第5話 ファンタジーな異世界から帰ってきたら、日本もファンタジーになってた

前書き

昨日は更新できず申し訳ないです。

昨日更新できなかった分を含めて、本日は2話更新予定です。

こちらは1話目。


+++


 そのまま唖然としていると、廊下からバタバタと二人分の足音が騒がしく近づいてきた。

 そうして顔を出したのは、制服に身を包んだ高校生辺りの歳の頃に見える、意志の強そうな翡翠の瞳が煌めく、黒髪の美少女。


 その少女の表情には焦りの色が浮かんでいたが、俺の姿を認めると、ほっと安心したように一つ息を吐いた。


(というかこの女、日本に帰ってきた時に目の前にいたやつだな)


 少女の後ろからは、先ほどの割烹着巨乳女がひょっこりと顔を出すのが見える。


 俺が倒れる前のあのシチュエーションって、異世界に召喚された時と酷似してんだよなぁ。


 ーー常識とは 18 歳までに身につけた偏見のコレクションでしかない。


 これはかのアインシュタインが残した有名な言葉だが、召喚される前の俺の常識であれば、現代日本でそんな超常はありえんのだが。


 今の俺からすれば、偏見の陳列棚のラインナップってものが刷新されてしまっており、ありえないって言葉を迂闊に使えなくなってしまった。


 それに、俺の身体が"超常的に"完治している件や、今現在この大気中に漂う、のこともある。


 実際のところ、アルカディア王は元の世界に送還するとは言っていたし、目の前の少女からもここが日本だと聞いたが、そもそも此処が俺の知っている日本だって保証もない。


 というわけで、まずは状況確認といこうか。


「良かった、起きたのね。身体の調子はどう?」

「ああ、確認したが、どこにも異常は見られなかった。そこそこの重傷負ってた自覚があるんだが、あんた達が面倒見てくれたのか?」

「それなら良かった。あなたを治したのはこのヒルメよ」


 そう言って少女は、後ろの割烹着巨乳女の両肩を掴むと、俺に紹介するように前に押し出した。

 

「賀茂家使用人、土橋ヒルメと申します」


 紹介を受けその女ーーヒルメは、恭しく両裾を掴み挨拶をした。

 それがクラシックのメイド服とかなら良かったんだが、生憎割烹着姿だと違和感が凄いな。


「貴方の言う通り、かなりひどい状態だったわ。ヒルメが≪回復術≫の名手だったから良かったけど、ヒルメが居なかったらどうなっていたか」


 ≪回復術≫ね。少なくとも、あちらの世界でよく見た回復魔法とは違うようだが、さて。


「はい。外傷もそうですが、何より内傷が酷く。特に全身の筋肉や骨、臓器に至るまでボロボロで、印象を受けました。何をしたらそんな状態になるのかも疑問ですが、そもそもどうしてあの状態で生きているのかすら不思議なくらいです」


 ああ、身体の内側のダメージね。


「ああ、それに関しちゃ、ほぼってとこだな」


 何せ自分の技の反動みたいなものだからな。


「生命力にはちょっとした自信があるんだが、流石に危ないところだった。ありがとよ、土橋さんや」

「私はお嬢様の命に従ったまでですので。お礼ならばどうぞ、お嬢様に」

「もちろん、そちらにも礼はさせてもらうが。実際に治してくれたのは、あんただろう。だから、あんたにも礼を言わせてくれ」


 それが筋ってもんだろ。


「そうですか。それでは、お礼を受け取らせていただきますね。それと、私のことは、ヒルメとお呼びいただければ」

「ヒルメさんね。了解だ」


 割烹着巨乳の和風美人なねーちゃんが、土橋ヒルメと。

 詳細は分からんが、少なくともこのヒルメ嬢の≪回復術≫とやらは、【聖女】であるテレサの回復魔法クラスの回復力があるわけだ。


 この日本が人外魔境でないならば、瀕死の人間を完治させるクラスの回復能力を持つ人間が重宝されないはずがない。

 そんな人材が、なんで使用人なんてやってるんだか。


「それで?そちらの可憐なお嬢さんが、ヒルメさんのお嬢様か?」


 そう言って俺たちの会話の様子を黙って聞いていた、見るからに育ちの良さそうな制服姿の黒髪美少女に目を向ける。


「人に名前を聞くときは、まずは自分からって習わなかったのかしら……まあいいわ」


 "推定お嬢様"は俺の問いかけに憮然とした様子ではあったが、一つ溜息を零すと、切り替えるように胸を張って答えた、


「私の名前は、賀茂 雛菊かも ひなぎく。日本国"異能五公"が一角、賀茂家の長女にして、異能≪英霊召喚≫であなたを英霊として召喚させてもらった、召喚主よ」


 自己紹介のファンタジー感がすごい。

 わかってたけど、ここ絶対俺の知ってる日本じゃないわ。

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