下(続)

二.変わるために

 ——あれから数ヶ月の時が流れました。政界は戦争を企てていた国家統一党が解体。しかし国家統一党に近しかった野党の一つの党が与党に変わり、勘解由小路侯爵率いる日ト高党や不破子爵の属する志環党が論争による戦いを続けておりました。友好国との仲を「平和」にすべく、日ト高党が掲げた使節が採用されました。その使節団には、勘解由小路侯爵を全権大使として、勘解由小路侯爵家の嫡男、末の子。不破子爵、嫡子、真ん中の子。片桐伯爵家の末の子。護衛隊として中尉の谷崎。その他書記官、留学生らが友好国へ。

 ある日の海を越えた先の国。公園のベンチにて、隣で眠る不破を叩き起こす。

「不破!見てください、これ!」

私は『New Village』という本を見せる。

「んー?何だよ?……えーっと、新しい村?」

「新しき村、です!通訳の先生に翻訳してもらいながら読んだんですが、とても面白かったです!誰もが平等に一緒に労働する、という理想のために村を作ってしまった著者がカッコいいです。私もやろうかな……」

「はっ、相変わらず突拍子ねぇな、お前。まぁけど、良いんじゃね。何も無いより。……しかし、お前なら本当にやっちゃいそうだな」

 不破は笑って頷いた。それによりますます自信を持つことが出来た。

「でしょ!やっとやりたいことが見つかりましたよ、尚ちゃん!応援してくれるかな……」

「アイツ忙しいから気にしないかもな。ただ生きてるってことが分かるなら何も言わなそうだし。にしても、相変わらず勘解は速水ばっかだな」

「勿論です!尚ちゃんがやりたいことを信じてやれば良いと教えてくれたんです」

「そうだったな……俺はまだ実業家がぼんやり見えたり見えなかったりする感じだから。何か見つけねぇとな……」

 ある日の日本帝国。政界の重鎮である勘解由小路公爵が不在。これを機に、片桐家と速水家が片桐伯爵家で接触していた。その場には片桐伯爵と伯爵夫人、嫡男である晶彦。そして速水前伯爵と前伯爵夫人、そして速水伯爵が介しておりました。介した理由は片桐伯爵と速水前伯爵が家の存続について話し合うため。その結論として速水伯爵家を終わらせるために、その権力を片桐伯爵家に譲る。それをするために、嫡男である晶彦と速水伯爵である尚の政略結婚案が出された。

 私は結婚などする気は無かった。両親としては家も終わらせられるし、娘も送り出せる。みたいなハッピーエンドなんだろうな。そんなことを考えながら、片桐伯爵家の中庭を歩いていた。

「速水さん、待ってください……!」

 呼ばれて振り返ると、晶さんが駆けて来ていた。だいぶ疲れ切った顔で……。

「は、走らなくていいです!私が行きますから!」

 何で走るんだ。病弱なことは本人が一番良く知っているだろうに。と、疑問に思いながら晶さんの元へ。晶さんをベンチに座らせる。

「速水さんは私の事が嫌いですよね。私は速水さんのことが、ずっと好きですけど」

「……はい?」

 唐突過ぎる。

「政略結婚、嫌でしょう?」

「……嫌ですけど。結婚する気も更々無いですし。でも、当主を続けてたらそう言った問題は付いて回る。それも嫌。むしろ、当主はやってたくない。軍人も辞めたい。そう思います」

「そうですね、貴女はそういう人だから。……私より弁が立つ。私が当主になったら、家が危うくなりそうで。最近はそれが心配なんですよ」

「そんなことないと思いますけど……」

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