讐鬼の強奪者

素振りをする素振り

オスマン帝国・セルジューク編

第1話 転生

 「こんにちは」


 優しく包み込むような声が聞こえた。


 「ん………ここ…は?」


 目の前には美術室にあるような彫像がいた。姿形は女性に見える。


 視線を彫像から外すと辺りは白一色がどこまでも広がる場所だった。


 「初めまして、斎藤一さいとうはじめさん。私は輪廻転生を司る女神、ロセルナと申します」


 「………は、初めまして、ロセルナ様」


 「ふふふ。急に神様と言われても混乱するでしょう。なので、私がこの状況をご説明します。まず、ここは死者の魂を導く場所です。貴方は生前、ご病気で亡くなられてここに来ました」


 「………確かに、私は癌を患い、医師から余命宣告もされてましたが………私は死んでしまったのですね」


 そうか………私は死んでしまったのか。


 「お辛い気持ちも分かります。ですが、希望を持ってください」


 「それはどういう意味でしょうか?」


 「本来であれば貴方の記憶と経験を消去し、魂を地球に転生させるのが私の役割です。しかし、地球への転生を望まない方は別の場所に転生させることができます」


 「………別の場所?」


 「小説や漫画で有名な異世界です」


 異世界!?


 「そ、それはどんな世界なのですか?」


 「魔物やダンジョンが存在し、そこに住まう人々は魔法やスキルで生き抜く、弱肉強食が顕著な世界です」


 なるほど。生前、よく小説や漫画で異世界系を好んで読んでいた。願わくば来世は異世界で生きたいとすら思った。


 「もしかして………これから異世界に転生させるということですか?」


 「貴方が望むのであれば」


 そうか。日本の生活も悪くはなかったが、異世界に転生できるというのなら、是非もない。


 「私は異世界に転生したいです」


 「分かりました。これから貴方が転生する世界は魔物や盗賊なども存在し、生き抜くのが大変な世界です。そこで、貴方が少しでも長く幸せに生きれるように魔法とスキルを一つずつ与えましょう」


 「ほ、本当ですか!?で、ではどんなものが貰えるのでしょうか?」


 「それは貴方が異世界でどんな生活を送りたいのか、想像して考えてください」


 そうだな………何不自由なく生きたい。それには権力や暴力に屈しない力が欲しい。


 魔法やスキルがあるなら、魔物が所持しているスキルを模倣したり、奪ったりしたいな。そして、強く成長したい。


 「スキルは魔物が所持しているスキルなどを奪えるものが良いです」


 「分かりました。貴方には個有能力ユニークスキル【強奪】を与えましょう」


 女神様から大人の拳くらいの大きさの光玉がふわふわと漂ってきて………え!?俺の身体は!?


 視線を下げると、そこにはあるべき身体が無かった。


 (あ!ここは死者の魂を導く場所だ。身体がある方がおかしいよな)


 光玉が俺の魂に触れて溶ける。


 『ユニークスキル【強奪】が魂に定着しました』


 「これでスキルは問題ありません。次にどのような魔法を望まれますか?」


 魔法か…。やっぱり、炎とか雷の方が強そうだよな。でも、いつでも水分補給が可能な水の魔法も良いし、荷物の持ち運びが楽になる空間に干渉できる魔法も良いな。


 悩む………。


 「魔法は………空間に干渉できる魔法でお願いします」


 「分かりました。貴方には【空間魔法】を与えましょう」


 先ほどと同じように光玉がふわふわと漂ってきて、俺の魂に溶ける。


 『マジックスキル【空間魔法】が魂に定着しました』


 「これで魔法も完了しました。これから異世界に転生させますが、転生先はランダムになっております。ご承知ください」


 流石に転生先は選べないか…。でも、スキルも魔法も貰ったし、やり方次第では順風満帆に生活できるだろう。


 「分かりました。魔法とスキル大切に使わさせて頂きます」


 「貴方の未来が幸せであるように願っています。………頑張って生き抜いてください」


 最後の方は聞き取れなかったが、視界が眩しいほどの光に包まれて俺の意識は遠のいていった。


♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 「………ス………レス………」


 何かが聞こえる。


 「………レス………アレス」


 呼ばれたような気がして目を開ける。目の前には女性の顔がある。


 (髪と目の色が赤色でとても整った顔だ)


 優しく俺を見つめる目を見て、この人が母親であることが本能的に分かる。とても美人な母親を持てて私は幸せです。


 「マリア、俺にも顔を見せてくれないか?」


 ん?男の声?父親だろうか。


 「ええ、良いわよ。とても可愛いわよ」


 視界に男性の顔が入ってくる。金髪で金眼のイケメンがこちらを見てくる。


 「どうやら髪は俺に顔はマリアに似たようだな」


 「そうね。でも、きっと将来はアレンに似てイケメンになるわよ」


 ここで俺の父親と母親の名前が分かった。どちらも前世ならモデルになっていそうなほど美男美女だ。


 「そろそろ休憩も終わりだな。仕事に戻ろうか」


 「そうね。また来るからね、アレス」


 二人は俺を置いて離れていく。もう少し一緒に居たかったが、仕事なら仕方ない。先に現状確認を済ませよう。


 まず、首が動かないので目だけで周囲を確認する。


 (うーん…天井がおかしいな。なんというかテントのような感じだ)


 それともこの世界では三角屋根なのだろうか。いや、天井がひらひらしているのはおかしい。


 たまたま、テントの中ということもあり得ないだろう。一体、どういうことか分からないが、それは後々ということで。


 次はステータスの確認をしよう。これは最重要だからな。


 上手く喋られないので「ステータス」と念じてみる。すると、目の前には俺の情報が詳細に表記されたものが現れる。


【ステータス】

 ・名前 アレス

 ・年齢 0

 ・種族 人族


 ・称号


 ・魔力 10


 ・筋力 10

 ・頑丈 8

 ・敏捷 12

 ・知力 10

 ・精神 8

 ・器用 12

 ・幸運 10


【魔法】

 ・【空間魔法】Lv.10


【スキル】

 ・【強奪】Lv.10


 このステータス画面を見て、改めて異世界に転生したという実感が湧いてくる。自分のことなのでしっかりと確認しておこう。


 名前はアレス。前世の神話で見た名前なような気がする。どんな神様だったか忘れたが。


 年齢は0歳で生まれたてほやほやの赤ん坊だ。そして、種族は人間。この世界にいるかは分からないが、エルフや獣人にも憧れはあったんだよな。


 称号は特になし。まだ何も成し遂げてないしな。


 能力値は敏捷や器用が秀でていて、物理と魔法共に防御は薄い。基本的に戦闘になったら、攻撃はなるべく避けて戦うしかない。幸運は普通かな?


 魔法とスキルは女神様にお願いしたとおりだ。一応、詳細説明を見ておこう。


・【空間魔法】Lv.10

 空間に干渉する魔法。異空間に物品を収納したり、短距離や長距離を瞬間移動することが可能。

 

・【強奪】Lv.10

 魔物や人種から能力を強奪するスキル。対象は自身が直接殺したものに限る。


 うーん…【空間魔法】は想像どおりだけど、【強奪】は魔物に限らず、人間も対象に入るようだ。


 あれ?結構危ないスキルなのでは?と思ったが、別に人間を殺さなければ良いだけだし、問題ないだろう。


 ひと通りの確認を済ませたところで眠気が襲ってきた。どうやら頭を働かせすぎたようだ。


 赤ん坊の身体は不便だなと思いつつ、俺は眠りに落ちた。


 



 




 


 

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