理系転生~人類根絶目的で世界平和を目指す魔王と好奇心で世界を破滅させる勇者~
@tetoneko3
作品の雰囲気ちょい読み
「ならあなたは、世界の真実を自分で気付くことが可能な場所、設定での周回を希望しているということですねー?」
(そうなる)
「わかりましたー。では、場所とかはこの辺として。スコアボーナスはー……うーん、まずは、記憶保持と言語能力は必須ですよね?」
(そうなるかな。記憶保持はやっぱり欲しい。新規言語の習得もめんどうくさい。ノウハウがあれば言語習得のフィールドワークも面白かったのかもしれないけど、その辺はあまり詳しくなくて)
「では、記憶保持と全言語自動翻訳はつけて、と。まぁ当たり前ですけど、めちゃくちゃ利用可能スコア残ってますねー。うーん、全知とかつけます? アカシックレコードを読める権限でも。なんでもわかりますよー」
(絶対にやめて。それならまだ、手から無限にラーメンを出せる能力の方がマシ)
「ではそれをつけてー」
(待って、ほんとにあるの?)
「かなりスコア余ってますからねー。いろんな能力を自由に考えてつけられますよー」
(なんだか大喜利みたいになってきた)
「人気どころとしては、美少女化、イケメン化、ハーレム因子、超幸運、戦闘能力向上、魔力無制限、最上位級魔法習得、その他諸々ありますけどー」
(随分俗物的というか、そういうのって何日くらいで飽きるんだろう)
~~主人公と転成担当の会話
食虫植物であるハエトリソウは、開いた葉の上に捕食対象となる虫が止まった際に0.3秒でその葉を閉じ、虫を捕食する。ハエトリソウには目がない。すなわち、葉を閉じるという判断は、触覚に頼っている。しかし、簡単な触覚でいちいち葉を閉じることはできない。それは、葉を閉じるという攻撃行動が、ハエトリソウの構造上、自らの命に関わるほど大きな労力を要する行動だからだ。彼らはこの捕食行動を、必殺にして確実な一撃にしなければならなかったのだ。それを単純な触覚に頼ったのでは、飛んできたゴミや、雨などで間違って葉を閉じる可能性がある。そこで彼らは、一定の期間内に2回触覚に反応があった時に、捕食行動を取る形へと進化した。この現象は、今の自分のやらかしに限りなく一致する。
では、かの植物は何故ハエトリソウと同じ進化をしているのか。それは、この捕食行動が、あの植物にとっても身を削る行動だからだと言える。一撃必殺。すなわち、それは。
~~未知の植物種モンスターを前にした主人公の考察
「神様って、本当にいるんですか!?」
シズクは嘲笑って答える。
「いるよ。絶対にいるわけがないと思ってるんだけど、だからこそ、いるんだろうなぁって日々わからされてる。ただ、それはあくまで、世界を創造した全知全能に見える意思を持った何かであって、作った理由もおそらく独善的でエゴイスティックな自己満足。世界や人類の救済にはこれっぽっちも興味を持ってないよ。多分ね」
~~合理的な思考ができるシスターを仲間に誘う際の主人公のセリフ
「ファンタジー作品やゲーム作品的解釈でいえば、呪いの雨ってのは珍しい表現ではない。浴びた人の体が石化したりな」
「石化っていうと、アフリカのナトロン湖かな。塩化ナトリウムを含んだpH10の強アルカリ性の水が、生物の死体の腐敗を遮る結果、湖の上に石化したような生物の死骸が溢れるっていう。でもこの場合、仮に人がこの水を浴びても、腐食性の化学火傷を負う可能性はあっても、即座の石化は考えられない」
「ファンタジー的な石化ってのは、ギリシャ神話におけるゴルゴーンみたいな、魔術、呪いの類だからな。これも原因はだいたい魔物による魔法か呪いだ」
「そんなものない、と、言い切れないのがなんとも剣と魔法の世界だね。ともあれ、具体的にどんな症例が出るのか、実際に見てみたいな」
「危険だ。感染の可能性がないわけじゃない。そもそも、怪しげなよそ者に見せてくれるかどうかが怪しい」
「うん。だからさ……」
軽くスキップするように前に駆け出し、まるでミュージカルのように鼻歌を歌いつつ、くるくると踊って手の平を空へと向ける。リクはシズクが何を言いたいかを理解し、顔を青く染めた。
「お前……まさか……」
シズクはにやりと笑って、ゲーテの詩を引用しつつ、独自の一文を付け加える
「雨の中、傘をささずに踊る人間がいてもいい。自由とはそういうもの。そして、自由主義なくして、科学的手法はないんだよ」
~~浴びると死ぬという呪いの雨の降る街にて
「なら、そのダンジョンを攻略して破壊すれば、この街は救われるんですね」
「そうだよ。でも、無理だから早くこの街から離れようか」
「おいぃぃ!」
思わず立ち上がったリクが渾身のツッコミを入れる。
「なに?」
「そうじゃないだろ! 絶対そうじゃない! 人類に仇なす魔物のたくらみは冒険者によって穿たれる物! その複雑なからくりが判明した現状で、根源を無視して次の街に行くなんて世界が許しても堀井Pと天国のすぎやま大先生が許さないだろ!」
「なんで? 私その人、キャンディとヒデキと伝説の巨神しか知らない」
「知識が偏りすぎてるだろいい加減にしろ!」
「私は絶対に戦闘機が炎に包まれて突っ込む忍法を科学とは認めない」
「ねぇその偏りはどんなご家庭で構築されるの!?」
「姉が天才すぎてノーベル賞貰うようなどこにでもある一般家庭」
「どこにでもあってたまるか! 今どき桜新町の平屋一戸建てくらいありえない!」
「エネルギーとエレクトロニクスってこと?」
「だからそうじゃないんだよ!」
~~ダンジョン攻略をスルーしようとする主人公と幼馴染のやり取り
彼女をして、幼馴染のリクは「おとこのこ」である。人型のロボットがまるで歌舞伎のような見栄を切り、過度なまでに誇張された作画パースで剣を構える姿が、おとこのこは大好きなのだ。
もしも予算や技術力を度外視し、現代技術の粋を集めて超伝導レールガンを搭載した80cm列車砲グスタフ・ドーラの三号機を開発した時は、エネルギー充填率のメモリが何故か120%まであるインターフェイスを撫でつつ、こう言ってやりたい。「おとこのこって、こういうの好きでしょう?」と。この時点で悩殺は確実なのだが、ここでさらに自爆スイッチの隣にあるスイッチを押して列車砲の巨大な筐体を変形させ、同時に空から急降下爆撃さながらのモーションで降下してくるユンカースJu87シュトゥーカ型超音速ジェット戦闘機(ただし本来の用途は爆撃機)と、何故か艦首に巨大なドリルを装備したUボートがよくわからない力で飛翔して集まり、不思議な力で起こされた緑の竜巻の中で3体が合体して巨大人型ロボットになった日には、あまりの興奮に鼻血を拭いて倒れることは保証されている。このような低俗なハニートラップにすら抗えない生物学的に愚かな存在、それが、おとこのこなのだ。
~~人型ロボットの出るアニメが大嫌いな主人公の語り
「なるほど、それが貴様の術か」
「そんな大したものじゃない。魔法はまだ覚えたての勉強中」
「ほう? どのような魔法を使う?」
まさか自分から手の内を明かすとも思えないが、聞くだけならばタダである。人間はただ1つの魔法しか使えない。その種別さえわかれば、脅威度の判別は簡単だ。
「ただの回復魔法だよ。傷や病気を治せるだけ」
手の内を明かされた。正気か? これも嘘なのか?
「ふん。愚かな神の力を借り受ける奇跡の類か。ならばその術も奇跡由来か」
「へぇ、魔法と奇跡の概念差、これってイルマがわかりやすく説明してくれただけの解釈じゃなくて、魔物もそう認識している世界システムの根幹なんだ。でも、ならば改めて、違うと言わせてもらうよ。私の回復魔法は、そっちの理屈の上でも魔法。種も仕掛けもなく、神とやらの力を拝借した奇跡ではない。原理があって、理屈がある。だから、私の力は、
「何をわけのわからぬことを。百歩譲ってそれが真実であるとして、ただの回復魔法でどう戦う? この岩窟王フェラーを倒せるというつもりか?」
「YES」
ぞわり、とフェラーの背中表面金属が帯電する。なんなのだ、この威圧感は。
~~ダンジョンの最奥に待ち構える鉄のゴーレムを相手にした主人公のセリフ
「それはなんとも。魔物で最も優れた頭脳から導き出された答えが、まさかそのような優生民族思想とは。レイシストは歴史上、常に滅んできました。世界は多文化多民族、そして、自由の元にのみ統一されるのです」
「その戯言を……やめんかぁ!」
タングステンの首が摂氏2100℃の火炎放射を行う。影がいた場所には、なにも残らなかった。が。
「あまり舐めないでいただきたいですね」
いつのまにか3つ首の後ろに回っていた影が耳元で囁き、軽く手を振り下ろす。それだけの動作で、モトの巨体が地に伏せた。
「がぁぁっ!」
「重力を操る素粒子、グラビトン。そんなものが本当にあるのかともかく、今あなたには1000Gの重力負荷がのしかかっています。3つ首だけに、普段の3000倍とでも言いましょうか。恐竜がその巨体を理由に滅ぶ運命にあるように、その傲慢なまでに肥大化した自尊心で、押し潰れなさい」
「貴様こそ……余を舐めるなぁ!」
圧倒的重力を振り切って、モトが立ち上がる。その雄叫びは真空の宇宙空間までもを揺らした。
「なるほど失礼。伊達に戦闘力ならば魔王様をも上回るとは言われていませんね」
3本の首が乱舞し振り回される爪と尻尾をすんでのところで回避しつつ、光と電撃の魔法射撃で牽制。隙を突いてその脇腹で魔法による爆発を発生させた。この爆発は小規模な核分裂反応によるものである。だがそれでも、モトには傷ひとつつかない。魔物最強と言われるドラゴン。その頂点に君臨する三葉星のモトともなれば、すべてが規格外である。
~~作中最強の魔法使いと最強の魔物の戦闘
「嘘です! それでも世界は動きます! 信じられません!」
だがリクはその怒りを受け流すように、ゆっくりと優しく言葉を返す。
「あぁ、そうだろうな。そうだろうし、俺も信じられない。でもさ概ね、科学ってやつが見つけたことは、信じられないことばっかりだったんだ。世界が丸いことも。地球が太陽の周りを回ることも。人間が猿から進化したことも。宇宙の果てにはブラックホールがあることも。そして、この世界の力の根源はすべて同一のものであることも。最初は誰も信じてなくて、言い出したやつはバカにされた。いや、バカにされたなんてかわいい話じゃない、村八分にされ、殺されかけたことだってあった。そんな中で『それでも』と言い続けた人のおかげで、俺たちの世界は作られていったんだ。だから俺は、どんな突拍子もない理論でも、それを説明しようとする科学者がいる限り、信じることにしている。たとえ世界中の知識人がその人を迫害しようとしても、俺だけはその人を信じてやりたいんだよ」
イルマは気付く。気付いてしまう。そして、これまでにほぼすべての科学者が、一度気付いたことに対する証明行動を止められなかったように、口から出る言葉を抑えられなかった。
「好き……なんですか?」
その実験結果を、緊張と共に待つ。その時間はわずか数秒だったのかもしれないが、3分よりも遥かに長い時間に感じられた。
~~同性の主人公に恋愛感情に近い思いを抱くことになった少女と主人公の幼馴染であるボンクラの会話
「い、いえ! なんでもありませんわ!」
いや、仮にそうだとして、自身の事情を明かすのはまずい。おそらく相手側はまだこちらの正体に気付いていないはず。ならばこのまま隠し通すべきである。百歩譲って転生者であることがバレるにしても、私の前世の真名に関しては隠し通さねばならぬ。彼女たちが同じ世界の出身であり、シズクに関しては私よりも大きな功績を残したことは既に予測済みであるが、具体的に彼女がどのような功績を残しているのか、もとい、彼女がいつの時代の人間なのかは未だ判断がつかぬ。いや、かのような完成度を誇る食べ物を知っているのだから、むしろ私に対して未来人である可能性の方が高い。
であれば、彼女は私の真名を知識として持っていてもおかしくない。あぁ、そうであれば、彼女と出会うとわかってさえいれば、元のファミリーネームをそのまま名前にするような愚かな行為はしなかっただろうに。どうする、もしバレたらどうする。この異世界で神の作りし完璧な姿としてのロリ巨乳である私の正体が、のっぺり顔のおっさん貴族だと判明したらどうする。確実に、間違いなく、彼等は私を蔑んでこう言うだろう。
「変態……」
バカな! そのようなことが許されてたまるものか。自分たちこそが平均であると妄想する愚かな宗教権力め。私は変態ではない。仮に変態だとしても変態という名の知識人である。ようやく奴らの手が届かない世界にたどり着いたというのに、ここでも知恵の実で仮初めの知識を受けたに過ぎない動物界脊索動物門脊椎動物亜門哺乳綱霊長目真猿亜目狭鼻下目ヒト上科ヒト科ヒト亜科ヒト族ヒト亜族ハダカザルの子孫が私の自由と理想の愛の世界を犯すのか。そうなればお姉さまと私の絆はどうなる。既に幾度ともなく夜の逢瀬を重ねたというのに。普段は強気で低い声のお姉さまがかわいらしい声で鳴きつつ求愛する生態を持っていると知っているのは私だけだったというのに。まさかそんなお姉さまからまで……
~~正体がバレそうになるTS少女の葛藤
「ところで、リク君。何か気付かない?」
そう言ってこちらを見つめる幼馴染。あ、知ってる。これめんどくさいやつだ。
「え? ううん……そうだな……あぁ、お前また今日も風呂入らないつもりだろ。ちゃんと入れよ。お前はリンネちゃんと違って、すぐ臭くなるからな」
「ばか。うるさい。最低。デリカシーなし」
リクは知っている。こういう時に無意味に頑張って当てようとすると、外した時に逆にキレられる。そのためこのようにまるで考えない適当なことを言った方が、受けるダメージの期待値が少なくて済む。これはこれで彼なりの最低な合理的判断である。と、その時、ドアが開いてイルマが帰って来る。
「あ……イルマ……」
シズクが乞うような視線をイルマに向けるが、すぐにそっぽを向かれる。そりゃそうである。いくら女性の機嫌が山の天気だといっても、あの後の一朝一夕では直るはずもない。しゅんとするシズクを無視して寝室のドアを開き、背中から声をかける。
「髪切ったなら、今日はちゃんとお風呂に入ってください」
怒りのアピールだとばかりにわざと大きな音をたてて戸を締めるイルマの背中を、シズクはとてもうれしそうな笑顔で見送った。
~~主人公、ボンクラ幼馴染、喧嘩中のヒロインの会話
その四文字を口にした瞬間、やつらの目が、いや、そもそも目なんてなかったのだが、とにかくやつらの目が、一斉にこちらを見た感覚に体が震えた。レンズは展開されておらず、たいまつの灯りも抑えた今、それに気付けるはずもないのに。
「オカルト……言い伝え……鉱石を数える神様……0がつく日と9のつく日……イルマ、今日の日付は?」
「2月12日です。0も9もつきません」
「っ……! 今日はダメだ! 引き返そう!」
すべてが繋がり、シズクが顔を真っ青にして撤退を提案する。
「どういうことだフェアレディシズク。リク少年、君もなんとか言うがいい。この最深部に残るかもしれないオリハルコンを君は求めるのだろう?」
「いや、優男。こいつの予測はわりと当たる。引き返すべきだ。しかし、何に気付いた?」
「禁忌の数字の片方は9で間違いない。でももう片方は0じゃない。12だよ。12進数であるこの世界において、一桁目が0であることはすなわち12であること。そして今日は12日。本来の意味では、今日こそが忌み数の日……入ってはいけない日だったんだ!」
リクの手を強く引いて逃げ出したシズクにつられて、一同も地上への道をかけ戻る。何かが追ってきているような気配を背中から感じていたが、絶対に振り返ってはいけないことを誰もが直感的に理解していた。
オカルト。本来の意味で「隠された物」を示すその言葉が示す区分は、科学において忌み嫌われる分野だった。誰にも証明できず、万人が共有できない曖昧模糊な物語。それ故に悪意と欲を持った人間に利用され、専ら金儲けや自己陶酔に用いられてきた歴史を持つ。西洋においてはヘレナ・ペトロヴナ・ブラヴァツキーによって近代神智学と呼ばれる学問として扱われ、東洋では福来友吉によって超心理学と呼ばれる学問として扱われ、それぞれが詐欺であったとして歴史を閉ざすも、近年になってコペンハーゲンの片田舎において酒に溺れながらの与太話をはじめていた学者たちによって語られたかわいそうな猫の妄想として息を吹き返した。それは確かに初期こそ与太話だったがやがて哲学となり、後にはアインシュタインが提唱した完全無欠の宇宙の真理にして現代科学の聖典、相対性理論に真っ向から立ち向かえる唯一の理論となっていく。そして今日、量子力学と呼ばれるその分野では、三度目の正直とばかりに今までは証明できなかった現象を証明し、万人が共有して認識できる真実としてオカルトの深淵を覗こうと試みられていた。
しかし、そんな科学とオカルトの流れにおいて、もう2つ学問の名を関する分野があった。1つは宗教学。ただこれに関しては、中世に至るまで民衆を効率的にコントロールするための手法としてあった物として、古典的政治学、もしくは文学に近く、ここでのオカルト論からは少し外れる。重要なのはもう片方。日本において明治末期から大正・昭和と3つの時代を駆け抜けた鬼才、柳田國男によって提唱された平和的ナショナリズム、民俗学である。それは当時日本は山陰地区、かの出雲大社や黄泉平坂でも知られる島根県は松江市をこよなく愛した日本人に限りなく近い外国人、パトリック・ラフカディオ・ハーン、またの名を小泉八雲にも繋がり、地元の人間から伝聞で集めた話を学術資料としてまとめた彼の書は、こう呼ばれた。
――
~~都市伝説的怪異との遭遇
「あれは確か、ピカが落ちてから5年後のことだった。市内は未だひどい有り様だったが、少しずつ人も戻ってきていた。他の地域じゃようやく警察が再編されてた頃だが、広島はまだ無法地帯だったよ。そこででかい面してたのが米帝の軍人だ。ガキ達はギブミーチョコレートって言えばチョコレートを貰えたが、女共はホテルに来いと言われて断ることが許されなかった。そんな中、シベリア抑留の噂を聞いて、戦地から未だ戻らなかった幼馴染がまだそっちで生きてるかもしれないと信じ、25にもなってまだおぼ子を貫いていた知り合いの女も、ついに目をつけられた」
令和育ちの自分にはとても信じられない世界。だが、それが真実であることは知識としては持っていた。
「その人は……どうしたんですか?」
「犯されるくらいなら腹を切る。そう言って匕首を取り出した。女なのに日頃からそんな刃物を持ち歩いてるってのは、最初から覚悟ができてたってことだ。それでその軍人、なんて言ったと思う?」
「それはもちろん、引き下がるしか……」
「手を叩いて喜び、大声で仲間を呼んだよ。生でゲイシャのハラキリが見れるぞって」
絶句するしか無かった。
「それでそいつはホントに腹を切って……集まった軍人は大盛りあがりだ。まだかろうじて息はあり、治療すれば助かったかもしれない。しかし、やつらはそいつを動かなくなるまで犯したよ。まぁ、そうなんだろうな。やつらも人間だからな、そのくらいするさ」
ありえない。そんなのは、異世界ファンタジーによく居るゴブリンみたいな亜人種系の魔物のすることで……
~~異世界に転生したヤクザの語る現実の過去
「シズクさん、魔法が曲がります」
「光が曲がるとか物理法則もあったものじゃないね。どういうことだと予測する?」
「おそらく、あの人はそれが当然だと思っています」
「どういうこと?」
ヒロゾは高笑いして叫ぶ。
「米帝の弾がわしに当たるものかよ。わしには
サムハラ。これは意味を持たない奇妙な漢字である。札というからには神道における神の一柱なのだが、この神は由緒ある古典には登場しない。はじめてこの名が登場するのは江戸時代のことで、その時点で既にこの漢字には特に意味がなかった。曰く、どうも矢が当たらないキジがおり、どうにか捕まえてみたところこの四文字の漢字がその尾羽根に記されていたというエピソードだ。とにかく意味はわからないのだが、何故か矢避けの効果があるらしい四文字の漢字、
しかし、本当にそんな効果があるのかと言われればもちろん否である。単なる気休めにしかならない。確かに戦争から無傷で帰ってきたものは皆サムハラの札を持っていたのだが、弾があたって死んだ者はそもそも帰ってこれていない。よくある生存者バイアスである。だが、この異世界において、サムハラの札は確実に魔法避けの効果があった。
「魔法とは、思い込みです。私があの方に当てられると思っていても、あの方の当たるわけがないという思いの方が強ければ当たりませんし、魔法も曲げられます」
「昔リク君からゲームの魔法に対する防御力は信仰心で伸ばせるって聞いてバカにしたんだけど、あれは間違ってなかったんだ」
~~魔法を弾くヤクザとの異世界での戦い
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