Episode28 神聖使団





「未来を見る能力、か。凄いね……にしても神聖使団か……」


 カナデの事情、そしてこれから起こる問題を聞き知ったイルは、深い思考に沈むように、顔を俯かせた。


「なあ、イル。神聖使団って一体なんなんだ?都市の人たちの支持は相当なものだったぞ。」


 カナデは神聖使団だと知ったときの、都市民たちの変わりようを思い出して、表情を苦いものにする。

 あの状況になってしまえば、この都市内には恐らく味方になってくれる者は居ない、寧ろ都市民すべてが敵に成り代わってしまうと考えれば、乾いた笑いも出なかった。


「神聖使団。それはアルガディオン教が有する騎士修道会の名前だよ。」


 イルは1本指を立てながら、組織の実態をカナデに教える。


「騎士修道会?」


「簡単に言ってしまえば、アルガディオン教の騎士団ってことかな。」


 カナデが聞き慣れない言葉を思わず口にすると、イルがわかりやすく説明をしてくれた。

 

(なるほど、地球で言うところのテンプル騎士団とか聖ヨハネ騎士団のことなのか。)


 イルの説明を受けて、ガッテンがいったカナデは、そうやって地球のものに当て嵌め考えることで、どういう組織なのかをより自身の中で噛み砕く。


「追い詰められてる状況で、こんなこと言いたくないけど。神聖使団の人気が高いのは当然、積極的に様々な場に出て、慈善活動を行っているからね。」


 イルはなんとも言えない表情を浮かべながら、民たちからの支持を受ける理由を完結にカナデに教える。


「でも、その活動の中でも、オッドアイ関連は今まで不干渉だったんだけど。」


「そうなのか…なんで動き出したんだ。」


「カナデが言ってた、信託ってやつが原因だろうね。」


「信託ってことは神のお告げか?」


 神なんて存在を思い描けば、カナデの内に出てくるのはたった一人の存在だけだった。“もっともあの人は、そんな乱暴なことをする神様じゃないが”、と、セレノアのことを思い出して、カナデは少し気持ちが温かくなる。


「そうだね。ゼフィール神のお告げってことになるのかな。」

 

「ゼフィール、それはどういう神なんだ?」


「この世界の創造神様だと言われてるよ。」


 “創造神ときたか、これはまた大物が”と、カナデはそう思わずには居られなかった。


(俺の悪運もここまで来ると、マジで呪われてるんじゃないか?お祓い行こうかな。)


 この世界に来てからというもの、起こることの何もかもスケールが大きくいい加減、うんざりというものだった。


「ちなみになんだが、この世界では神様が実際に居るっていうのは、一般的なのか?」


 カナデにとってはそこも気になるところ。

 地球においても神を信仰することは、一般的なことであったが、同じくらいに無神論者がいることもまた一般的なものであったからだ。


「?よくわからないけど、カナデの居た世界では神様居なかったの?こっちでは居るっていうのは普通かな、たまに姿を見せることもあるし。」


「…居たには居たかもしれないけど、姿を見せてくれたりとかはないな。」


 イルから不思議そうに問われて、“姿を見せてくれるって、神様そんなにフランクなものなのかよ”と、半笑い気味になりながらも、よくよく考えてみればセレノアは自分の元に現れたし、地球にも神様本当に居たのかもなと、カナデは今まで考えてもみなかったことに思い至った。


「何にしても、神聖使団か。しかもよりにもよって、大司教クラスが動いてくるなんて…本当に厄介だね。」


「やっぱり、強いのか?」


「強いね。神聖使団はアルガディオン教と密接に関わり合っているから、大司教をトップの7人として組織を運営しているらしいんだけど。大司教クラスともなると、この世界でもそのレベルの人は数十人とかそういうレベルだと思うよ。」


「そんなに!?」


「うん、それに…彼ら7人は固有魔法と呼ばれる、世界で唯一の魔法をそれぞれが持ってるんだ。」


 思っていた以上に敵が強敵であるようで、イルに相談したことは、やはり正解だったと、この行動を取った自分自身をカナデは内心で讃えた。

 情報は何にも代えがたいものであることは、本をよく読むカナデもわかっている。情報は選択肢を増やし、自身に新たな武器を与えてくれる。



「なんとか、掻い潜る方法を考えなきゃだな。」




 カナデはイルから与えられる情報を元に、状況打開の思案を続けた。




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