ゆる

第1話

 可愛い女は私だけで十分。

 一番って響きがいい。一番可愛いって、尚更。


 アニメのワンシーンのカットみたいに。光が美しい朝の廊下。髪を靡かせて振り向いて。目があったら柔らかく微笑むの。ホラ、目が可愛いって言ってくれてる。気分が良い。最高に。


 可愛いって言われたら、1回は否定する。2回目はホント? と首をかしげながら目を合わせる。3回目には照れがちにありがとうを呟いて、次の日には当たり前じゃん、と最高の笑顔で言ってあげる。全部作っているのだから、このくらい微塵もない。


 そんな生活も段々と飽き飽きしてきた。可愛いって言われる回数も減ってしまったし。目線の熱も、他の人に移りつつある。つまんない。両頬を両手で挟んで肘をつく。軽く上唇をとんがらせながらかんがえごと。


 そうだ。痣をつけたらまた注目される。どうせなら、誰かの印象も悪くしてやりたい。誰にしようか。上の人が落ちるのはありきたりで。かと言って下の人でもつまらない。ふーん、そうだ。



 私は何日かして、腕に青々とした痣を描いてきた。私の親友を謳ってる子と目が合えば、軽く挨拶をしたけれど、わざと震えたような雰囲気を出して、そそくさと逃げる。


 ごめんね。一番でいたいから。痣をあなたに見せつけるように逃げる。


「どうしたの、それ」


 ああ、最悪。どうかわそうかなぁ。


「怪我でもした? 襲われた?」


「覚えてないの? 昨日のこと」

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ゆる @yuruo329

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