イベリア王国・アヴァール編
第12話 奪う者
ジルガ爺さんとゼリス婆さんの修行を終えてからも狩猟採集に精を出していた。採取は最低限にとどめ、魔物を積極に狩ってレベル上げに勤しんだ。
「ふぅ…まさか別のゴブリンの集落に出会すとは…」
数も質も前回の集落よりは少なく、低い。余裕を持って討伐し、ゴブリン達の死体を【空間魔法】に収納していく。
「ドン!ドン!ドン!」
「キャーーー!」
ん?気のせいか?何か音が聞こえたような気がしたんだが…。
「ドン!ドン!ドン!」
「キャーーー!」
うーん…轟くような音と人の悲鳴のようなものが聞こえる気がする。でも、まずは辺りに散らかっている死体を回収することに専念する。この成果物を献上すれば、ご飯の質や量が良くなるからな。
「よし!全て回収完了。一度戻るとしよう」
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
「え………何が起こっているんだ?」
周囲では戦闘奴隷達と金属鎧を装備した者達が戦っていた。しかし、戦闘奴隷達は麻布のボロボロな服で無手の者が多い。敵は金属鎧で守りを固め、質のようさそうな長剣を振るっている。
怒号や悲鳴が響き渡る。しかも、街中からも炎と黒煙が空に向かって昇っており、街全体が被害を受けているようだ。
他の戦闘奴隷達が四肢や首を斬り飛ばされ、血飛沫が舞う中、両親の無事を確かめるため、走り出す。
(父さん、母さん無事でいてくれ!)
テントに辿り着くと思わず立ち止まってしまった。テントが血の色で染まっているのだ。
慌てて、テントの中に入る。俺はその光景を目にし、深い絶望感に襲われる。
一人は父さんの首を持って何かを言っている。残り2人は母さんを前後で挟み、金属鎧を脱いで下半身を動かしている。
嫌な想像が頭を過ぎる。過呼吸になりそうなほど、心臓の鼓動が早くなり、胸が苦しくなる。
「ん?誰だお前は?」
父さんの首を持っている男が俺に気づいた。母さんに対して下半身を動かしていた奴らもこちらを向く。
「アレス!に、逃げなさい!」
母さんがこちらを向いて叫ぶ。その姿は一矢纏わな姿で、一目で犯されていたことが分かる。
頭の中が真っ白になる。何も考えられない。
「なんだぁ!お前はこの女のガキなのか?」
「………」
「なんだよ、ダンマリかよ」
「もしかして、お前も混ざりたいのか!?」
「ははは!ほら、おまえも脱げよ!」
彼らの言葉の一つ一つを耳が拾い、頭がその意味を理解するにつれて身体の血が頭に上ってくる。
「ど、どうか!この子だけは見逃してください!」
ダメだ…もう自分を抑えられない。こいつらは父さんを殺し、母さんを犯し、俺を嘲笑っている。
殺してやる………
殺してやる…
殺してやる!
「穿て、雷霆の一撃、
母さんを犯していた手前の奴を狙う。
「やりやがったな!ガキが!」
母さんを犯していた奥の奴と父さんの首を持った奴が長剣を携えて、突撃してくる。
「一瞬で、背後を取れ、
二人の攻撃が空振る。
「グァ!」
一人を背後からナイフを刺しこむ。
『スキル【剣術】Lv.4を獲得しました』
『スキル【農耕】Lv.2を獲得しました』
『
『
『
『既得のスキルは熟練度に加算されました』
絶命したことを確認すると、もう
「グァ!」
『スキル【身体強化】Lv.4を獲得しました』
『既得のスキルは熟練度に加算されました』
「動くな!」
振り返ると、先ほどの
(さっきの攻撃でやられてなかったのか…確かに【強奪】のお知らせはなかった。頭に血が上ったせいで油断した)
「少しでも妙な真似をしてみろ!この女を殺すぞ!」
俺は血塗れのナイフを持ったまま、男を睨む。
「よーし、まずはそのナイフを置け。そして、膝をついて後ろを向け」
俺はナイフをおこうとするが、母がそれを止める。
「アレス!絶対に武器を置かないで!私のことよりもこの男を殺して!」
「で、でも!それじゃ、母さんは!?」
「アレス、貴方はもう12歳。立派になったわ。私と父さんがいなくても十分、生きていけるわ」
「む、無理だよ…」
「おい!ごちゃごちゃとうるせぇぞ!早くしないとお前の母親をーーー」
「アレス!よく聞きなさい!貴方が武器を置けば私とアレンの尊厳を踏み躙った奴らに屈するのと同じよ!何のためにジルガさんとゼリスさんに修行をつけてもらったの!」
「お、おい!」
「アレス、貴方が今しなければならないのは、武器を置くことではないわ!私の命と貴方の命の生殺与奪の権利を敵に与えてはダメ!私達の息子なら敵国を討ち滅ぼすくらいの気概を持ちなさい!」
母さん…それは…とてもきついです。例え、母の言葉でも僕は貴方の命を優先したい。
「アレス…お願いよ。私を辱め、アレンを殺した者達を…」
母さんの瞳から涙が溢れる。最愛の人を殺され、自身を犯した者達への憎しみと怒りが抑えられないのだろう。
母さんの瞳を見つめ、決意する。僕は父さんと母さんの自慢の息子でありたい!だから、必ずこいつらを殺す!
「一瞬で、背後を取れ、
隙だらけの頸部に向かってナイフを刺しこむ。
「グァアアア…」
『既得のスキルは熟練度に加算されました』
「母さん!」
すぐさま母さんを抱き抱える。しかし、首は斬られており、目を閉じて安らかな顔で死んでいた。
「う…うぅ…うわぁあああ!」
母さんを抱き抱えながら泣き叫ぶ。母さんを抱きしめる力がどんどん強くなっていく。
泣き叫ぶ体力もなくなってきた頃に、何が原因でこんなことになったのか思考する。しかし、どれだけ考えても答えはでない。
俺は外の世界を知らない。どんな理由があってこの街が襲われたのか、何故、俺は両親を殺されなくてはいけなかったのか。
冷静になった思考で思った。
(俺から奪った奴らを皆殺しにしてやる!俺から奪う奴は許さない。奪う奴もその家族も全員殺してやる。奪っていいのは俺だけだ。そうだろう?【強奪】よ)
俺は父さんと母さんの死体、敵が使用していた長剣を【空間魔法】に収納し、テントを後にした。
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