第7話 現代異能史のお勉強と賀茂家での扱いについて

 ーーそして、翌日。


 俺はひとまず与えれられた自室ーー昨日目を覚ましたベッドのある部屋で、客間とのことーーで、読書をしていた。

 読んでいる書籍は、主に近代史や現代異能史といった歴史書関係や、異能関係といった書籍だ。


 まず先に確認したのは近代史ーーとりわけ、1999年以前の歴史。

 当時の日本の総理大臣であったり、歴史的出来事であったり。それ以前の日本史や世界史についてもざっと目を通したところ、俺の記憶している歴史と一致した。


 つまり、今いる西暦2120年の日本は、俺の知る1999年の日本と地続きで繋がる未来の日本であると、概ね断定してしまっても良さそうだ。


 次に、現代異能史ーー要は1999年7月の"運命の日アンゴルモア"以降の、異能や怪異といったファンタジーが世界に発生してからの史実。


 1999年は記念すべき2000年を前にして、ノストラダムスの大予言なんてものが流行していたが、予言の中で登場する"恐怖の大王"とやらが、まさに現実に訪れたわけだ。


 1999年7月1日に南極に隕石が落下したと聞いていたが、事前に宇宙空間から南極に落下するまでの観測は一切できていない。

 が南極にて観測されたというのが事実であり、つまりは発生した現象から逆算した"推定隕石"であるとするのが、現在での定説らしい。


 で、その推定隕石の落下以降ーーこれは後から判明した事実であるがーーマナが大気中に発生、それとほぼ時を同じくして、世界同時多発的に、お伽話でしか登場しなかったような妖怪や化け物、つまりは怪異が発生。


 怪異はマナを基に身体が構成されており、その性質上、常により多くのマナを求める。

 マナは基本的に生物に宿り、感情のある生物ーーつまりは知性のある生命体に、より多くのマナが宿りやすいという性質を持つ。


 自然、怪異は知的生命体である人間がより多く集まる場所。人口密集地である主要都市に、マナを求めて群がる。

 かつ、マナのみで身体が構成されている怪異に対して、マナを一切含まない物理化学の結晶である現代兵器は、有効打にならない。


 結果として、日本はもちろん世界中の主要都市は壊滅的な被害を受け、既存の科学文明社会はほぼ崩壊。海外との通信も途絶え、日本は江戸時代の鎖国の如く世界から孤立する。


 人口は激減し、このまま怪異に滅ぼされるのを待つだけの人類を救ったのが、突如宿った超常の力である"異能"。

 その中でもとりわけ強い異能の力を持った、いま俺が滞在している賀茂家を含む"四宮四家"が、人類の生存圏を確保。暫定的な日本の指導者となる。


 その後、現在の"マナ社会"形成に当たって、インフラや社会基盤などあらゆる分野において、多大なる影響と功績を産み出したが新たに四家に加わり、"四宮五家"に。

 やがて五家は"公爵"の爵位を認められ、現在の『四宮五公』が日本を統治する形で落ち着いたとか。


 つまり、いまの日本は1999年以前の立憲民主制が崩壊した結果、実質的な"貴族制アリストクラシー"を採用しているってわけだ。


異世界あちらの世界といまの日本には共通点が多い。マナについてもそうだし、資料を観る限り、怪異に関しては異世界あちらの世界で言う"魔獣"と似たような存在。異能についても、異世界あちらの世界の"魔法"に近い能力と推測できる)


 魔獣は異世界あちらの世界で現生していた、マナのみで身体が構成され人を襲うモンスターのことだ。

 太古の昔に突如世界に現れた魔獣。それを憐れに思った神が魔獣への対抗手段として、人類に魔法を授けたとテレサより聞いている。


 案外、異世界あちらの世界もかつて、いまの日本こちらの世界と似たような歴史を辿ったのかもしれない。



 さて、話は少し戻り『四宮五公』の話。


 日本の頂点たる『四宮五公』のうち、四宮はその特殊な血筋と役割から、政治には基本的に干渉しない"象徴的"立場を取っている。

 ニュアンス的には、第二次世界大戦以降の天皇の立ち位置が近いだろうか。実際、四宮は天皇の家系の遠縁らしいし。


 四宮が政治に干渉しないため、現在の日本の政治の実権は五公が握っていると言っていい。


 そして、今俺が滞在している賀茂家は、前述の通り五公の一角であるので。


(ここ、日本の最高権力者の家じゃねぇか)

 

 しかも、俺を召喚した制服美少女ーー賀茂 雛菊はどうやら賀茂家現当主、賀茂公爵の長女であるらしいので、もはやニュアンス的にはお嬢様を超えてお姫様が近い。


(どうしてこう、最高権力者のお姫様と縁があるもんかね)


 俺を異世界に召喚した【聖女】テレサ・ル・アルカディアだって、アルカディア王国の第三王女であったわけだしな。


(しかし、それにしてはこの状況には違和感がある)


 1日滞在させてもらっているこの屋敷は、ヒルメに聞けば賀茂本邸の離れであるとか。

 そこに居住しているのは、賀茂宗家長女である雛菊と、使用人であるヒルメの二人のみ。

 国の最高権力者の娘だ、もっと丁重な扱いをされてそうなもんだが。


 その雛菊は今日の朝方、学園に通うとのことで誰の手も借りることなく、一人で登校していった。


 ちなみに、俺には現在外出自粛令が出ている。


『現在賀茂家では、あなたの扱いについて意見が割れていて。だから、当面の方針が決まるまで、この屋敷で大人しくして居て欲しいの』


 申し訳なさそうに言った、昨日の雛菊の言葉だ。


 どうも、今回の雛菊の≪英霊召喚≫は異常イレギュラーらしく。

 通常の≪英霊召喚≫では、過去、日本に存在した歴史上の偉人が物理的な肉体を持たない"霊体"として召喚されるそうで。

 その後、契約を結ぶと契約主との契約を媒介に、大気中のマナを使って都度、英霊の肉体を"再現"するんだとか。


 であるのに、今回の俺は"日本の歴史上に存在しない"人間ーー正確には史実に残る功績を残していないという意味ーーが、"生存している状態"で、かつ"現実の肉体"を持って召喚されるという、まさに異常イレギュラー祭りと言っていい。


『契約には双方の合意が必須なの。だけど、私達はまだ、お互いが納得する契約条件を提示できる段階にないわ』


 英霊には現界のために契約が必要だが、現実の肉体を持つ俺は当然、現界のために契約を必要としない。召喚主である雛菊とも未だ契約を結んでおらず、宙ぶらりんな状態。


 そのため、俺の扱い方について。要は一人の人間として扱うのか、あくまで英霊ーー式神や召喚獣、使い魔などーーの範疇で扱うのかについて、賀茂家内で意見が分かれていると。


 直近の方針が決まるまで外出を控えるように雛菊から打診され、しばらく情報収集に努めたい俺がそれを受け入れたのが、昨日の顛末である。

 権力者の家らしく書籍と言った情報源に困らないため、俺に不便はない。


(まあ、召喚獣扱いってのは困りそうだが)


 いまの日本に人権って概念が残っているかは知らないが、少なくとも公的に人間扱いされないってのは不便が多そうだ。


(さて、どうなるかね)


 読み終わった書籍を閉じ次の書籍に手を伸ばしながら、俺は今後の行く末について考えるのだった。

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