愛とはなんなのか
空野そら
プロローグ【俺の目的と嫉妬の視線】
俺は
そして今俺はある生徒に……
「チッなんであいつだけ……」
「ほんとだよなあ、なんであいつだけ許されるんだよ、ほんと嫉妬する」
嫉妬されていた。
しかし今の嫉妬は違う。明らかにこれは嫉まれている方の嫉妬だった。
俺がされたい、目標にしている嫉妬は妬まれる。そう簡単に言えばヤキモチの方の嫉妬なのだ。
俺はここまでの十六年の人生で恋愛とは程遠い生活を過ごしてきた。そして周りがどんどんどんどん彼女彼氏を作ってイチャイチャ学校生活を満喫している。
しかし一向に彼女ができない自分自身、そして今後の人生で彼女というものができないのではないかという未来への恐怖で今俺は恋愛に関わろうとしているのだ。
だけど今のこの状況は恋愛から程遠い状況になってしまっていた。だが嫉まれる原因を俺は分かっていた。それは——
(「隆太、よかったね目標達成だよ」)
(「違う、この嫉妬は違うんだ、俺は男女間の方なんだよ、こっちは求めてない」)
俺の名前を呼んで少し茶化すような発言をしてきたのは長く、しっかりと手入れをしているのであろう茶色の髪を頭の後ろでポニーテールにしている俺の同級生でもありながら幼馴染でもある
(「ほれほれ~そんなこと言って~本当は嬉しいんじゃないの~?」)
「何が!」
「あ……」
視線が痛い。他の男子生徒から送られる嫉妬の視線が鋭く痛い。
恵茉が訳の分からないことを言ったため俺は咄嗟に大声で反論を返してしまう。そのせいでさっきまで飛ばされていた男子生徒からの嫉妬の視線がさらに鋭くなってしまう。
正直に言おう、恵茉は美人だ。美人な上に可愛い、そして成績優秀で文武両道。さらに言えば優しさも優しさメーターなどがあれば余裕で振り切るほどに優しい。
美人と言っても可愛いだとか、顔が整っているなどの美人ではなく、カッコイイと言われる美人なのだ。もちろん、他にも美人だと言われる要素は盛り沢山ある。
「ま~たなにやっての」
「あ、伊月~!」
眠たそうな目に、少し長い白髪を下ろしている男子生徒が呆れたように俺らのもとにやってきて言葉を零した。その男子生徒は俺ら二人と同級生、そして恵茉と同じく俺の幼馴染でもある男友達……
そして俺は伊月に恵茉からからかわれていることについて助けてもらおうと恵茉から離れようとするも、急に俺の手首が誰かによって掴まれてしまい、伊月のところへ行けなくなってしまった。
大体予想はついているものの、もし違って変な言葉を口走ったら危ないと思い、俺は振り返る。
そこにはものすごい形相をしながら腕を伸ばし、俺の手首を掴んでいる恵茉の姿があった。
そんな姿の恵茉にヒッと怖がるような弱弱しい悲鳴を上げる。すると、恵茉はギロッという効果音が似合う目の動きで、俺を睨みつける。
「な、なんだよ」
「行かせないよ?」
「なんでだよ!」
なぜ恵茉がこんなにも敵意を剝き出しにして俺を行かせないようにしているのか、簡単に述べるなら恵茉と伊月の関係が幼馴染なのにも関わらず険悪だからだ。さらに二人と最も仲の良い人物であろうこの俺でもなぜ険悪なのか分からない。
昔までは、小学校高学年までは今とは真逆で仲が良く、俺ら三人誰かが欠けている時の方が珍しく、一~ニ回ほどしか欠けたことがない。
しかし、高学年の秋になってから急に恵茉と伊月は険悪となってしまい、二人だけでは会わない。もし会ったとしても視線すら交わさなくなってしまっていた。このままではマズいと小学生であった俺は直感で感じ、どうにかしようと二人の仲介役などを務めたりした。
さらに二人を遊びに誘ったり、先生と相談して同じ班、隣の席にしたりなど色々試行錯誤を繰り返したものの、その努力は虚しく、二人の仲は逆に悪くなっていくだけだった。
そして高校生になった俺でも何とかすることはできず、そもそもの原因すら分からないためどうにもできない状況が続いてしまっていた。
しかし謎なのが二人とも俺に対してはほぼ幼少期から変わらず接してくれていることだった。
…………そんなこと今はどうだっていい。今はこの状況をどうにかしなければ。
どうにかすると言っても俺の頭では理想的な解決案が浮かばず、いつの間にか俺の腕を掴んでいた伊月と恵茉によって俺は引っ張られて、腕がちぎれてしまうのではないかと思うほどの痛みが走る。
うん。本当にちぎれそう。なんか腕からなっちゃいけない音が鳴り始めてる。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い‼ 俺を取り合いするな‼」
「私が先に話してたんだから!」
「い~や僕は隆太に呼ばれたんだぞ!」
「もうどっちだっていいから! 離せ! 離せよ!」
大声で、しかも絶対に二人が聞こえるところにいる状態で文句じみたことを口にするも二人は俺を取り合いするのに夢中で俺の声が聞こえていないみたいだった。
そんな二人に呆れながら思考をフル回転させてこの状況から抜け出す方法を考える。
その時、ふと時計を見ると針が授業開始時刻まで迫っていた。
刹那。頭に稲妻が走ったかのように急激に思考が回転し、ある考えが浮上してくる。
「な、なあ! もうそろそろ授業始まるから席に戻らないと!」
「いや、私は隆太の隣だし……」
「僕も隆太の隣……それに集まってるとこ、隆太の席だぞ?」
「そうだったあぁぁあぁあぁぁ‼‼‼」
「水城! 教室では静かにしろ!」
「あっすいません」
せっかく出てきた案に早速その案が使えなくなる現実を二人が見せつけてくる。そのことに頭を抱えながら大声で叫ぶと、いつの間にか教室に入ってきていた教師に軽く叱責を受けてしまう。
さすがに教師に反論をすると、今後の学校生活などに支障が出ることは俺でも分かるため、素直に謝って静かに自分の席に座る。
二人もそろそろ授業準備をしないと間に合わないと判断したのか、それとも俺が怒られたことによって気まずくなったからなのか各々の席に座る。
俺らに合わせるように他の生徒も次々へと席に座り授業準備を始める。
次第に授業準備が終わった生徒は前や後ろ、左右の仲の良い生徒と雑談を交わし始める。
いつもならどっちかは必ず俺に話しかけてくるものの、今回は何も話してこない。
ぶっちゃけすごい気まずい。例えるなら見知らぬ人と通る道がずっと同じの時ぐらい気まずい。
「あの~? いつもみたいに話しかけてきてくれません? ちょっと気まずいんですけど」
「「……ふんっ!」」
「いや、え、あの、ガチで反応に困るんですが」
二次元ツンデレヒロインのような反応をする二人に困惑するが改善される気配はない。
困惑しているうちに授業開始を知らせるチャイムが教室に響く。それと同時に雑談を交わしていた生徒たちは黒板の方へ体を向け日直の号令と共に挨拶をする。
同じく日直の着席の声で生徒全員が自分の席に座り、教師が授業を始めていく。
大抵の人々は「すごい」「ただの自慢だ」「尊敬する」などいろんな意見に分かれるであろう。俺は、いや、俺ら三人組が通っている八柳高校は日本有数の名門校なのである。
どれほどの名門校か、それは百五十年ほどの歴史を持ち、どっかの大臣、どっかの会長や理事長。大企業の社長の子供などが通うほどの小中高大一貫の名門校なのだ。
そんな名門校に何故こんな平凡な三人が入学できたのか、まあよくアニメである特別生徒制度みたいな感じのものがこの学校にもある。
その制度に応募したら、なんと見事に三人とも当選し、他生徒よりちょっとばかし難しい受験を突破したため、俺ら三人はこの超名門校に通っているのだ。
まあ俺らみたいな一般人はある程度地位が高く、内部生からすれば、この八柳高校の埃みたいな感じで見ている。
この八柳高校から埃を捨てるためにどんな手を使ってでも俺らを退学にしたいのだろう。
そして八柳高校にはある制度がある。『特定生徒退学投票』という堅苦しい名前をした制度だ。
特定生徒退学投票———それは八柳学園の小中を除く全生徒が参加し、八柳校に不要だ、相応しくない。多くの生徒から嫌悪感を抱かれている。そんな生徒に各生徒が投票をしてこの八柳校から強制退学させることができる制度。
この制度は百年ほど前からある伝統的な制度で、毎年五~十名ほどの退学者を出しているらしい。そしてその九割が普通の、お家柄高くなく、金もそこそこな所謂平民の外部生から選ばれる。稀に社会的地位の高い所謂貴族に近しい家の子供も選ばれることがあるらしい。恐らく残りの一%がそれなのだろう。
この制度の怖い所は退学者を出すところもだが、それよりも政府要人の子供もこの八柳校に毎年在学しているため咎めることがほぼ不可能に近い所だ。
まあ要は『この八柳校の中でいらない奴は全員退学だ! 異論は認めん!』という何か過激的な考えのもとに作られた制度ってわけ。
俺らは一年生。それも入学からまだ一カ月も経っていない。そしてその特定生徒退学投票、略して。特生退は年にニ回、七月に一回目と十一月にニ回目ある。
今は四月下旬で、特生退まで残り二カ月ちょっとしかない。
で、外部生の俺らが標的にされているのも当然と言ってもいいだろう。
正直ヤバい。一応救済措置として投票後に退学予定の生徒が演説をし、そこで在学させるか、退学させるかの最終投票をする。それで在学に票が多ければ退学されずに済む。
そして噂程度だが過去にその救済措置で数十名が何とか生き残り、そのまま学校生活を続けた人たちがいると聞いたことがあるが……その中に外部生は二人。それも元々地位が高かった人だ。
しかし俺らはなんの地位も名誉もない外部生。そして元々地位が高かったわけでもない。これはもう無理ゲーにしか思えない。
せっかくやっとの思いで入学したのに三ヵ月ほどで退学になる。そんなことを知れば学校に対してやる気のやの字もなくなってしまう。
……結構話が逸れてしまったような気がする。誰に言っているのか分からないが。
まあそんなド鬼畜名門校。授業の内容がそこら辺の高校と同じかと言われれば俺は絶対に違うと答える。
だって入学してまだ少ししか経っていないのに『お試しだから』『ちょっとだけ』と言ってガッツリ高校二年生の内容から始める数学教師がそこら辺の高校に居てたまるか。
まあ他の教科もほぼ同じなのだが……
しかし教師が教えることに長けているのか、二年生の範囲でも授業で分からないになることはなく、他者に教えれる程度には理解ができている。
そんなことはさておき……さっきから何か視線が刺さっているような感覚がする。ちょうど真横から。
(「どうした?」)
(「別に? さっきから授業を聞かずに上の空だったから」)
(「少し考え事をしててな……って今どこやってる?」)
(「はあ…ここ」)
(「さ~んきゅ」)
視線を飛ばしてきた恵茉に小声で問うと考え事によって上の空になっていたことを気付いていたらしく、そこを突かれる。
別に知られても問題はないが、話した時に恵茉から『授業中にそんなことを考えてるだなんて…変人?』だなんて思われてしまう可能性が少なからずあるかもしれないと思ったため、しょうもない考えをしていたと思わせるためにも少しあしらう。
いや、恵茉がそんなことを考える訳ないか。少し失礼な気がするが……まあ大丈夫だろう。
しかし板書が面倒。考え事で上の空になっていたことでほぼ最初から書き始めないといけなくなっていた。
幸い恵茉に今、教師が説明をしているところを教えてもらえたため何とか問題を出されても答えれる。
こんなことを考えた故なのか、教師が板書を終え、体を翻してクラスを一瞥する。すると俺に視線を飛ばし、指を指す。
「おし、じゃあ水城! ここを答えてみろ!」
(「なんでだよ!」)
「え~っと……X=三…だと、思います……」
「おお! 正解だ! でも水城、授業はしっかり聞いとけよ~」
「は、はい。すいません」
(「なんだよ! 分かってて当てたのかよ!」)
不敵な笑みを浮かべ俺を指名する。教師は何個かある問題の中からぱっと見一番難しい問題を答えさせようとする。
俺は数式を見て少し考えた後、直感でアンサーを述べると正解だったみたい。ラッキー。
まあここからは指名されないだろうと謎の自信を持ちながら必死に板書を再開する。
そうやって時は四限終了まで過ぎ、昼休みに突入していた。ここに来るまですべての授業で教師に当てられた原因はどっかの誰かさんたちのせいでもあったのだが……
そんなことはさておき、昼休みではほとんどの生徒が購買か食堂で購入し、フードコートのような場所で食べる。
だが一割の生徒は登校中にコンビニなどで購入するか、弁当を作ってきて教室、もしくは中庭にあるベンチなどで食べる。
俺はその一割に入っている。というか俺は一人暮らしをしており、家庭の問題というもので両親から仕送りやお金を貰うことができず、バイトを複数掛け持ちして何とか一月を凌いでいる。
そのため自炊をして出費をなるべく抑えていた。自炊をするということは必然的に弁当を作るということになる。
しかし恵茉と伊月は親から食費を貰っているため、今は購買にパンか何かを買いに食堂へと向かっている。
(しっかし、いつも思うけど一人で食べるって寂しいもんだな)
あとから二人が来るのは分かっているものの、入学ひと月ちょっとのため、まだ少し寂しさを覚える。
そんなことを思いつつ三分ほど待っていると教室の前のドアから二人が姿を現し、俺の席の近く……というか両隣にある各々の席に座る。
すると勢いよくパンの袋を開けると、なんの迷いもなく真っ先にパンを俺に突き出してくる。しかも二人から。この謎めいた行動が入学してからずっと続いており、毎日呆れるかのように俺は溜息を吐くのだ。
これがもう日課になってきていると言ってもいいのではないだろうか。
「……で? 今日はどっちのを食べればいいんだ?」
「「こっち!」」
「はあ⁉ なんであんたが!」
「別にいいじゃん! 僕は隆太の男友達で、親友で、幼馴染だし」
「それでいうと私だって隆太の女友達だし、親友だし、幼馴染ですけど~? それに隆太も私から貰った方がうれしいに決まってます~」
「い~や絶対に僕だね! それにどっちから貰ってうれしいかなんて隆太にしか分かりません~」
「今速攻で矛盾してんの築いてます~? プププッ頭だいじょ~ぶですか~?」
「こんにゃろっ!」
二人の煽り煽られの会話を間近で見聞きし、内心低レベルな争いだなと思いつつ、自然と、目の間で起きている争いが自分に全く関係ないことのような悠々とした態度で昼食を口にする。
(俺は全くの無関係ですよ~。なんか話しかけられたように見えましたけど、気のせいですからね~)
毎日、何故かクラスメイトから俺ら三人に暖かい視線を送られることに関して全くの無関係だと心の中で呟く。
「まあ確かに隆太はそれが好きかもしれないね」
「い~や~、そっちも十分好きなんじゃない?」
「……お前ら実は、仲が良いんじゃねぇの?」
「「んなことない‼」」
声を合わせて、俺がふと呟いたことを否定する。しかも同じ姿勢で。そんな姿を見せられてしまったら二人の否定は虚しく。
(説得力ねぇなおい、もういっそのことくっつけばいいのに)
そんなことを思うのだった。
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