Episode9 寒村の少女とオッドアイ
「失礼します、お昼の支度が整いましたので、こちらにおいで下さい。」
そう呼びかけられ、そちらに顔を向けるとそこには、エフィの姿があった。
「エフィか!ここで働いてるのか?」
イルから話を聞いたところ、任される仕事は大人ほどのものではないが、十代前半でも、この世界では働いている者も多いらしく、それを事前に聞かされていたが故に、エフィがこうやって現れても、カナデは少ない驚きで迎え入れることが出来ていた。
「カナデお兄ちゃん!やっぱり、今日泊まってくお客さんってお兄ちゃんの事だったんですねっ!」
エフィがそう言って、嬉しそうにカナデの側に寄る。
「働いてるのは…はい、そんな感じ、です。」
エフィがそう言うと、カナデが“エフィはえらいなー”と言って再び、頭を撫で始めた。
そして、それを心地よさそうに受け止めるエフィ。
そんな二人の様子を見て取って、イルは、
「二人は本当に兄妹だったりするの?」
そう二人に問いかけた。
それに対してカナデは、
「いや、俺は一人っ子だから。エフィみたいな妹は欲しいけど、でも血の繋がりはないよ?今日会ったばかりだし。」
「今日会ったばっかり!?」
イルはカナデのその言葉に、エフィのオッドアイを見たときよりも、強い驚愕を表情に浮かべた。
「カナデお兄ちゃん、私みたいな妹欲しいんですか?」
「え?あぁ、うん。エフィみたいな妹居たら毎日楽しそうだろ?」
カナデの言葉を聞きつけて、覗き込むような姿勢で問いかけてきたエフィに、カナデはそう言って笑いかける。
するとエフィは、
「じゃあ、私は今からカナデお兄ちゃんの妹ですっ!」
そう言って、満面の笑みをカナデに向けた。
_________
「やっと、来たか。来るのが遅いぞ、この
カナデ達が、ダイニングルームに着くと、いきなり村長がそう言いながら、エフィを蹴飛ばした。
「…も、申し訳ありません。」
エフィは、か細くながら謝罪をする。
「けっ、これだから狂乱の同族は!なんで、この村がお前みたいな奴生かしておいてやってると思ってんだぁ、あぁ!お前が、奴隷として働けるからだよなぁ!だが、それさえ出来ねぇんだったら…お前、わかってるよな?」
「申し訳ありません。次から気を『村長、遅くなった事にお怒りなら、悪いのは俺ですよ。なぜそこまでお怒りかは、俺には分かりませんが。』」
エフィが謝っている最中に、そう言って割って入ったのはカナデだった。
そもそも遅れたと言っても、あの時間少々話した程度で、その時間は数分にも満たなかった。そのためカナデは本当に、暴力に打って出る程に怒る理由を理解できなかったのだ。
「そんな事は関係ないんだよ。こいつは早く連れて来いという俺の命令に背いた、それだけだ。」
村長は有無を言わさずといった様子でそう言う。
「はい、申し訳ありませんでした。次回からはこのような不始末は起こしませんので、どうかご容赦下さい。」
対して、エフィは深々とお辞儀をしながら許しを請うた。
「さっさと下がれ。お前の顔を見ているだけで飯が不味くなる。」
「はい、失礼します。」
カナデはそんな光景を見て、呆然としてしまった。
そんな中でカナデは、“イルはどうだろうか”と、視線を向けた。向けてみれば彼女は俯いていた。そのため、彼女がどんな表情をしているかはわからない。
だが雰囲気から、とても、とても憤りを覚えている事だけは感じられた。
「けっ、あのバカ娘め。あれが自分の子と言うだけでも身の毛がよだつと言うのに……飯が冷めるから早く食べろ。」
村長が機嫌悪そうに食事をしながらそう言った。
(娘?娘と言ったのか!?この男、エフィの父親なのか……)
「すみません。……私は少し、退出させて頂きます。ご飯代はしっかり支払いますので。」
イルはそう言うと、足早に部屋を出ていってしまった。
「俺も失礼します。」
カナデもエフィとイルの後を追い、退出した。
_________
カナデはとても気分が悪かった。自分の妹分たるエフィを蹴ったり奴隷だと言ったりと、とても許せることではなかった。
いや、それより何より理解できないと思った。自分の子供を、だ。自分の子供を、あんなに幼い少女を、なんの悪びれもなく蹴るなど、信じられることではなかった。目の前で理解するのに、数秒の時間を要する程には。
「イル!」
カナデがイルに追いつく、
「そう、これが現実なんだ。………私はしっかりわかっていなかったみたいだ…忘れていたみたいだ…あの時の記憶が薄れていたみたいだ…いや、もしかしたら目を背けていただけかもしれない。私は幸せに浸かりすぎて居た。この、惨状を知っていたのに……」
イルはとても憎々しげにそう言った。その感情は、誰かに対して向けているのではなく、まるで自分に対して向けているようであった。
「何を、言ってるんだ?」
カナデはてっきり、イルは自分と同様に村長に対して憤っていたのかと思っていたが、イルは自分自身に対して、怒りの感情を向けている様なので、カナデは困惑しながらもそう尋ねた。
「目標だ何だ、と。言っておいてこれじゃ、私がそんな事をカナデに説くのはおかしな話だったんだよ。」
何故、その様な考えに成るのかは分からなかったが、その意見に対しては“そんな事はない”と思ったカナデは言う。
「そんな事ない、イルのやっている事は俺よりよっぽど『いや、あのときの私に、カナデにあんなこと言う資格はなかった。…だけど、思い出した。……私はもう思い出したから大丈夫。』」
イルは、カナデの言葉に途中で割って入り、否定した。だが、カナデは否定されたが、それ以上何かを言うつもりはなかった。
イルがとても決意の籠もった眼をしていたからだ。あの目標の事を話した時よりも確実に、明確な決意の籠もった眼をしていた。
カナデにはそう見えたのだ。
それ故に、カナデは尋ねた。
「何を思い出したんだ?」
イルは先程の眼をしたまま言った。
「この世界での“オッドアイ”を持つ者への扱いを」
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