車はなんと空を飛ぶ。依頼場所である清川村に向かうため、JEAでこのタクシーを手配した訳だが、タクシーがタイヤを横向きに変形して空を飛んできた時には、年甲斐もなくはしゃいでしまった。
その際、雛菊には生暖かい目で見られてしまったが、気にするまい。
この時代、怪異による影響で人類の生活域以外は道路等の整備が出来ておらず、移動手段を浮かせる必要があったとか。浮かせる必要があったから浮かせた、で言い切れる辺りにとても未来を感じる。
ただし、人類の居住地は基本的に飛び地になっており、安全の確保された居住地以外の"人外領域"には怪異が生息しているため、移動時は襲われる危険性がある。
そのため、旧日本ほど車は気軽に使用できる物ではなく、"人外領域"を横断する場合は規定階級以上の異能士が護衛に付く必要があった。
今回で言えば、利用者本人である雛菊が規定階級以上の異能士であるため、護衛が省略された形だ。
「その村の異能士の階級は?」
「今回の清川村は、村長がD級の異能士みたいね」
基本的に人類の居住地は"人外領域"と隣接している。というよりも、人類の居住地以外はすべてが怪異の住まう"人外領域"だ、と言った方が正しいだろう。
そのため、人類の居住地には必ず異能士が一人以上は常駐する決まりになっている。でないと、突発的な怪異の襲撃に対応できないからだ。
異能やマナの才能は遺伝するため、その居住地の代表者には異能の才能を持つ一族がなる事が多い。
「D級か。となると、あまり時間に余裕はないかもしれないな」
「ええ、早く討滅しないと村が危険だわ」
怪異において、D級とC級の間には非常に大きな差がある。
単純に1階級の間にはマナ量において10倍程度の差があると言われているが、それだけに留まらず、怪異はC級になると"主"へと変貌するのだ。
"主"となった怪異は、周囲の土地を自身にとって有利な地形に変える"異界"を展開し、更には本来は群れない性質を持つ怪異を従え、"百鬼夜行"を形成してしまう。
一度"百鬼夜行"を形成してしまえば、それまでとは違い怪異が組織立って人類に襲い掛かってくる。
故に、"主"となった怪異の討滅は優先度が高かった。
「本当は、全居住地にC級を常駐させられればいいのだけど」
一人前と認められる中級異能士であるが、こちらも怪異と同様、D級とC級の間には大きな壁がある。異能士の階級は同格の怪異を討滅できる証明でもあるので、"主"となるC級怪異はC級相当以上の異能士でしか討滅できない。
しかしながら、異能士のボリューム層であるD級と比べて、C級からは大きく数を減らす。そのため、全居住地にC級以上の異能士を配置する余裕はなかった。
「"
「現在でもその研究は行われているけど、残念ながら"
"
特に山間部に多く、この"
"
「賀茂嬢は、C級怪異の討滅経験はあるのか?」
「C級なら、数えきれないほど単独討滅の経験があるわ。安心して」
雛菊は自信に満ちた表情で横に立て掛けてあった日本刀の柄に触れた。
D級で"一人前"と言われるならば、C級の雛菊は"優秀"と言えるだろう。その上、この年齢で数えきれないと言い切れる程の実戦経験。
この雛菊を以てして"汚点"と呼ばれてしまうのだから、賀茂という名前の重みが察せられる。
「それより、念の為聞いておくけど。あなたこそ大丈夫なのよね、勇者様?」
にやりと口元を歪めながら、流し目でこちらを挑発的に見る雛菊。
そもそも今回の依頼への同行も事前に聞いていないことであったし、当然ながら危険なものである。
雛菊の前で戦ったことだって一度もない。もし仮に俺が戦えなかったとしたら、一体この女はどうするつもりだったのか。
ーーとはいえ。
「ああ。俺のことは気にする必要はない」
これでも、一応魔王を倒して世界を救った元勇者なんでな。
問題ないさ。
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