第7話。友情。
海は広大だ。先が見えないのは不安でもあるが、希望でもある。
海にも魔物が生息していると聞いた。きっとミミック達もいる筈だと喜んで来てみれば。浜辺を散策しているが、監視員達が定期的に討伐しているらしく何も見当たらない。遊ぶ人達で賑わっているだけ。
監視員達は真っ黒に日焼けし、水着に長剣を装備している。人々を守る勇ましい姿に恋する者が後を経たないそうで、人気職となっているらしい。
「ねぇ。昨日、村長達といた子だよねぇ?」
違う場所を探しに行こうとしたら、二人の少女達から声を掛けられた。
「そうだよ。」
「ウチ、村長の孫なんだぁ。よかったら一緒に遊ばなぁい?」
「アタシらと遊ぼぅよぉ〜。」
露出度の高い水着を着ている2人は、変なポーズをしてきた。僕の腕にまとわりつこうとしてくるが、身を交わし避ける。
「あれっ?」
「ちょっ、なんでぇ?」
「僕はミミックを探しているんだ。じゃあね。」
振り切って逃げようとすると、少女達が呼び止めてきた。ミミック探しで忙しいので歩みは止めない。
「ねえねぇ。ミミックのいる所知ってるよぉ」
「そうそう。おっきいクリオネのミミック。」
僕は少女達の言葉に足を止める。
「案内してくれるかな!?」
「何その変わり方。傷付くんですけどぉ。」
「でもぉ、あそこ危ないしぃ〜。」
「そうそう。守ってくれないと、行けなぁい。」
少女達は互いに抱き合い、僕を上目遣いで見上げてくる。どうにかして案内して貰わないと。ミミックに会いたい!
「案内してくれるだけで良いから。お願いできるかい?」
「いいけどぉ。足元悪いから、転んじゃうなぁ。手、繋いでくれたら案内できるけどぉ。」
「構わないよ。」
「やったぁ!…えいっ!」
少女達がそれぞれ僕の腕に絡んでくる。2日連続でミミックに会えるなんて嬉しいなぁ!期待に胸が膨らむのを抑えきれない。
案内された所は、荒波の立つ岩場。太陽光を乱反射する無数の生物が確認できる。この場所は栄養が豊富のようだ。
「ここのクリオネはぁ、すっごく可愛い見た目なのぉ。でもぉ、噛むかもしれないから触ったらダメだってじいちゃんが言ってるのぉ。」
女の子は波のかかる岩場を指差す。岩肌の凹んでいる場所に住処があるらしい。僕は女の子達の手からすり抜け向かう。
「危ないよぉ!」
「止めときなよぉ!」
「案内してくれてありがとう。危ないからお嬢さん達は戻りなさい。」
「「えっ………。」」
僕は手を岩場に当て辺りを探すと、何か不自然な感触が。手で持てる大きさの箱が岩壁に張り付いている。
力づくで引き剥がすと壊れる危険があるので、爪を使って上手く取る。硬く閉じた箱の蓋を開けてみると、手のひらに収まる程の大きさ。僕の知るクリオネより遥かに大きいものがいた。
花びらのような丸い頭部に長丸の胴体。羽のような翼足(よくそく)。この見た目なら多くの人から好まれるだろう。
「うん。可愛いねぇ。」
クリオネは、威嚇するように頭頂部辺りがパカリと開いて6本の触手が蠢めかせる。口円錐(くちえんすい)ってやつだ。
クリオネの口元に人差し指を差し出してみると、一瞬捕食しようとしたが直ぐに離す。満腹のようだ。
クリオネミミックだ。モチ肌にプニプニした中身。良い。可愛い。
不法投棄された箱に棲みついているようで、他も探すと消化中の個体も複数見つけた。この個体は人の中指を消化中。食の好みもそれぞれみたいだね。
クリオネミミックの生態が知れたので大満足。貰えるモノは無いけど、充分な収穫だ。
箱を元の場所に戻し、濡れた服を乾かそうとしたら。先程の2人がまだ居た。
「ねぇ〜。今日もじいちゃん家泊まるぅ?ウチらと一緒にどぉ?」
「アタシの家なら、誰もいないしぃ。ねぇ?みんなでさぁ。」
そういう感情を向けられると、思い出してしまう。あの頃の悍ましい記憶。
でも、今は違う。
「みんなで、か……それで満足できる?」
僕はそういった類いが好む表情を作る。すると2人は一気に夢中になった。
「あっ…そ、それじゃあ、この子彼氏いるしぃ。アタシの家で2人でぇ。」
「ちょ、ちょっとぉ!アンタ昨日監視員はぁ?あのね、ウチの彼氏旅に出てるの。ぜんっぜん連絡もないしぃ、死んでるかもだしぃ。」
「週一で手紙来てるじゃんっ!」
「アンタもまた誘われたって自慢してたじゃんっ!」
2人は啀み合い、ついには髪の引っ張り合いをし始めた。争いは次第に過激になっていく。
「ふざけんなぁ!」
「とったくせにぃ!」
「僕は先に村長の家に行くから。じゃあね。」
村長の家に向かうと、村長はまだ寝込んでいると言うので簡単に挨拶を済ませて村を離れた。
「さて、次はどんなミミックに出会えるかな。」
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