帝国物語

志水命言

プロローグ

一.とある帝国

 ——赤、あかく、あかねく、東のみやこ。西の都より遷都して以降、多くの者が出入りしております。現在、暁の候。府の中心に建ちます東京駅は帰りを急ぐ人々の足や待ち人をする、様々な足が多くありました。

 この国には高額取引され普及が進まない代物が多く存在する。その一つである自転車が駅に隣接するバス停近くに二台並んで停まっていた。跨る二人は稀有な目を向けられているが気にする様子はない。

「それで……お前、話聞いてたか?」

「……あ、うん。聞いてた。カラスとネコが喧嘩してたって……言ってたよ」

「んな事言ってねぇよ、ゴミ捨て場か」

 調子の合うことを知らぬ二人を見る目たちは大きなエンジン音を聞きつけ他所に。平民でも馴染みある乗り物となった昨今だが、停車したこのバスは違う。特権階級出身の若者たちが通う教育機関「學修院」という学校名と装飾が施され、目に見える高級感がある。扉が開き子女たちが降車する。「ごきげんよう」と挨拶を交わし、己が迎えの車や汽車に別れゆく。そんな人の合間を縫い、一人の青年が自転車を見つけた。

「お帰りなさい、二人共」

「ただいま。そして、お疲れさん」

「ただいま。今日は眠かった……」

「……いつも眠い、の間違いだろ。お前はな」

 合流した物静かな青年は調子の合わない二人を穏やかに見守る。そんな三人の元に駆け寄ってくる女学生が居た。

「ごきげんよう!」

「……さっきまでのお淑やかは何処に置いてきたんだよ、このお嬢様」

「このお嬢様のお嬢様モードは、この和じゃ皆無になるんだよ」

「ふふっ……私が来てから初めて会話が噛み合ったね」

 ——高額取引され普及の進んでいない自転車を有しております、容姿端麗で口が悪い訳ではありませんが少しばかりの粗野が目立つ青年と、眠気から目を細めマイペースにぼうっとする青年。そして公卿や華族の高級官僚の子どもたちが通う學修院に通っております、表情の読み取りにくい物静かな青年と、お嬢様には似つかわしくない朗らかな笑みを浮かべる女学生。……身も蓋も無いことを言いますが、彼らはお金持ちなのであります。そんな彼らは世間一般から見れば「生まれた時点で優位者」。

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