第41話 交渉決裂

 夜に行う裏組織の討伐のため、午前中で薬草採取や魔物の討伐を切り上げた。


 「坊主、今日はどうしたんだ?」


 「この後、私用がありまして、狩猟採集は午前中で辞めました」


 「そうか。たまには息抜きも必要だろう。しっかりと楽しんでこい!」


 「ええ、楽しんできます」


 「それじゃ、今日の成果は[ヒール草]15束、[マナ草]15束、[デトキシ草]10束、[パライズ草]10束、ゴブリン20匹、ホブゴブリン5匹、コボルト10匹。この短時間でよくこれだけの素材量を集めたもんだ。流石だな!」


 「ありがとうございます。では、失礼します」


 解体場からの受付に向かう。


 「確認お願いします」


 「確認いたします。ーーーでは、報酬を用意しますので、お待ちください」


 受付嬢が奥の部屋に向かい、報酬を乗せたトレイを持って戻ってくる。


 「こちらが報酬の100,000エルケーになります」


 「ありがとうございます」


 冒険者ギルドを後にし、宿屋で昼食を済ませたら、自室に戻り、お風呂に入り、夜に備えて仮眠を取った。


♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 【休眠】のおかげで身体疲労もなく、スッキリとした目覚めを迎えることができた。身支度を整えて1階の食堂で、夕食を食べる。


 宿屋を出て、スラム街に行く。大通りのほうはまだ陽の光が若干あったが、こちらはもう夜の帳が下りているのと同じだ。


 廃屋の建物や道端に酒瓶を抱えて寝転ぶ浮浪者達はいつもと同じだが、1つ目と2つ目の裏組織があった場所にゴロツキがいた。


 (もしかして、3つ目の組織の組員か?)


 まぁ、いい。既に場所は把握しているんだ。きっと、末端の者達だろうし、このまま向かうとしよう。


 しかし、そう都合良くもいかず、ゴロツキの一人がこちらを見て、仲間達に声をかけ、こちらに歩み寄ってきた。


 (【夜目】や【遠視】を所持しているのか?)


 それより、何故、俺を見て向かってきているのか?既に2つの組織を討伐したことを把握しているのか?まぁ、話を聞けば分かるか。


 「おい、お前。見たところ冒険者…いや、そのバングルは傭兵か?」


 男達は上から下へと視線を巡らせ、油断なく俺を見据える。


 「冒険者兼傭兵です」


 「ランク又は順位を聞いてもいいか?」


 「Bランク冒険者でランカーではありません」


 「Bランク…上級冒険者がこのスラム街に何の用だ?」


 「それはお話できません」


 「そうか。では、俺達についてきてもらおう」


 「ついていく理由がありません」


 「このスラム街にあった組織が2つも無くなった。目撃証言から少年の容姿をした冒険者ということが分かっている。これ以上は分かるな?」


 「確かに、情報と一致しますけど、僕がやったという証拠でもあるんですか?」


 「それを判別するためについてきてもらうのだ」


 「拒否したら?」


 「お前が容疑者だと断定し、うちの組織の者がお前を狙うことになるが、それでもいいのか?」


 「何故、貴方達は…貴方達の組織はそこまで警戒しているんですか?」


 「それは当然だろう。2つの組織を潰したのだから、うちの組織も狙われる可能性がある。だから、容疑者を見つける必要がある」


 「分かりました。ついていきます」


 すると、男達は安堵する表情を見せる。まぁ、そうだろうな。この男達のステータスはEランク相当、Bランクの冒険者を相手にするには無謀すぎる。


 男達についていき、組織の拠点に案内される。着いた場所は2階建ての横幅が木造家屋3軒分はありそうな屋敷。よく、こんなの建てたなと思う。


 男達が扉を開け、中に入れと促す。中に入ると、高級そうな壺や絵画が飾られており、高級な革で作られたであろうソファもある。


 食事処も併設されており、食事や酒を楽しみながら談笑している男達もいる。そして、何より驚いたのが女性もいるということだ。


 今までの盗賊や裏組織には女性がいなかったため、悪事に手を染める女性に驚いたが、同じ人間だし、そういうこともあるかと納得する。


 俺を案内した男の一人が2階の部屋に行く。そして、飯や酒を楽しんでいた男達も談笑を辞め、俺を見て警戒するように立つ。


 【鑑定】や【心眼】で視る限り、ステータスはF〜Dランク相当。しかし、人数が多い。100人近くはいると思われる。


 そして、2階からこちらを見下ろす2人の男。こちらは【鑑定】や【心眼】が通らず、強さが分からない。


 明らかに雰囲気は違うが、オランドさんやウォルトさんのような圧は感じない。それなら、B〜Aランク相当の実力者なのかもしれない。


 それに、ボス然とした大男よりも側近と思われる細身の男の方が強い気がする。


 ボスと側近の男が2階から降り、俺の目前までやってくる。そして、周囲を部下達が囲み、俺の退路を断つ。


 「名前は?」


 「人に名前を尋ねるなら、先に名乗るのが礼儀でしょう」


 「…俺はアドルフだ」


 「僕はアレスです」


 「アレスが2つの組織を殲滅したのか?」


 直球できたな。


 「そうですが、何か問題でも?」


 「Bランクの冒険者で傭兵…しかし、ランカーではない。依頼内容は?」


 「ここまで来たので明かしますが、犯罪組織の捕縛又は討伐です」


 「ということは、うちの組織もその対象だということだな。そして、今日うちの組織を狙いに来たと?」


 「はい」


 「5,000,000エルケーをお前にくれてやる。だから、この件から手を引け」


 「嫌です」


 「なら、10,000,000エルケーをやる」


 「お断りします。この組織を潰して全部奪ったほうが報酬は良いでしょうから」


 「この人数相手に勝てる気か?」


 「この倍以上の数を相手にしたことがあるので、問題ないと思います」


 「そうか。なら、存分に楽しんでくれ。俺の部下達相手に生き残れたら、相手をしてやろう」


 ボスと側近の男は2階に上り、部下達と俺の戦いを見学するようだ。


 さて、どのように戦うかな。


 


 

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